シュウマイは挽肉などを小麦粉の皮で包んで蒸す、ギョウザと並ぶ、日本で最もポピュラーな点心のひとつだ。焼いたり揚げたり、皮を細かく切ってまぶしたりという調理法もあるが、少なくとも肉や魚のあんを皮で包んで加熱するというスタイルはおおむね全国共通だ。ただし、北関東の一部地域を除いて。
栃木県足利市のシュウマイには肉がない。同地のシュウマイのあんは、みじん切りにしたタマネギと片栗粉を練ったもの。これを皮で包んで蒸し、地元産のソースをかけて食べる。片栗粉はジャガイモのでんぷんなので、水分を加えて練ると「くにゅっ」とした食感になる。肉や魚介のミンチと違い、口の中でほどけることはない。
足利の「大日茶屋」では、そんな独特のシュウマイが人気メニューだ。揚げと蒸しがある。蒸したてをいただくと、しんじょうなど魚の「練り物」のような歯触りがある。足利では、これにラードなどを加えて、肉の風味を演出しているという。
揚げは、皮がカリっとして、中身の「くにゅっ」とした食感とのコントラストが不思議な魅力だ。いずれもソースをかけて食べる。
足利市に隣接する群馬県桐生市のシュウマイは皮すらない。ジャガイモのでんぷん、タマネギ、豚の背脂などを練ってだんごにしたものを、そのまま蒸して食べる。調味料はやはりソースだ。
桐生のシュウマイを全国的に有名にしたのは「コロリンシュウマイ」だ。団子状のあんを皮で包まずに蒸すため、コロコロと球状になったシュウマイを「コロリンシュウマイ」と命名したという。地元民に愛されるとともに、テレビや雑誌などでも取り上げられるようになり、知名度が上がった。
実際に「コロリンシュウマイ」に行って食べてみた。まずはソース味で食べる通常のコロリンシュウマイ。上には青のりがかかっている。食感は「大日茶屋」以上に「くにゅっ」とした食感だ。背脂が入っているからだろうか、ほんのり肉の香りがする。ただ、脂なので、肉の食感はない。
カレーコロリンは、ソースの代わりにスパイシーなカレーソースがかかる。青のりはかけない。カレー特有の香りは、ビールに合いそうだ。
桐生市内にはもう一軒、同様のシュウマイを食べさせる店がある。「大澤屋」だ。桐生市立南小学校のすぐそばにあり、おなかをすかせた子供たちの安くておいしいおやつが、「大澤屋」のシュウマイなのだ。
数人入れば立錐の余地もなくなるような小さなお店だが、奥にキッチンがあり、皮のないシュウマイを手作りしている。形はコロリンとは違い、繭のような横長だ。1個30円が、いかにも「学校前の駄菓子屋」価格だ。これを爪楊枝で食べる。見た目は素朴だが、奥深い味わいだ。粉を水で溶いたものを加熱して食べる、いわゆる「粉もの」だが、粉っぽさや粉臭さはみじんもない。
えび入りもある。形はやや小さめで、中に干しえびが入っている。話し好きのおかあさん同様、素朴だが奥深さが味わえる。麦茶をすすりながら、おかあさんの昔話を聞いていると、小学生の頃に戻ったような感覚が味わえる。初めてなのに、懐かしい味だ。
興味深かったのは足利市にも桐生市にも隣接する群馬県太田市にある太田焼そばの人気店「清水屋本店」のシュウマイ。ご主人の話では「桐生風」とのことで、皮つきのソースがかかったシュウマイだった。何気なく口の中に放り込むと、まごうことなき、あの中華料理で食べる肉シュウマイの味わいだ。
「なんだ、普通のシュウマイじゃないか」と、箸で割ってみて驚いた。あんではなく、あのくにゅくにゅの「粉ものシュウマイ」なのだ。微妙に「くにゅっ」感が弱く、さらにしっかり肉の味がする。中を確かめなければ、普通にシュウマイの味だ。
足利も桐生も、そして太田も、やきそばにじゃがいもが入るエリアだ。ジャガイモに衣をつけて揚げ、ソースで食べるいもフライも一般的だ。この個性的なシュウマイの背景には、じゃがいも好きが深く関係しているようだ。