呑兵衛が生んだ鳥だしのそば「かほく冷たい肉そば」

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冬でも冷たいつゆは、鳥のだしがしっかり効いていながら中華とはまた違うあっさり和風味だ。そしてその上には、歯ごたえのある親鳥のチャーシューが鎮座する。

板そばそばどころ山形ならではの食べ方
板そば そばどころ山形ならではの食べ方

つゆのだしは昆布かかつおぶしか、はたまたいりこか。のせる具は油揚げか天かすか、いやいや身欠きにしん?天ぷら?全国それぞれ少しずつだが個性に差がある和風のそば・うどん。山形県河北町名物のかほく冷たい肉そばは、その中でも際だった個性を放つ逸品だ。

つまみをシメにぶっかけて誕生

鳥チャーシューは酒のつまみ
鳥チャーシューは酒のつまみ

長野県や福井県とならび、そばどころとして名高い山形県。そばだけでなく、中華麺の消費量も突出して多い、麺食いどころでもある。 食堂も基本はそば屋。酒を呑むのもそば屋だった。河北町も例外ではなく、戦前から「ちょっと一杯」となればそば屋へ足を運んだ。 河北町や県庁所在地・山形市がある村山地方は、日本列島のいちばん奥に位置する。魚が乏しく、魚といえば干し魚の土地柄だ。メニューは少なく、つまみといえば、馬肉を煮たものくらい。これをつまみながら酒を飲み、最後にそばをすするのが、河北の酒呑みの定番だった。

丼にそばを盛って食べていた
丼にそばを盛って食べていた

シメのそばといえば、ざるに盛られたものを思い浮かべるだろう。しかし当時、庶民のそばは、ざるではなく丼に盛って出されるのが常だった。ある日、とある客が、残った馬肉の煮込みを丼のそばにぶっかけ食べてみたところ、ことのほかおいしく、常連客たちからも注文が相次ぐようになった。

冷たいつゆならゆっくり呑める

鳥チャーシューは戦後に登場
鳥チャーシューは戦後に登場

しかし、戦争が始まるとともに農耕馬の数は減ってしまう。馬肉の代わりに牛肉を使う店も登場したほど。鳥肉がそばの上にのるようになったのは、戦後、養鶏場が作られたことが背景にある。採卵のための養鶏場では、卵を産まなくなり役目を終えた年老いた鳥は処分される。この「廃鶏」を馬肉の代わりに使うようになり、かほく冷たい肉そばは現在の姿になった。

肉とねぎをダブルにすれば倍の呑める?
肉とねぎをダブルにすれば倍呑める?

冬でも冷たいつゆで食べるのも、酒呑みの発想だ。温かいスープだと、麺はのびやすい。そこで、冷たいつゆがかかった肉そばを注文し、具の鳥チャーシューで酒を飲み、最後に残ったそばでシメた。酒飲みが、麺がのびずにおいしくそばを食べるための発想から生まれたのが、冷たいつゆだったという訳だ。

鳥中華も人気メニュー

三軒茶屋にある河北町のアンテナショップでも食べられる
三軒茶屋にある河北町のアンテナショップでも食べられる

この冷たい肉そばは、やがて河北町の名物料理となり、現在、河北町には谷地(やち)地区を中心に14店が「谷地の肉そば会」を結成、その味を守り続けるとともに普及に努めている。肉そばの人気は東京都心でも高く、東京駅や神田駅界隈では、あえて探さずとも「冷たい肉そば」の看板が目に入るほどになった。

冷たい肉中華

山形県はそばだけでなく、ラーメンの消費量も多いと紹介した。もちろんかほく冷たい肉そばにもラーメンバージョンがある。冷たい肉中華だ。つゆも具も肉そばといっしょ。そばを中華麺に替えれば肉中華のできあがりだ。こちらも地元では人気メニューだ。

かほく冷たい肉そば研究会

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