Wカレーのまち 北海道あのまち、この味⑨苫小牧

投稿日: (更新日:

苫小牧市は、国際拠点港湾である苫小牧港と千歳市との市境に広がる国際空港・新千歳空港がある、北海道の空海の玄関口のまちだ。紙・パルプ、自動車部品、石油など工業も盛んで、北海道の港湾貨物の約半数を取り扱うなど全国4番目の貨物取扱量とホッキ貝の水揚げ日本一を誇る、工業と港湾のまちだ。

カレーラーメンと

そんな苫小牧の二つの顔を象徴するご当地グルメが、カレーラーメンとホッキカレーのWカレーだ。工場で働く人々の活力源となったカレーラーメンと特産品のホッキを使ったホッキカレーは地元の名物メニューとして知られるようになり、2022年9月には、苫小牧観光協会がこの2大ソウルフードをWカレーと呼び、有効な観光資源として「Wカレーの街とまこまい」を宣言するに至った。

ホッキカレーでWカレー

苫小牧のカレーラーメンの誕生は、1965(昭和40)年に遡る。今もカレーラーメンの元祖店として人気を誇る「味の大王」で誕生した。「味の大王」の創業者である初代店主・高橋一郎氏が、大衆に人気のカレーライスとラーメンの美味しさを融合できないかと試行錯誤したのがその始まりだ。

「味の大王総本店」

北海道でカレーラーメンと言えば、一般的には室蘭、「味の大王室蘭本店」が知られているが、高橋一郎氏が苫小牧から岩見沢へ店を移した時期に室蘭本店の創業者が弟子入り、室蘭でカレーラーメンを定着させたと言われている。そう、歴史的には、苫小牧発祥、室蘭で大きく育った北海道のご当地グルメなのだ。

「味の大王室蘭本店」のスープはさらっと

同じ「味の大王」の屋号、同じ「カレーラーメン」のメニュー名にもかかわらず、両店に資本関係はなく、味も結構違いがある。ひとことでいうと、室蘭がさらっとしたスープのそば屋のカレー南蛮風のとろみなのに対し、苫小牧は、カレールーのようなどろっとした、しっかりしたとろみが特徴だ。

「味の大王総本店」のカレーラーメン

実際に、新千歳空港にも近い「味の大王総本店」で苫小牧のカレーラーメンを食べてみた。幹線の国道36号線沿いに店はあるが、千歳線の駅からは少し離れており、訪店はほぼ車に限られる。場所柄駐車場は広いので、レンタカーなど、車での訪店がオススメだ。

麺に「カレールー」が絡みつく

入り口付近に券売機があり、ここでチケットを購入して席に着く。注文の品ができあがるとカウンターに呼ばれ、取りに行く。まずはデフォルトのカレーラーメンだ。ぱっと見で、スープがルーのようにとろみが強いのが分かる。麺を箸で麺を引き上げると、そのとろみを直に体感できる。スープが良く絡むよう中太ちぢれ麺を使用しているという。

マイルドなので辛口もオススメ

カレー味はさほど辛くない。近年の激辛の風潮から考えるとかなりマイルドだ。店のホームページによると、120℃以上の温度で圧力をかけてとった濃厚な豚骨ベースのスープと、10数種類の香辛料や果物を練り込んだカレーペーストを混ぜ合わせているという。とろみが強いので、スープが麺に絡みつく。トッピングはモヤシ、ネギ、ワカメ、豚バラチャーシュー。チャーシューは結構大ぶりで食べ応えがある。

「味の大王総本店」の辛口カレーラーメン

スープをすすろうにも、とろみが強いため、すすると言うよりは、れんげで「口の中に運ぶ」と表現する方が的確だろう。なかなかのとろみで、残ったスープにライスを入れてカレーライスにして食べたくなった。カレーライスの誘惑に苛まれながら、もう1杯、辛口カレーラーメンを食べてみた。

食べ進めるうちに辛さが増してくる

辛みの増強は、チリスパイスでも、トウガラシでもなかった。自家製ラー油で辛さを増している。さらにトッピングにも辛味噌が加えられている。ぱっと見には、ラー油の赤があまり目だたないが、食べ進むうちに「カレールー」の下にけっこうなラー油が仕込まれていることが分かってくる。うっすら汗をかくほどの辛さだ。

「マルトマ食堂」のホッキカレー

苫小牧のカレーと言うと、やはりホッキカレーを思い浮かべる人が多いだろう。苫小牧のホッキ漁は明治初期に始まる。漁場や漁期を制限、資源保護の観点から、9センチ以上の大型の貝のみを出荷の対象とする。肉厚でジューシー、甘みが強いのが特徴だ。

たっぷりのホッキ

刺身や寿司として食べられるホッキだが、苫小牧の一般家庭では炊き込みご飯やホッキカレーとしてもよく食べられている。以前、南房総のさざえカレーを紹介したが、南房総で肉よりもさざえの方が手に入りやすかったがためにカレーの具となったが、その理屈は苫小牧のホッキカレーも一緒だ。

苫小牧の「マルトマ食堂」

苫小牧のホッキカレーを食べるなら、やはり外せないのが「マルトマ食堂」だ。店舗は、苫小牧漁協の建物の一角。かつては市場で働く人たちのための社員食堂だったそうで、今も、市場関係者は行列に優先して入店できるそうだ。雑誌やテレビ番組などで盛んに紹介されており、地元民はもちろん、観光客も多く訪れる。訪問した際も、昼どき前からすでに行列で、入店までに約1時間を要した。飲食スペースが限られており、行列は必至だ。

カレールーだけでも美味しい

具としてホッキが大量に使われているが、カレールーには魚介の影響はあまり感じられない。ルーは、スパイシーで、ホッキ抜きでもカレーだけでけっこう美味しく食べられそうだ。とはいえ主役はホッキ。とにかくホッキの量がすごい。加熱されているにもかかわらず、身はコリコリ感を残しつつ適度に柔らかい。作り置きせず、その都度ホッキを加熱して調理しているようだ。

「マルトマ食堂」の行列

スープカレーや富良野のオムカレーなど、北海道には個性的なカレーも多い。苫小牧のカレーラーメンもホッキカレーも、本土ではなかなか味わえない貴重な味だ。空の玄関口・千歳にも近い。北海道を訪れた際は、ぜひ苫小牧にも足を運んで、カレーラーメンとホッキカレーに舌鼓を打ってほしい。行列は必至だが。

Copyright© 日本食文化観光推進機構, 2024 All Rights Reserved.