第1回(全4回)
長野県の南部に位置する駒ケ根市
中央アルプス(木曽山脈)と南アルプス(赤石山脈)という二つのアルプスを望む風光明媚なまちとして知られています。その名前は、中央アルプスの最高峰、標高2956メートルの木曽駒ケ岳の麓にあることに由来しています。
駒ケ岳ロープウェイの終点である千畳敷駅は、標高2650メートルに位置し、日本で最も高い場所にある駅です。木曽駒ケ岳は日本百名山、新日本百名山に名前を連ねながら、気軽に日帰り登山ができる山として人気を誇り、全国各地から老若男女を問わず観光客が訪れます。
駒ヶ根ソースかつ丼
今回ご紹介する駒ヶ根ソースかつ丼は、日本で最も有名なカツ丼の一つであり、まちを代表するご当地グルメとして、今や駒ヶ根を訪れる目的の一つとなっています。一般的にカツ丼といえば、玉ねぎを具として卵でとじた、だしの効いた醤油ベースの甘辛い味をイメージする方が多いでしょう。最近ではカツ丼といえばソースカツ丼を指す町が全国各地に点在することが、県民性の違いを取り上げる番組などの影響もあり、広く知られるようなりました。なかでもここ駒ケ根は、地域独特のソースカツ丼の存在を世に広く知らしめる、大きな役割を担ったと言っても過言ではありません。
カツ丼のように、同じメニュー名であっても地域独特の特徴があることに最初に気づかされたのはラーメンでしょう。ご当地ラーメンという言葉で、同じラーメンというメニューでも地域によってこんなに違う、ということが一般的に知られるようになって久しくなっています。さらにB-1グランプリの影響で、ご当地やきそばが大きく注目されたことも大きく、様々なメニューに地域性があることを広く知られるようになりました。
特徴的なご当地グルメを持つまちの市民のあるあるネタですが、上京して料理を注文するとイメージと違うものが出てきて困惑する、店員に苦情を言って逆に恥ずかしい思いをするなどという経験の話をよく聞きます。今でこそ、コンビニなどの影響でカツ丼といえば卵とじ、ということは知っているでしょうが、昔は駒ヶ根出身者もカツ丼を頼んで親子丼のようなどんぶりが出てきて驚いたという経験をしたかもしれません。
駒ヶ根ソースかつ丼の発祥は1928(昭和3)年創業の 「喜楽(現在のきらく)」
さてそもそも駒ヶ根ではなぜカツ丼といえばソースカツ丼なのでしょうか。
駒ヶ根市合併前の旧赤穂村にあった「赤穂駅」(現在の駒ヶ根駅)の駅前でカフェーとして創業しました。「赤穂駅」は1943(昭和18)年に国鉄(現在のJR東海)飯田線の一部として国有化される前の伊那電気鉄道という私鉄の駅。
その駅前で当時流行っていた洋食を出そうと東京からコックを呼び寄せました。ソースカツ丼は洋食の代表的なメニューの一つであったカツライスをヒントに1936(昭和11)年頃から出されているとのこと。現在のスタンダードスタイルであるご飯にキャベツの千切りをのせ、その上にソースにくぐらせたカツをのせるというものでした。このハイカラな料理は当時生糸で栄えていたまちの人々に愛され、
カツ丼といえばソースカツ丼という形で地域に広まっていったのでしょう。
昭和初期に誕生した個性的なカツ丼は、令和の現代に脈々と息づいています。
※一般的な「ソースカツ丼」の表記はカタカナですが、「駒ヶ根ソースかつ丼」は地域ブランドとしてあえて「かつ丼」をひらがなで表記するため、文中ではその表記に従っています。