佐用町は、兵庫県の南西部に位置し、岡山県とも県境を接するまちだ。北から南に佐用川など千種川水系が中央部を貫き、姫路から松江に至る出雲街道と同じく姫路から鳥取に向かう因幡街道が分かれる交通の要衝でもある。そんな佐用のご当地グルメが、佐用ホルモンうどんだ。
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鉄板でホルモンや野菜をうどんとともに焼いて、店ごとに違うつけダレで食べる、一風変わった鉄板料理だ。ホルモンうどんというと、JR姫新線を通じて県境を越えてつながる岡山県津山市のご当地グルメでもあるが、津山が鉄板焼きながらも、調味をして皿盛りで食べるのに対し、佐用は鉄板からそのまま、つけだれに浸しながら食べるという違いがある。
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その詳しいルーツは定かではないが、誕生したのは、戦後になってからという。戦後に畜産が盛んになり、副産物であるホルモンを使った鉄板焼きが登場。より腹持ちをよくするために、野菜、そしてうどんが加えられるようになり、やがて町内でよく食べられるようになったという。
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実際にホルモンうどんを食べてみることにしよう。地元で、食によるまちおこし団体・ホルモンうどん食わせ隊など様々な地域活性化の事業に取り組む千種和英さんに案内されて訪れたのは、佐用川沿いにある名店「一力」。女将さんが一人で切り盛りする、鉄板を囲むように7人も入れば満員になってしまうような小さなお店だ。モルモンうどんを注文すると、さっそく女将さんがホルモンを炒め始める。
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ホルモンは様々な部位が入った牛のホルモンだ。そこへたっぷりの野菜を投入、さらに熱を通していく。最後にうどんを投入。その際、食べる人数や腹具合によって、うどんの玉数を変えていく。軽く味を調え、うどんに焼き目が付いたらできあがりだ。
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佐用ホルモンうどんの最大の特徴はつけだれ。鉄板焼きのたれよろしく、各人に小皿で、創業当時から受け継がれているというニンニクの効いた自家製味噌だれが配られる。そこに鉄板からたぐりよせたホルモンうどんをワンバウンドさせてからいただく。そのまま食べてもおいしいホルモンうどんが、この味噌だれと合わさると、いっそうビールが進む。
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食べ進むうちに、味噌だれが足りなくなってくる。頃合いを見計らって、女将さんが小皿にたれを注ぎ入れてくれる。コンパクトなお店だからこその、女将さんの気遣いがうれしい。
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河岸を変えて「ホルモンうどん・鉄板焼き ふじ」へ。同店は、つけだれが味噌としょうゆ2種類ある。基本は2つを合わせて食べる。JR佐用駅に近く、ひっきりなしに客が訪れる。
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驚かされたのが、テイクアウトだ。とにかく次から次へとテイクアウトの注文が続く。コロナ禍のせいかと思ったがさにあらず。佐用では、ホルモンうどんを自宅で食べることが珍しくないという。しかし、はじめから家庭で作るのではない。焼き上がったホルモンうどんを店から持ち帰り、改めてホットプレートなどにのせ、たれをつけながら食べるのだという。
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もちろん、テイクアウト用の容器もあるのだが、多くの常連客は鍋持参で店にやってくる。そもそもボリューム満点の佐用のホルモンうどん。それがファミリーサイズとなると、かなりの量だ。鍋もちょっとした寸胴のようなサイズだが、店のスタッフも慣れた手つきで、ふたに輪ゴムを掛けて、こぼれないようにパッケージする。つけだれは、別途大きなボトルが付いてくる。
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かつては首都圏でも、鍋やボウルを持参でお豆腐などを買いに行ったものだが、このホルモンうどんの持ち帰り方が佐用流なのだという。ある意味、SDGsの時代にぴったりのテイクアウト方式だ。
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「一力」ですでにホルモンうどんを食べていたので、まずはホルモン炒めで、しばらくは飲みに専念する。そろそろ、佐用を離れる終電の時間が近づいてきた。最後はもちろん、もう一度、ホルモンうどんを食べることにしよう。
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とはいえ、すでに2玉食べた後だけに、うどん・そば各1玉のミックスでホルモンうどんを調理してもらった。中華麺でつくった「ホルモンやきそば」もなかなかのおいしさ。基本はうどんだが、2食目以降には、こうした変化球も楽しんでみるといいだろう。
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2009年8月には、豪雨による水害で、死者18名、行方不明者2名にもおよぶ被害に見舞われた佐用町。あれから10年余を経て、2013年に訪れた際は、まだ真新しいコンクリートだった堤防もずいぶんと町の風景になじんできたように思えた。穏やかな山や川の眺めには心が和む。新たに、岡山・津山のホルモンうどん研究会との交流もスタートするという。ぜひ訪れて、佐用ならではのホルモンうどんに舌鼓を打ってほしい。