チェーン店はじめ、長崎ちゃんぽんを売り物にする店に必ずと言っていいほどあるのが皿うどんだ。極細の麺をカリカリに揚げて、その上に野菜たっぷりのあんをかけ、酢や辛子を好みで加えながら食べる、と言うのが一般的な認識だろう。しかし、本場の長崎では、ちょっと違うのをご存じだろうか。
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前回、長崎の「四海楼」でちゃんぽんが誕生したと紹介した。もちろん「四海楼」にも皿うどんがある。頼んでみると、関東で食べる皿うどんとはかなり違うものだった。まず、あんがかかっていない。麺を引き上げてみると、ちゃんぽんと同様の太麺だ。「焼きちゃんぽん」と言うとわかりやすいだろう。
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その調理法は、麺を炒め、具を炒め、少なめのスープを加えて麺にしみ込ませるというもの。まさに「焼きちゃんぽん」そのものだ。スープを加えていることもあって、麺の歯触りも非常にソフトだ。
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改めてメニューを確認すると、やはりこれが皿うどんで、「皿うどん(太麺)」と記されている。そして隣には「炒麺(細麺の皿うどん)」があった。関東で皿うどんと思っていたものは、本場・長崎では皿うどんではなく炒麺だったのだ。
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チェーン店はどうか? それを確かめるべく「リンガーハット」の第1号店を訪ねた。市電の終点・蛍茶屋電停の先、国道34号線の急な坂道をしばらく上り、峠を越えた先にあるのが「リンガーハット長崎宿町店」だ。エントランスには、誇らしげに、「リンガーハット発祥地」の輝くプレートが掲げられていた。
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メニューを見ると、やはり皿うどんは細く揚げた麺が基本のようだ。しかし、長崎皿うどんの下には、関東では見たことがない料理が記載されていた。料理名は「太めん皿うどん」。「モチモチの太麺 ホタテエキス入り」とある。早速注文してみた。
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たっぷりの野菜あんで麺が確認できない。あんの下に箸を入れ、麺を引き上げてみる。確かに太いちゃんぽん麺だ。食べてみるとメニュー通り、もちもちとした非常に歯ごたえのある麺だ。しかもクリスピー。
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確かめると、ところどころ麺に焼き目が付けられている。いや、焼き目と言うより、日田やきそばのように焼き固められている。スープを含ませた「四海楼」の皿うどんにはない香ばしさと、カリッとした独特の歯ごたえがある。
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これに、酢ではなく、ソースをかけて食べるのが本場の流儀だ。ソースはウスター。しかも長崎定番の金蝶ソースだ。クリスピーで香ばしい麺には、確かにスパイシーなウスターソースが絶妙のマリアージュだ。これまで、関東で食べてきた皿うどんは何だったんだろうと思うほど新鮮な味だった。
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長崎市内のちゃんぽんの人気店「金龍」でも皿うどんを食べてみた。メニューを見ると、皿うどん(太麺)と皿うどん(細麺)が併記されている。しかも、太麺が上だ。テーブルにはもちろんソースが用意されている。太麺を注文すると、これまた斬新なビジュアルの皿が登場した。
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麺が見えないほどのたっぷりのあんはお約束だが、その粘度たるや、これまで見たことのないレベルだった。固まっているのはないかと思うほど、たっぷりの水溶き片栗粉が加えられていた。麺は「焦げているのでは?」と一瞬思うほど、強く焼かれている。しかし、金蝶ソースをかけて口に入れると、このカリッとした食感と鼻に抜ける香ばしい香りがなんとも言えない感覚だ。
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3店食べ終えて、長崎で皿うどんと言えば、太麺が基本なのではと思うようになってきた。それを確かめるべく、スーパーの惣菜をチェックすることにした。訪ねたのは島原市にある「スーパー井上」だ。大きな果物がごろごろ入ったフルーツサンドが人気のスーパーだが、ここでも惣菜コーナーで「皿うどん」のラベルが貼られていたのは、太麺の皿うどんだった。
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長崎の後、以前紹介した、武雄・北方ちゃんぽん街道を訪ねた。そこで、皿うどん=太麺は確信に変わった。地元の人気店「常楽軒」のメニューには皿うどんは1種類しかなかった。細麺、太麺の区別はなく、メニューにはただ皿うどんとだけ記されていた。そしてそれは、太麺、ちゃんぽん麺だった。
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しかも、「常楽軒」では焼そばにもちゃんぽん麺が使われている。確かにちゃんぽんをメインにするお店なら、ちゃんぽん麺をちゃんぽん以外の料理に応用してもおかしくはない。皿うどんや焼そばにも同じ麺を使えば、在庫管理も楽になる。とはいえ、安易に麺を使い回しているのかというとそうではない。
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なんと皿うどんではゆでた麺を炒め、焼そばは生麺のまま炒めるという風に調理法を分けていた。ご主人曰く、料理に合わせて使い分けているとのこと。関東では、スーパーの店頭でちゃんぽん麺を探すのはひと苦労だが、九州では、スーパーの店頭には当たり前のようにちゃんぽん麺が並んでいる。
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もつ鍋など、鍋のシメにちゃんぽん麺を使うのも日常茶飯事だ。ちゃんぽん麺が当たり前の土地柄だからこその太麺皿うどんなのだろう。しかし、同じ麺があるのだから、関東のちゃんぽん店でも太麺皿うどんがあってもいいじゃないか。そう強く思った。なぜなら、細麺とは違ったおいしさが、そこには明らかにあるのだから…。