梅雨が明ければ夏。夏の食べ物といえば、スタミナ源として知られるウナギが有名だが、一方でウナギの脂が苦手という人もいるだろう。こってりは苦手という人だけでなく、ウナギ好きにも、この時期おいしくと食べられるのが穴子だ。穴子は6~8月が旬といわれている。
うなぎなら白焼きや蒲焼で食べることが多いが、穴子なら煮穴子に天ぷら、そしてすしだねにと幅広い調理法で楽しめる。東京では、羽田沖で獲れるものが、江戸前ずしのネタとして重宝されるなど、東京湾岸各地で広く穴子が食べられている。そんな東京湾の南端、千葉県富津市でも穴子を名物と位置づけ、旬の時期には毎年、キャンペーンを開催している。
富津では、アナゴのことをはかりめと呼ぶ。その由来は、横に細長く点々とある模様が、棒はかりのようであったこと。コロナウイルスの感染拡大で大々的なキャンペーンこそ厳しくなってはいるが、はかりめが富津名物であり、そしてこの時期、たいへんおいしくなることは変わりない。
穴子丼といえば、しょうゆベースに味付けされた煮穴子をご飯に乗せて食べることが多いが、穴子の本場・富津では煮穴子に限らず様々な調理法で穴子のおいしさをアピールする。
まずは「寿司・活魚料理 いそね」のはかりめ2色丼。多くのメディアで紹介される人気メニューだ。定番の煮穴子をのせたはかりめ丼に加え、天然塩とレモンや大葉でさっぱりと味付けした穴子のさわやか丼をセットにした。
「いそね」のはかりめ丼は特製の煮汁でこってりと煮上げた穴子が、ご飯が見えないほどたっぷり盛り付けられる。まずはそのままでひと口。煮穴子特有の柔らかな食感が食欲を呼ぶ。
山椒を散らす。ピリッとした山椒の刺激は、うな丼でもおなじみ。やや甘めの立った味付けに、山椒のしびれがなんともいえぬ大人の味わいを演出する。穴子の下のご飯にもたっぷりとたれがかかっている。刻み海苔も濃厚な味わいを絶妙にサポートする。
そして「いそね」ならではのさわやか丼。これがまた絶品だ。そもそも「いそね」はすし屋だが、すしの技法を生かしたのがさわやか丼だ。ご飯は、はかりめ丼のたれご飯に対し、酢飯だ。さっぱり塩とレモンで味付けられた穴子と酢飯の間にはガリも潜んでいる。この組み合わせが絶妙だ。
つめをつけた煮穴子の握りずしもいいが、このさっぱり感こそが、煮穴子のはかりめ丼と絶妙のコントラストを作り出す。
活穴子の天ぷらも添えてみた。せっかくの本場なので「2色丼に天ぷらも」と注文したところ「天ぷらはハーフにもできますよ」とのこと。うれしい気づかいだ。
てんぷらは天つゆと塩の2通りの味付けで。天つゆもいいが、天ぷらのサクサク感を味わうならやはり塩がいい。活穴子は肉厚で、煮穴子にはない歯触りも楽しめる。
一方、焼き穴子と天ぷらの組み合わせをひとつの丼で実現したのは「お食事処 さざなみ」のWはかりめ丼。ただし、これは富津市商工会のキャンペーン「富津はかりめフェア」用のメニューで、2018年に食べたもの。同店のはかりめ丼は焼き穴子が基本。煮穴子にはない食感が楽しめる。
一方でボリューム満点に穴子天を食べたいなら「漁師料理 かなや」の大穴子天丼がおすすめ。同店は広い駐車場を有し、店内も広大。そして穴子天までビッグだ。大きなガラス越しにオーシャンビューも楽しめる。
粘り気の強いかじめという海藻を入れた味噌汁が付くのだが、このかじめがまたおいしい。「漁師料理 かなや」は、富津市内とはいえ、中心市街地とはやや離れた南の金谷地区にあり、かじめは同地区の名物だ。
富津は、アクアラインを使えば都心からも至近の海の町。コロナが明けたら、ぜひ富津の名物に舌鼓を打ちに行ってほしい。