ほんのり甘いおやつ感覚 「伊勢崎もんじゃ」

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もんじゃは、ゆるく水溶きした小麦粉を鉄板で調理、めいめいのヘラで熱々を食べる浅草発祥のご当地グルメだ。浅草発祥だけに東京の下町がその中心地だが、そこをスタート地点に埼玉県さらには群馬県東部や栃木県南部にまで提供する店が広がっている。この地域は、浅草を起点とする東武鉄道のルートと一致する。北関東のもんじゃの中でも特によく知られている伊勢崎もんじゃは、まさに東武電車に乗って浅草から同地に伝播したと言われているもんじゃだ。

ヘラを使って食べる

これまで紹介してきたように、上州・群馬県は、関東でも有数の麦食地帯だ。米の裏作として生産されていた麦が非常に豊かだった。加えてかつて上州から信州にかけては養蚕が盛んだった。豊かな絹糸生産を背景に、伊勢崎は、江戸時代には太織の産地として知られ、明治以降は「伊勢崎銘仙」が全国的に有名になり、織物のまちとして発展した。そうして誕生した伊勢崎の旦那衆が、織物の取引のために、1910(明治)年に開通した東武伊勢崎線でさかんに上京するようになる。そして、浅草で食べたもんじゃを伊勢崎に持ち帰る。

「しんちゃんち」は駄菓子屋

ちなみに、江戸末期から明治にかけて物資が不足していた時代、紙や習字の道具をなかなか手に入れることができなかった子どもたちは、小麦粉を水に溶いた生地で鉄板に文字を書いて教えたり遊んだりしていた。「文字焼き」と呼ばれたが、それが転じてもんじゃ焼きとなったと言われている。伊勢崎のもんじゃも子どもとの結びつきが強い。伊勢崎でもんじゃは駄菓子屋で食べるものだったという。小学校のそばには、子どもたち相手の駄菓子屋があり、その店の一画に焼き台をしつらえ、子どものおやつとしてもんじゃを提供していたのだ。

駄菓子屋「サッちゃんち」では七輪でもんじゃを焼く

伊勢崎もんじゃの特徴はその味付け。一般には「あま」と「から」そしてそれを合わせた「あまから」という選択肢になる。「あま」には何と、かき氷用のいちごシロップが入っている。東京の下町でも、子どものおやつとしてシロップなど甘みを加えたもんじゃが食べられていたようだが、現在はあまり一般的でとはいえない。しかし、伊勢崎では「あま」がデフォルトのもんじゃだ。

「から」はカレー粉入り

「から」はトウガラシ系の辛味かと思っていたが、カレー味だった。キャベツや揚げ玉などの具が入ったゆるい水溶き小麦粉にカレー粉が振りかけられている。「あま」とは対照的に、カレーもんじゃは、東京の下町でもけっこう食べることができる。現在の東京で、もんじゃ焼きは、小腹を満たすものというよりは、酒の供のイメージが強い。その意味で、カレー味は一般的と言えるだろう。

「島田もんじやき」は小学校の目の前

実際に伊勢崎でもんじゃを食べてみると、あくまで小腹を満たす、明るいうちに食べるものということがよく分かる。まず向かったのは「島田もんじやき」。駄菓子屋ではなくもんじゃの専門店だが、通りを挟んだ店の目の前は、伊勢崎市立北小学校。お店の「立ち位置」は、明確だ。

「子どものおやつ」が大前提?

営業時間は、平日は11時半から、土日は11時から、いずれも17時まで。もちろん酒の提供はない。しかも、「あま」「から」ともに180円からという価格設定だ。営業時間の面からも、価格設定の面からも「子どものおやつ」が大前提であることが分かる。

ベビースターラーメンを入れると食べ応えが増す

水でゆるく溶いた群馬県産の中力粉にたっぷりの天かす、みじん切りのキャベツ、その上に青のりと細く割いたさきいかがトッピングされている。好みで卵を入れたり、ベビースターラーメンを追加することもできる。丼に盛られたこの「たね」をまずはしっかりと混ぜ合わせる。このときふわっと甘いいちごシロップの香りが立ち上がる。

「島田もんじやき」の「あま」

そして熱した鉄板の上に流し入れる。広がった水溶き小麦粉がうっすらピンク色なのがいちごシロップの証拠だ。「土手」をつくるかつくらないかは食べる人次第とのこと。「島田もんじやき」では土手にこだわらない。水溶き小麦粉はかなりゆるいので、大きなヘラで、常に鉄板の中央へと寄せていないと、鉄板の端にまで広がってしまう。

うっすらピンク色

寄せて寄せてを繰り返しているうちに水溶き小麦粉の水分が飛び、粘りが出てくる。しばらくするうちに、それまで広がらないよう寄せるために使っていたヘラで、今度は鉄板に焦げ付かないように力を込めてはがすようになってくる。こうした段階になると、ソースの焼ける香ばしい香りが立ち上がってくる。香ばしさが立ったら、小さなヘラで鉄板に押しつけながらいただく。思っていたほど甘くはない。焼けたソースの香ばしさの中に、ふんわりと甘さが立ち上がってくる。

ソースの焼ける香ばしい香りが

「から」も同様に焼く。カレーの香りと焼けたソースの香ばしさが食欲をそそる。「から」ならビールと一緒に食べても美味しいはずだ。とはいえ、次から次へと来店する地元客の多くは子ども連れだ。ここで「ぷしゅっ」は似合わないだろう。

駄菓子屋の中に焼き台がある「しんちゃんち」

もう1軒、JR両毛線の線路沿いにある「しんちゃんち」も訪れた。こちらは駄菓子屋スタイルだ。駄菓子が並ぶ棚の脇に、2台の古い木製の焼き台が並ぶ。ここで、自らもんじゃを焼く。「しんちゃんち」では、「あまから」を注文した。いちごシロップとカレーを一緒に入れてある。ちょっと違和感を感じる組み合わせだが、食べてみると全く違和感はなかった。むしろ美味しい。

あまからにベビースターラーメンをトッピング

トッピングとしてベビースターラーメンを加えた。ゆるい水溶き小麦粉の中で、ベビースターラーメンもまた水分を吸って膨らんでいく。トッピングのせいか、それとも小麦粉の量が多いのか、「島田もんじやき」に比べて明らかに食べ応えがある。キャベツも大ぶりに刻まれていて、けっこうお腹が膨れてくる。ちなみに線路を渡ると、目と鼻の先は、伊勢崎市立殖蓮小学校だった。

いせさきもんじゃセット

市内の「JA佐波伊勢崎 ファーマーズマーケットからかーぜ」などでは、自宅で気軽に食べられるいせさきもんじゃセットも販売している。ホットプレートさえあれば、自宅でも伊勢崎ならではのほの甘いもんじゃが味わえる。とはいえ、駄菓子屋の店先だったり、学校前だったり、その雰囲気とともに味わうのが伊勢崎もんじゃのベストな食べ方だろう。都心からもそう遠くない。伊勢崎まで、もんじゃを食べに行くのもいいかもしれない。

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