海に囲まれた房総半島。なめろうやくじらのたれなど、海の恵みを生かした郷土料理で知られる。その一方で、日常の食事では、意外に肉を好んで食べたりもする。以前紹介したチャーシュー山盛りの竹岡式ラーメンはその好例だ。ご飯ものにも、地元民に愛される肉たっぷりのご当地グルメがある。「バー弁」と「チャー弁」だ。
「バー弁」とは、木更津にある「吟米亭浜屋」のバーベキュー弁当のこと。地元の人たちは、親しみを込めて、略してそう呼ぶ。「チャー弁」は、「としまや」のチャーシュー弁当だ。どちらも持ち帰りの弁当で、五目弁当的な「おかずいろいろ」ではなく、ストイックなまでに肉に神経を集中させた「肉々しい弁当」だ。
「バー弁」のルーツは駅弁に遡る。木更津駅西口に店を構える「浜屋」が、1962(昭和37)年に木更津の駅弁として編み出した。木更津は、内房から房総半島内陸部へとつながる久留里線の乗換駅であるだけでなく、千葉方面からの列車も多く折り返した基幹駅。停車時間の長い駅には、駅弁は不可欠だ。
「バー弁」は、のり弁スタイル。おかずのスペースはなく、弁当箱一杯に敷きつめたれたご飯の上に秘伝のタレで焼いた豚ロース肉が2枚鎮座する。付け合わせは、箸休めの漬物とフライドポテトのみだ。肉でご飯をがき込むのが基本になる。
40年以上味を守り続ける、肉の旨味が隠し味の秘伝のタレを使い、国産豚のロースを1枚1枚ていねいに直火で焼き上げる。米にもこだわる。2000(平成12)年に、地元の米穀商・泉屋が「浜屋」を買収、全国の米どころの農家から直接仕入れた米の中から、弁当に最も適した米を使用する。
もちろん、肉だけではない。地元ならではの食材を使ったあさり飯も人気の弁当だ。東京湾といえば、あさりが名物。そんな地元産のあさりを、やはり地元の加工場でむき身にし、薄口しょうゆやみりんなどでさっと煮て、ご飯の上にのせて食べる。炊き込みご飯ではなく、ぶっかけ飯のスタイルが特徴だ。深川のあさり丼にも似た、独特のうまさが味わえる。
ちなみに、かつての包装紙を復刻したという「バー弁」のパッケージには、たぬきのイラストが描かれている。一方、「バー弁」と並ぶ、地元のもう一つの人気弁当「チャー弁」を扱う「としまや」の店頭にも動物のアイコンが躍る。カバだ。
「としまや」は、袖ヶ浦市を本社に、千葉市から富津市まで、内房に幅広く直営店を展開する弁当屋チェーンだ。系列店は、内房に限らず、外房や下総にも店舗がある。その人気メニューが、「チャー弁」ことチャーシュー弁当だ。
「チャー弁」の肉に対するストイックさは、「バー弁」をさらに上回る。白いご飯の上には、箸休めの漬物の他にはチャーシューしかない。チャーシューと真っ向勝負の弁当だ。
バー弁のロース肉に対し、チャー弁は豚バラ肉。たっぷりの脂をたくわえたチャーシューを厚切りにし、さらに煮込んで白いご飯の上にのせる。溶け出した豚肉の脂とたれがしっかりしみたご飯が食欲をそそる。
「としまや」にもバーベキュー弁当があり、一方「浜屋」にもチャーシュー丼弁当があり、他にもそれぞれバーベキュー、チャーシューに揚げ物などバリエーション豊かなおかずを盛り合わせた弁当も用意する。毎日お昼が弁当でも食べ飽きない品ぞろえを誇る。房総半島を訪れた際には、ぜひ食べてみてほしい。