若狭の逸品「美浜へしこ」(2)

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漁師宿の女将たちが代々受け継ぐへしこの製法を共有 「女将の会」は糠漬の匠

へしこは、以前は家庭でも作られていましたが、現在では作る家も少なくなっています。基本的には魚の糠漬けなので、作り方が人によって大きく変わるものではありませんが、不思議と「○○さん家のへしこは美味しい」といった評判は立つものです。

また味の好みは千差万別で、年配の方の中には「塩辛くなければへしこじゃない」というひともいるし、若いひとの中には「塩辛すぎるのは嫌い」というひともいます。しかしどちらも、へしこの旨味について否定はしません。地元のへしこ好きの議論なのです。

へしこは焼いても刺身でも美味い
へしこは焼いても刺身でも美味い

「女将の会」のへしこは、旨みと塩味のバランスが非常にいいへしこです。それは脈々と受け継がれてきた四軒の漁師宿の女将さんたちが、それぞれの味を持ち寄り、意見を言いながら皆で決めた味だから。「女将の会」のへしこは、美浜の伝統的な製法を踏襲しながら、様々な工夫を凝らしています。

美浜のへしこ作りのキーワード「シエ」

一般的なへしこの作り方は、まずサバを塩漬けし、一定期間(2週間~1か月程度)おいて、本漬としてサバを糠で改めて漬けこむ、という二段仕込みの製法。最初の塩漬けの際にサバからかなりの水が出ます。一般的なへしこ作りではその水は捨ててしまうのですが、美浜ではこれを本漬にも使います。

塩漬けの際に出てくる水は、美浜では「シエ(塩汁)」と呼びます。「シエ」はいわば魚を塩漬けして作る魚醤の元のようなもので、これを寝かせて熟成すると魚醤になります。魚醤といえば、ハタハタで作る秋田・男鹿の「しょっつる」、いわしやイカで作る石川・能登の「いしる・よしる」、いかなごで作る四国・香川の「いかなご醤油」などがあります。海外ではカタクチイワシ(アンチョビ)で作るタイの「ナムプラー」、ベトナムの「ニョクマム」などがよく知られています。

シエ炊きは沸かした後、丁寧に濾して黄金色の液体に
シエ炊きは沸かした後、丁寧に濾して黄金色の液体に

「シエ」は、塩辛いのですが旨味を多く含む自然の調味料。これを煮沸してから布で丁寧に濾すと、黄金色のきれいな液体となります。美浜ではこの手間暇かけて処理した「シエ」をベースに、日本酒、大吟醸の酒かすなどのほか、味の決め手となるみりん、しょうゆなどの調味料、自家製唐辛子などを加え、秘伝の仕込みだれ「特製へしこみだれ」を作ります。

極上の樽上げへしこ

本漬の際に、有機栽培のコシヒカリの米ぬかとサバを交互に仕込み、へしこみだれを回しかけ、何層にも重ね、最後に重しを乗せて約1年熟成させます。昔はへしこといえば冬の荒海で漁に出られないときの貴重なたんぱく源であり、秋サバが獲れた秋に仕込み、翌年の秋に出来上がる、旬のある漬物でした。

樽上げは大切な子供が巣立つようなもの
樽上げは大切な子供が巣立つようなもの

大量のサバを1枚1枚開き、塩漬け、本漬けの際の重しの乗せ換えや樽運び、出来上がったへしこの取り出しまですべて手作業で行っているため、へしこ作りは大変な重労働。おいしいものを作るためとはいえ、実に頭がさがります。

長く漬けすぎると、味はともかく色見が非常に悪くなってしまうので、野菜のような古漬けの概念はありません。食べごろの時期に取り出した「樽上げへしこ」は、焼いて食べても刺身で食べても、極上の逸品となるのです。

脂ののった大きなサバのへしこ
脂ののった大きなサバのへしこ

進化しながら受け継がれる食文化

もともと地元の多くのサバにはそれほど脂がのっておらず、脂のあるイワシなどと一緒に漬けていました。現在、サバは脂ののった大きな魚体のものしか使わないのですが、ここ数十年、若狭湾近海で脂ののったサバを数多く安定して確保することが難しいため、現在は天然のノルウェー産サバを、脂ののった時期に確保し、それを使うことで地元の若いひとにも人気の脂と旨味ののった美浜へしこを作ることできるのです。

その時代の味覚に合うように進化するからこそ、食文化は引き継がれていきます。ものがなかった貧しい時代の作り方のまま、残念ながら淘汰されることもあれば、細々と続いた、手間暇をかけた昔ながらの作り方が見直され、再度花開くこともあります。創意工夫で食文化をつないできた「女将の会」の美浜へしこ。次の世代にバトンを引き継いでいってほしいと思います。

■お問合せ

若狭美浜 へしこ工房 女将おかみの会

  • 福井県三方郡美浜町日向
  • TEL:0770-32-0361
  • FAX:0770-32-3361

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