三浦半島の先端に位置する三崎港。江戸へ向かう廻船の寄港地や風待港として栄え、さらには近隣の魚介類を集めて江戸へと送る集積地としても栄えた。日本を代表するまぐろの水揚げ港としても知られている。食の面でも、そんな三崎の「顔」とも言えるまぐろ料理の数々や、ご当地グルメとしては、三崎まぐろラーメンも知られている。そんな三崎のまちには、まぐろに隠されたもうひとつのご当地グルメ、ソウルフードがある。カレー焼きうどんだ。

発祥は、かつて三崎にあったという飲食店「田毎」。地元の人々がお昼などに通う店で、カレー味を効かせた焼きうどんが人気だったという。「田毎」が閉店してすでに長い時間が経っているが、その味は、地元の人々に食べ継がれ、今や三崎のソウルフードと呼ばれるほどの人気を誇る。今回取材した際も、三崎の皆さんは、カレー焼きうどんは日本全国どこにでもある、ごく当たり前のメニューという認識を持っていた。それほど三崎の人々の舌に深く刻み込まれた味なのだ。

商店街にある「居酒屋きぬ」で、昔ながらのカレー焼きうどんを調理していただいた。同店は、オープンしてまだ間もない居酒屋だが、女将さんが幼い頃から慣れ親しんできた思い出の味を、飲んだ後のシメのメニューとして提供しているとのことだ。

まずはコンロでフライパンと鉄板を温める。「居酒屋きぬ」は、以前は洋食店だったそうで、そこで使っていた鉄板焼き用の鉄板も引き継いだことから、カレー焼きうどんに流用したそうだ。後で紹介するが、現在、カレー焼きうどんを代表する存在である「上州屋」でも、鉄板で提供されている。カレー焼きうどんは熱々の鉄板で食べるのが基本のようだ。

フライパンにはまず豚肉の細切れ、続いてたっぷりのキャベツを投入する。キャベツと大根は、三浦半島を代表する農産物だ。この日、京急三崎口駅から三崎港へと向かう道の周囲には、見渡す限りのキャベツ畑が広がっていた。地元で獲れる新鮮なキャベツをたっぷりと使う。

豚肉とキャベツに火が通ってきたら、うどんを投入する。麺をほぐすように、さっとだしつゆを掛けて、火を通していく。そこで登場したのが、カレー粉だ。おなじみ、S&Bのあの赤い缶だ。これを、フライパンにさっと振りかける。途端にカレーのいい香りが立ちこめる。

カレー粉がフライパン全体に行きわたったらできあがりだ。隣で温めていた鉄板に盛り、そこへ生卵を割り入れる。この最後の生卵が、カレー焼きうどんには不可欠の存在だ。麺をくぐって白身が鉄板まで到達すると、盛大な湯気が上がる。一緒に立ち上るカレーの香りがなんとも言えない。

できあがったカレー焼きうどんは、シンプルな食材ながら、具だくさんで食べ応えがある。特にたっぷりのキャベツが美味しさの要だ。しっかりと火を通してキャベツ本来の甘みを引き立たせつつ、歯ごたえも残した調理法が絶妙だ。麺はスーパーのゆで麺だったが、製麺所の麺に負けず劣らずの味だった。

ここで真打ちに登場してもらおう。三崎の人なら誰もが「カレー焼きうどんならココ」と認めるのが「上州屋」だ。昼時前、11時半に訪店したが、すでに駐車場は満杯。店頭には空き席待ちの先客が並んでいた。看板には「生蕎麦」とあり、店内のメニューももり、かけ、ざる、たぬき、月見…と典型的な日本そば屋のメニューが並ぶ。にもかかわらず、客の注文のほとんどがカレー焼きうどんなのだ。出前のバイクもひっきりなしの稼働だ。

運ばれてきたカレー焼きうどんは、「居酒屋きぬ」と瓜二つ。熱々の鉄板の上に、たっぷりのキャベツと豚肉をまとった焼きうどんが盛大に鎮座する。結構な量の多さだ。そしてその山の頂には生卵がのる。最初のひと箸がすくい取ったのは、ほぼ麺ではなくキャベツだった。それくらいキャベツがたっぷりなのだ。

そば店、人気店ということもあり、麺は製麺所のものだ。しっかりと焼き目がついて香ばしい。そして、麺がまとったカレーの味が、意外に深みがある。これは果たしてカレー粉だけだろうか。調理場が奥で、調理過程が確認できなかったが、複雑なカレー味を感じた。

そして生卵の存在感。まずは、卵の掛かっていない部分をカレー焼きうどんデフォルトの味として食べ進める。中盤になって、まず黄身を崩す。黄身の濃厚なうまみが香ばしい麺に絡みつく。最後は、鉄板の上で固形化し始めた白身だ。残った豚肉やキャベツと絡めて食べると、白いご飯がほしくなった。

調べるとかつてはカレー焼きうどんを食べられる店はいくつかあったようだが、今回もすでに閉店してしまっていた店に遭遇。「上州屋」を除くと、常にカレー焼きうどんを提供しているのは、横須賀市との市境に近い「まるい食堂」だけのようだ。ちなみに「まるい食堂」は皿盛りで、ややつゆだくだった。メニュー数が豊富な人気店なので、カレー焼きうどんは選択肢の一つという印象だった。

まぐろのイメージが強すぎて、これまで見逃してしまっていたカレー焼きうどん。大型漁業が盛んなまちなので、町中華など、額に汗して働く人々の空腹を満たす名店も多い。三崎のカレー焼きうどんは、そんな地元の人々の「労働者めし」なのだろう。まぐろもいいが、たまには「三崎の普段着の食」も味わってみてほしい。




