加古川かつめしは、兵庫県加古川市とその周辺のごく限られた地域で食べられているご当地洋食だ。洋皿に盛ったご飯の上に、叩いて薄く伸ばした牛かつをのせ、デミグラスソース系のたれをかけたもの。カツライスと呼ばれることもある。戦後間もない頃に加古川駅前の食堂で考案されたという。お箸で食べるのが流儀で「気軽に食べることができる洋食」がそのコンセプトだ。
現在は、加古川市やその周辺の多くの飲食店でメニューにのり、スーパーでは、家庭用のたれも販売されている。さには、学校給食のメニューにも取り入れられるなど、地元では非常に親しまれている洋食だ。近年は、牛かつやとんかつだけでなくチキンかつ、エビフライなどかつのバリエーションも増えてきている。
2012年に福岡県北九州市で開催された北九州大会からB-1グランプリにも出展、限られた地域の食文化でありながら、その知名度は一気に広がった。実際に加古川を訪れて、地元の味を確かめてみることにした。
まず向かったのは、かつめし専門店を謳う「本家かつめし亭」。同店は、市内のかつめし提供店の中でも、特にかつめしにこだわっているという。まずはかつに使用する牛肉。黒毛和牛A5ランクの肉を使った特選かつめしは特に自慢という。
価格や提供のスピードにもこだわるというが、確かに注文後、間を置かずにかつめしが登場した。同店自慢の特選かつめしも気になったが、最初はデフォルトの味を確かめるべきと、並かつめしの並盛りを注文した。ソースとキャベツは無料で大盛りにできるとのことだったが、こちらもデフォルトで注文した。
かつは事前に想像していたものより厚さがあった。とはいえ、食べ慣れた関東のロースとんかつのようなしっかりした厚みでもない。もちろん、最近東京でも増えてきた京都風のレアな牛かつともまた違う、庶民派感覚の牛かつだ。1人前780円という価格設定もうれしい。
キャベツはゆでキャベツだ。一部千切りキャベツを使う店もあるようだが、B-1グランプリでもゆでキャベツが添えられていた。ゆでキャベツが基本のようだ。米にもこだわる。香りと光沢、そして食味の良さが特徴の兵庫県産ひのひかりを使用する。
そして味のカギを握るソースにも徹底してこだわる。35年にわたり味を守り続けてきた秘伝のソースだ。豚骨と鶏ガラをブレンドし、多種多様な野菜を合わせ、まる2日じっくり煮込んで取ったダシがベース。これを牛かつに合うように、とろみを加えてデミグラスソースが完成する。ちょっと酸味のある、意外にさっぱりとした味わいだ。
次に向かったのはJR加古川駅。まさにまちの玄関口で、新快速も停車する市の中核駅だ。駅前には商店街が連なる。その商店街の一角にあるのが、老舗の喫茶店「エデン」だ。
そもそもかつめしは、駅前の食堂で誕生したもの。場所柄、ルーツの味を継承していることが期待できる。地元の人たちからも「いにしえの味を受け継ぐ」との声を聞く、かつめし提供店の中でも人気店の一つだ。
料理名は、かつめしではなくカツライスだった。これも老舗のこだわりなのだろうか。かつが2枚になるダブルやヒレ肉を使った牛かつも選べる。さらにはエビフライ、牛かつとエビフライのコンビネーションによるカツライスも選べる。バリエーション豊富だ。
「本家かつめし亭」同様、ここでもデフォルトのカツライスを注文する。喫茶店のランチメニューにもかかわらず、味噌汁付き(ランチタイム限定)。もちろん、ナイフとフォークではなく、紙袋に入った箸が添えられている。
ゆでキャベツではなく、サラダがつく。しかもドレッシングがけ。千切りキャベツの上にレタス、さらにはかいわれも。ポテトサラダ付きだ。これが、かつめしとカツライスの違いなのだろうか。喫茶店のランチとしてはボリューム満点。ちょっと薄め、しっかり火の通った牛かつだ。
味のカギを握るデミグラスソースは、マイルドな味わい。しかもたっぷりかかっている。すぐにかつの衣に染みこんで、衣が牛肉からはがれてしまうほど。ふと壁のメニューを見ると「かつカレー」の文字が目に飛び込んできた。そうだ、かつめしというよりは、このカツライスはかつカレーの感覚だ。単にデミグラスソース味の牛かつがのった皿メシではなく、まさしくカレールーのように、デミグラスソースとご飯のマリアージュを味わう、いわば「かつハヤシライス」だと感じた。
今回は2店を食べ比べたが、「本家かつめし亭」のホームページにも「加古川あたりにはたくさんの『かつめし』を出す店があり、いろんなスタイルのかつめしがあります」とある。ぜひまた別の店で、加古川かつめしを食べてみたいと思った。