原点を味わう 久留米発祥豚骨ラーメン

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しょうゆラーメンといえば東京、味噌ラーメンといえば札幌、そして豚骨ラーメンといえば福岡・博多というイメージが強い。確かに福岡市にはおいしい人気ラーメン店は多いが、豚骨ラーメンが誕生したのは、実は福岡県第3の都市、久留米市だ。

屋台の「南京千両」(2016年撮影)

ご存じの通り、久留米市はゴム産業のまち。地下足袋をルーツに、ブリヂストンがタイヤメーカーとして創業、現在もタイヤや靴の生産で知られる。食文化の面では、やきとり、豚の骨付きカルビなど額に汗して働く工場労働者をターゲットにスタミナ満点のご当地グルメが発達している点が特徴だ。豚骨ラーメンは、1937(昭和12)年に久留米市内で開業した「南京千両」が、中華そばと長崎ちゃんぽんのスープをベースに考案した豚骨スープのラーメンがルーツと言われている。後にこれが、博多や九州全土に広がり、九州ラーメン≒豚骨となっていく。

「南京千両」の豚骨ラーメン

2016年、久留米市中心街の屋台で「南京千両」ののれんを掲げるお店に出会った。発祥当時の豚骨ラーメンは、実は白濁ではなく清湯だった。この澄んだ豚骨スープを受け継いだ店の一つが、誤ってスープを沸騰させまいできあがったのが、現在の白濁の豚骨スープだ。この白濁スープが、小倉や大分県の日田、熊本などに広がっていった。

リニューアルした「沖食堂」

現在の久留米ラーメンは、チェーン展開する「大砲ラーメン」のほか、主に食堂系と国道系に分類される。食堂系はあっさりとしたスープが特徴で、店名に食堂を冠する店が多いことからそう呼ばれるようになった。対して国道系はこってりスープが特徴。主に国道3号線沿いに店を構え、広大な駐車場を有し、トラック運転手に人気が高いことから命名された。

「沖食堂」のラーメン

食堂系の代表格は、地元進学校の明善高校隣にある「沖食堂」。近年、代替わりに伴って店が新しくなった。スープはさらっとしていて、実に味わい深い。豚の骨をぐつぐつと高温で煮出す豚骨ラーメンだが、「沖食堂」のスープは繊細とさえ呼べる芸術的なスープだ。麺は九州ラーメンらしく、細いストレートな麺。食堂系では基本的に替え玉はない。お腹が空いていれば、大盛りで注文する。具は薄めのチャーシューと、これまたスライスされたゆで卵。のりと青ネギも添えられる。並盛りで550円という価格もうれしい。店は新しくなったが、その味は伝統をしっかりと受け継いでいた。

「沖食堂」のピースおにぎり

ちょっと残念だったのは、旧店舗で長年誇らしげに掲げられていた地元出身のロックスター、シーナ&ロケッツの鮎川誠さんの直筆サインが書き込まれたポスターが消えていたこと。先代の手元で大事に保管されているのだろうか。それだけが少し残念だった。

「沖食堂」のセットのやきめし

久留米では、ラーメンやうどんにご飯を添えて食べる人が多い。ラーメンは汁物感覚なのだ。新生「沖食堂」では、一時メニューから消えていたやきめしも復活した。たとえ九州人でなくとも、名物のグリーンピースの入ったおにぎりはぜひ添えてほしい。いい塩梅の塩味のおにぎりが、芸術的なスープにぴったりだ。

「ひろせ食堂」のセット

食堂系のもうひとつの雄「ひろせ食堂」のラーメンとやきめしのセットは、それぞれ1人前ずつの満腹セットだ。決して「半チャンラーメン」ではない。食べるに際しては、じゅうぶんにお腹を空かせてから臨むことをおすすめする。

国道3号線沿いにある「丸星中華そばセンター」

一方で国道系の代表格は「丸星中華そばセンター」だ。久留米市中心部から国道3号線を北上、久留米大橋で筑後川を渡った先にある。まちなかから外れた、駅も最寄りの西鉄宮の陣駅からだと結構な徒歩になる。まさに国道利用者、ドライバーのためのラーメン屋だ。

「丸星中華そばセンター」のこってりラーメン

NHK「ドキュメント72」でも取り上げられたが、「丸星中華そばセンター」は24時間営業で知られる。深夜でも早朝でもこってりスープの豚骨ラーメンが食べられる。国道沿いに複数ある駐車場は広大で、大型トラックでも駐車可能だ。

「丸星中華そばセンター」のおでん

ラーメンは1杯450円。いかにもこってりなどろっとした白濁スープだ。24時間営業ということもあり、時間帯によっては濃度が違うというのが、地元ファンの声だ。「今日はどんな味だろう」というのも、ファンの楽しみの一つという。麺はやはり細めのストレート。麺2玉のWラーメンもある。食堂系とは対照的に替メン=替え玉があるのが国道系だ。トラックドライバーの空腹を存分に満たしてくれる。具はチャーシューにのり、青ネギとシンプルだ。漬物と紅ショウガは食べ放題。おでんがあるのも、やはり国道系の特徴だ。

佐賀県基山町にある「丸幸ラーメンセンター」

国道系のもうひとつの雄は「丸幸ラーメンセンター」。「丸星ラーメン」からさらに北上、県境を越え、佐賀県の基山町に位置する。現在こそ佐賀県で営業するが、そもそも創業地は久留米。国道3号線沿い、広大な駐車場、こってりのスープ、紅ショウガと並ぶ食べ放題のお新香、豊富なメニュー……そのいずれもが「丸星ラーメン」と共通する。

「丸幸ラーメンセンター」のラーメン

「丸星ラーメン」ほど濃厚ではないが、かといって食堂系ラーメンの洗練されたスープともまた違う味だ。どちらかといえば、トラックドライバー好みのがっつり系だ。

国道系ラーメンはトラックドライバー御用達

この他にも、老舗から新興店まで、久留米市内には多くのラーメン店が軒を連ねる。「丸星ラーメン」など、久留米ラーメンとしてインスタント麺が県外でも流通している店もある。都市規模、知名度こそ福岡・博多の後塵を拝するが、発祥の地だけに、一度は食べておきたい名店も多い。西鉄の特急なら福岡から30分、九州新幹線なら博多からわずか2駅だ。豚骨ラーメンの神髄を究めるなら、ぜひ久留米まで足を伸ばすことをおすすめする。

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