チャップ丼はご当地グルメ 北海道あのまち、この味⑧滝川

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滝川市は、北海道のほぼ中央、札幌市と旭川市の中間に位置する。石狩川と空知川に挟まれ、市域の約6割が森林や農地などの緑に囲まれたまちだ。夏は30℃超、冬はマイナス20℃を下回るなど、夏冬の寒暖の差の激しい内陸性気候が特徴で、北海道内有数の豪雪地帯としても知られる。そんな滝川の名物と言えば、ジンギスカンだ。

滝川の老舗食堂「高田屋」

「滝川式ジンギスカン」について詳しくは、以前掲載した「北海道のジンギスカン」を読んでいただきたい。今回は、滝川市民のソウルフードと呼ばれているチャップ丼に焦点を当ててご紹介したい。チャップ丼は、1953(昭和28)年創業、JR北海道滝川駅から徒歩5分ほどのところに位置する老舗食堂「高田屋」の看板メニューだ。

ずらり並んだメニューの数々

この「高田屋」、実に魅力的な食堂だ。丼物だけでなく、中華などの定食やラーメン、そばなど、幅広いメニューを掲げる。昔ながらのまちの大衆食堂といった風情だ。客の回転も良く、地元民が次々に暖簾をくぐっては、さっと食べて、さっと引き上げていく。いかに地元民の暮らしと密着しているかがうかがい知れる。

ポークチャップ

今回は、この「高田屋」で腰を据えて呑むことにした。チャップ丼はシメにいただくとして、定食のおかずで、まずはビールをいただこう。まず頼んだがポークチャップ。そもそもポークチャップとは、アメリカ発祥と言われる洋食メニューで、豚肉をソテーし、ケチャップで味付けした料理だ。北海道では、本土に比べ、より親しまれている洋食メニューで、砂川市では、まちを挙げてポークチャップをPRするほどだ。

「ケチャップ色」のソース

まず注文したのは、チャップ丼との関わりが気になったからだ。「北海道でポピュラーなポークチャップを使った丼飯がチャップ丼なのでは?」との疑問があった。店のご主人に確かめたところ「まったく別の料理」とのことだった。チャップ丼への期待がいっそう高まる。運ばれてきたポークチャップは、まさに「ケチャップ色」の料理だった。ただ、たっぷりタマネギの入ったケチャップ色のソースの下に鎮座していたのは、ポークチャップと言うよりとんてきと呼んだ方がしっくりきそうな豚ロースのソテーだった。

たれが絡んだ千切りキャベツにマヨネーズ

味付けはいかにも「定食のおかず」。はっきりしたと言うよりも濃い味付けが特徴だ。口の中いっぱいに広かった濃い味をビールで洗い流すのがたまらなく快感だ。そして、この濃い味のソースは、添えられた千切りキャベツをもご馳走に変える。ケチャップ色に染まったキャベツが実に美味しい。

野菜いため

続いて野菜いためを注文する。メニュー構成から、中華風の野菜炒めであろうことは想像していたが、なんとも大ぶりな漆器に盛られて登場した。電話番号と店名が縁に描かれたような丸皿で登場するものとばかり思い込んでいただけに、そのボリュームにまずはビックリさせられた。

キャベツとモヤシがメイン

やはり非常に濃い味付け。白飯が進みそうな味だ。キャベツやモヤシを中心に、ピーマンの緑、ニンジンの赤がいいアクセントになっていて、見た目で美しく、美味しそうだ。肉やシイタケも入っていて、見た目以上に具だくさんでもある。副菜ではなく、じゅうぶんに主菜として成り立つ野菜いためだった。もちろんその濃い味は、ビールを口に注ぎ入れる左手を促すものだった。

チャップ丼みそ汁つき

さぁ、シメはお待ちかねのチャップ丼だ。壁のメニューの下には「高田屋日本一のチャップ丼」なる写真が額入りで飾られているほどの、まさに看板メニューだ。写真には「道産SPF(無菌豚)肉を炒めて、長年つぎたしした秘伝の熟成醤油だれをからめた絶妙の旨さをどんぶりご飯にのせた一品です。ネーミングのチャップとは上質豚バラ肉の部位名です。」とある。

そのビジュアルには風格さえ漂う

公益社団法人日本食肉消費総合センターのホームページによれば、「チョップ(chop)」とは、羊、豚、鶏など小型の食用獣の骨つき背肉のこと。ちょっとややこしいが、「高田屋」のポークチャップとチャップ丼はそもそも別の料理ということになる。

刻み海苔がいいアクセント

焼いた豚肉に甘辛いしょうゆ油だれがしっかりと絡まる。そのルーツは、店主が学生時代に食べたお弁当のおかず。そもそもは豚肉にやきとりのたれを絡めて焼いたのが原型だとか。あまりの美味しさに、店の定番メニューにまでなり、果ては滝川市民のソウルフードとも呼ばれるようになった。

黄身が絡んだ甘辛い豚バラ肉

甘辛いチャップ丼の上にのせられた半熟目玉焼きはオプションだが、チャップとの相性は抜群だ。箸で黄身をつつき、流れ出た黄身をまとったチャップを白飯とともに掻き込む。なんとも素晴らしいマリアージュだ。肉の下に敷かれた刻み海苔もいい脇役だ。すべての素材が、一体化して「高田屋のチャップ丼」を形作っている。

滝川市民のソウルフード

秘伝のタレのレシピは門外不出とか。滝川市民のソウルフードとまで呼ばれながら、「高田屋」だけでしか食べられないのは、同店が看板メニューとしてその味をしっかり守り、伝えているからだ。店内には、北海道新聞で紹介された際の記事も掲げられている。「個店のメニュー」でありながらも、地域を代表する「ご当地グルメ」と呼ばれるのも、それだけ、地元市民に深く浸透しているからなのだろう。

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