和洋中折衷のパスタ料理 東京のロメスパ

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日本でもなじみが深いスパゲッティ。喫茶店のミートソースやナポリタンは手軽に食べられる麺料理として広く愛されている。しかし、本場イタリア・ナポリにナポリタンという料理がないように、ミートソースやナポリタンは、日本で独自に広がった、いわば「洋食」の一種だ。

盛岡の味? ジャージャー麺風スパゲッティ

その最大の特徴は、ゆで置きスパゲッティを使うことだ。本場イタリアでは、生パスタであれ、乾麺であれ、ゆで上げをソースに絡めて食べるのがパスタ料理の基本だ。しかし日本では、本格イタリア料理店は別としても、喫茶店や「スパゲッティ屋」で食べるスパゲッティは、予めゆでておいたスパゲッティを湯煎したり、炒めて温め直して調理することが多い。

長崎の味? 皿うどん風スパゲッティ

名古屋めしのあんかけスパゲッティや鉄板スパゲッティ、静岡・沼津のあんかけスパゲッティなどもゆで置き麺を炒めたスパゲッティがベースだ。東京では、オフィス街などで、イタリア風にこだわらない和洋中折衷の味付けでボリューム満点のスパゲッティを提供する店が人気で、その多くが人通りの多いところに出店していることから「路面のスパゲッティ店」略して「ロメスパ」と呼ばれている。

タイの味? トムヤムクン風スパゲッティ

最近では、チェーン店の「ロメスパバルボア」や「ロメスパ専門店ボーノボーノ」など、「ロメスパ」を店名に掲げる店も増えた。しかし、東京の「ロメスパ」と言えば、それを愛する誰もが銀座にある「ジャポネ」と大手町にある「リトル小岩井」の名を真っ先に挙げるだろう。この2店こそが、東京のロメパの代名詞と言っても過言ではない。

「ジャポネ」はカウンター席のみ

「ジャポネ」は高速道路下の商店街、「リトル小岩井」はオフィスビルの地下飲食街にあり、どちらも席数の非常に少ない小店だ。調理場にはゆで置いた大量のスパゲッティが山積みとなり、調理師はそれをむんずとわし掴みにしてフライパンに放り込み、マーガリンや油でほぐし炒めする。これにしょうゆや塩、ケチャップなどで味付けし、仕上げる。とてもボリューミーで、両店とも、ランチタイムには近隣のビジネスパーソンで大行列ができる。

ジャポネのジャンボ

「ジャポネ」の特徴は、ゆで置きのスパゲッティを炒める際に小松菜を一緒に入れること。看板メニューはジャポネ。小松菜の他には、豚肉やシイタケ、タマネギが入り、しょうゆで仕上げる。まさに「日本風=ジャポネ」の味わいだ。パジルの代わりにしその葉を使ったしょうゆ味のジャリコや塩味の和風明太子、塩としょうゆから味が選べる梅のりなど、店名の通り和風の味付けが多い。

ジャリコのジャンボ

値段が安く、カウンターでさっと食べられる点も魅力だが、多くのファンを引きつけるのがそのボリュームだ。普通盛りでも十分な量だが、さらに増量したジャンボ=大盛りを注文する客も多い。そして、ジャンボをさらに増量したのが横綱と呼ばれる超大盛りだ。さらに横綱の上には親方、さらに理事長なる超々大盛りも存在する。さすがに理事長に出くわしたことはないが、親方に挑む大食漢には何度か遭遇したことがある。

インディアンのジャンボ

メニューにはスパゲッティ以外に唯一カレーライスがあり、小松菜と一緒に油炒めしたスパゲッティに、このカレールーをかけたのがインディアンだ。かつては、ルーが足りなくなると無料で追加してくれたが、現在では横綱以上を注文した人のみの特権となった。ちなみに、テーブルのポットに入った福神漬けや粉チーズは掛け放題だ。

チャイナのジャンボ

中華風の味付けもある。ジャポネの肉がザーサイに代わるとチャイナとなる。しょうゆ味で、ベースはジャポネと同じなのだが、ザーサイが入るとなぜか中華風に思えてしまうから不思議だ。

大手町の「リトル小岩井」

一方「リトル小岩井」は、シンプルな炒めスパゲッティをしょうゆで味付けすればジャポネ、ケチャップで仕上げればナポリタンとなる。イタリアンやアラビアータなど、和風色が強い「ジャポネ」に対し、洋風な味付けのメニューが目立つ。

サラダ(右)と別注の別盛り

「ジャポネ」とは違い、炒めスパゲッティに小松菜が入らないからか、すべてのスパゲッティに小さなサラダが付く。サラダと言っても、キャベツのコールスローだ。とても小さなサラダなので、もう少し食べたいというニーズも多いようで、別料金で別盛りという大盛りサラダも用意されている。別盛りをダブルで注文する客もけっこういる。コールスローなので、すでに味が付いていることもあり、食べやすい。

回鍋肉スパゲッティは肉味噌キャベツ味

そして「リトル小岩井」の「ジャポネ」との最大の違いが、おすすめスパゲティの存在だ。定食屋の「ランチ」や「今日のオススメ」に相当、一定のサイクルで斬新な炒めスパゲッティが食べられる。よくもまぁ考えつくものだと感心するくらい、和食から中華、洋風に至るまで様々な料理をモチーフにしたオリジナル炒めスパゲッティが次々と登場する。通い始めて30年以上になるが、同じメニューに遭遇することがほとんどないと言っても過言ではないくらいバリエーションが多い。

そば屋の味? カレー南蛮スパゲッティ

例えばカレー南蛮スパゲッティ。「ジャポネ」のインディアンなどカレーをモチーフにした炒めスパゲッティはよく見かけるが、カレー南蛮スパゲッティはそば屋のカレー南蛮仕様。ルーではなくカレー粉っぽい味わいを生かし、具には何と「の」の字を描くなるとが入れられている。目にも舌にも「和風」を訴求する。

町中華の味? チンジャオローススパゲッティ

チンジャオローススパゲッティは、豚肉、ピーマン、たけのこの細切りとともにゆで置きスパゲッティを炒めて、青椒肉絲の味付けに仕上げてある。料理名にスパゲッティと入っていながら味付けは完全に中華だ。このように、和洋中の垣根を越えた独創的な味付けのスパゲッティが次から次へと登場する。

ウチナーの味? ゴーヤチャンプルー風スパゲッティ

油炒めしながら味付けする調理法は、いずれもパスタというより、焼きそば、焼きうどんの手法に近い。それが日本人の舌になじみやすい理由なのだろうか。本格パスタ料理を愛するイタリア人には怒られそうな東京のロメスパだが、その味にはまり、一定のサイクルで中毒的に食べたくなる人がけっこう多い。

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