タマネギたっぷり 「八王子ラーメン」

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東京のご当地ラーメンというと、真っ先に思い浮かべるのが鶏ガラスープをしょうゆで味付けしたスープで食べるしょうゆラーメンだろう。また下町を中心に、たっぷりの野菜をあっさりスープでまとめたタンメンも東京ならではのご当地ラーメンとして知られる。いずれも都心がその中心地だが、東京西部にも個性的なご当地ラーメンがある。八王子ラーメンだ。

脂が浮く「びんびん亭本店」のスープ

八王子ラーメン最大の特徴は薬味のタマネギ。ラーメンは一般的に薬味として細かく切った長ネギを散らすが、八王子の場合、それがみじん切りにしたタマネギになる。ただし、タマネギを使う以外は、極めてオーソドックスなしょうゆラーメンだ。あっさり味が基本だが、スープの表面には脂も浮かぶ。

麺はいずれもストレートだった

八王子ラーメンの聖地と呼ばれているのが子安町。JR八王子駅の南側、カーブするJR横浜線の線路に横たわるように広がる一帯だ。タマネギが特徴の八王子ラーメンは、この子安町で1960年代に誕生したという。発祥は、以前子安町で営業していた「初富士」といわれている。北海道で出合ったタマネギに触発され、ラーメンの薬味としてタマネギを使うようになったそうだ。現在は中野上町にあるが、訪ねてみたところ「しばらく休業します」の張り紙が貼られていた。

子安町の「びんびん亭本店」

また、子安町にはかつて製麺所があり、近隣のラーメン店は子安町生まれの麺で八王子ラーメンを調理していたという。残念ながら、製麺所はすでに店を閉めた。そんな子安町には今なお何店かの八王子ラーメンの人気店が営業している。その中の一つ「びんびん亭本店」を訪ねた。八王子駅南口から徒歩ですぐの場所にある。八王子らしさを味わうべく、薬味ラーメンを注文した。

「びんびん亭本店」の薬味ラーメン

数種類の魚介をブレンドしたしょうゆをベースにしたたれは、連日の継ぎ足しで深い味わいを持つ。砕いたとんこつと野菜、果物と数種類の魚介をじっくり煮出しただしを加えたスープは、あっさり味を標榜する八王子ラーメンの中にあってはしっかり目の味付けだ。仕上げにラードを加えることで、深いコクを作り出す。

甘みさえ感じる

薬味ラーメンの「薬味」とはもちろんタマネギのことだ。ラーメンにトッピングされる北海道直送のタマネギが大盛りになっている。細かくみじん切りにして熱いスープにトッピングすると、タマネギの刺激が一気に和らぐ。熱が加わることで、甘みさえ感じるほどだ。このタマネギをたっぷりと中細のストレート麺にからめてすすると「これぞ八王子ラーメン」の味わいになる。

子安町の「タンタン」

子安町ではもう1軒、「タンタン」を訪ねた。地元では行列店として有名で、訪れた日も、11時半にはすでに長い行列ができていた。店内は非常にコンパクト。しかし、メニューはラーメンのみなので、意外に回転は速い。カウンターの中では、女性スタッフが調理を担当していた。

「タンタン」のミックスチャーシューメン

チャーシューメンが人気だという。チャーシューはロースとバラの2種類があり、チャーシューメンはどちらかを選ぶか、両方入ったミックスを注文することになる。今回はミックスを注文した。

タマネギは控えめ

運ばれてきたラーメンは極めてシンプルだ。八王子ラーメン最大の特徴であるタマネギも、控えめにちょこんと盛られている。八王子ラーメン=タマネギを知らずに食べたら見過ごしてしまいそうなほどだ。トッピングはあとメンマとチャーシューのみ。一見ではご当地ラーメンとは見えないほどオーソドックスだ。

黒っぽいスープ

麺は中細のストレート麺。あえて個性を探すならスープの色とメンマが黒っぽい点だろうか。しかし、その色ほど味はしょっぱくはない。「びんびん亭本店」と比べると、非常にあっさりとした味わいだ。今回は普通盛りを頼んだが、大盛りの盛り具合が人気のようで、券売機をチェックすると「大」は麺1.5玉「特大」は2玉「超特」は2.5玉とある。かなりのボリュームだ。しかも麺だけでなく、チャーシューもサイズに合わせて大きくなるという。

人気が高い「タンタン」のチャーシュー

タマネギ控えめの「タンタン」を食べ終えて、改めて八王子ラーメンらしさはタマネギにあると感じた。そこでもう1軒、タマネギを存分に味わえる店を探し出して訪ねた。八王子から横浜線でひと駅、片倉駅前にある「えびす丸」だ。

片倉駅前の「えびす丸」

「えびす丸」もやはりオーソドックスなしょうゆラーメンだった。濃いめの「びんびん亭本店」と「タンタン」と比較すると、どちらかというと「タンタン」に近い控えめな味付けだった。しかし、かなりラードが効いている。カウンター越しに覗くと、たれを入れたどんぶりにだしを張り、その上から結構な量のラードを注いでいた。

「えびす丸」の中華そば玉ネギ増

メニューは、シンプルな中華そばに、ネギラーメン、チャーシューメン、ネギチャーシューメンというバリエーションだが、オプションとして、100円増しで「のり増」と「玉ネギ増」を注文できる。食べたのは中華そばの「玉ネギ増」だ。面白いのは、メニューには「玉ネギ増」と表記しながら、店内では「薬味増」と呼ばれていることだ。八王子ではタマネギは具ではなく薬味ということだろう。

辛みは皆無

まさにタマネギ山盛りだ。見るだけで涙が溢れそうだが、タマネギの下からやはり中細のストレート麺を引き出しながら食べると、辛みは皆無だった。スープに浸すうちに「びんびん亭本店」同様、甘みが膨らんでくる。

甘みが膨らむ

確かに「薬味」程度の量では、どこにでもありそうなしょうゆラーメンだが、タマネギを増量すると、他のまちにはない八王子特有のラーメンになるから不思議だ。人口57万人、都心23区を除けば、都内でも突出した大都市の八王子だけに、タマネギ入りしょうゆラーメン以外のラーメン店も多い。とはいえせっかく八王子でラーメンを食べるなら、ぜひ八王子ラーメンのお店を訪ねてほしい。そして、薬味増でその魅力を味わってほしい。

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