ニンニク効かせたジャンボな鶏から 長野の山賊焼

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長野県の山賊焼きをご存知だろうか。鶏のもも肉を大きなまま、すり下ろしたニンニクやショウガを効かせたしょうゆだれに漬け込み、片栗粉をまぶして油で揚げたものだ。いわば、ジャンボな鶏のから揚げで、塩尻、松本の両市がともに地元の名物料理としてアピールしている。

もも肉の厚い部分を切って広げる

調理法はシンプルで、家庭でも簡単に作れる。材料は大ぶりな鶏のもも肉、めんつゆ、しょうゆ、ニンニク、ショウガ、片栗粉。最大のポイントは肉の厚さの調整と揚げる際の温度管理だ。

全体の厚さが均一になるように

鶏のもも肉は、まな板の上で広げてみると、場所によってずいぶんと厚みが違っているのが分かるはずだ。これが、揚げる際の火の通りに大きく影響する。そこで、足先に近い部分を中心に、厚みのある部分をそぐようにして包丁を入れ、事前に開く。厚みが気になるところに、ていねいに包丁を入れ、全体に厚さが均等になるよう調整しておく。

めんつゆにしょうゆ、ニンニク、ショウガを加えて漬け込む

たれはめんつゆをメインにしょうゆを加え、そこにたっぷりのおろしニンニク、おろしショウガを加えてよく混ぜる。漬け込む時間は、20分から1時間が目安。調理直前でも構わない。長時間漬け込んだ方が味が染みるようにも思うが、肉の表面のつけだれが、後からつける粉になじみ、それが山賊焼の味の基本になるため、長時間漬け込む必要はない。

片栗粉はつけすぎないように

ボウルにたっぷりの片栗粉を入れ、そこに味を染み込ませた肉を投入する。まとわせる量は好みだが、余りつけすぎないように注意したい。

170~180度で7分ほど揚げる

肉の厚さの調整とともに大事なのが、揚げる際の温度管理だ。170~180度で7分ほどが基本になる。家庭で揚げる場合、飲食店のフライヤーに比べ油量が少ないため、大きな肉の塊を入れると、急に温度が下がりやすい。そこが、一般的な鶏のから揚げとの違いだ。温度計などを利用して、こまめに火加減を調整すると仕上がりが違ってくる。また、油切りも兼ねて、少しおいておくと、余熱が中までしっかり通る。

肉厚の調整と油温の管理が味の決め手

肉厚を調整しないまま揚げるとどうなるのか、実際に見ていただきたい。厚い部分になかなか火が通らず、7分では揚げきれない。さらに揚げ時間を延ばして中まで火を通した結果、表面が黒く焦げ気味になってしまった。味付けの際にも言及したが、表面についた粉の味が山賊焼全体の味を左右するため、表面が焦げてしまうとどうしても風味が落ちてしまうので、注意したい。

厚すぎると焦げ気味になってしまう

盛り付けの際にはキャベツがマストアイテムだ。揚げたての山賊焼をのせておくと、食べ進むうちに余熱と表面に残った油がキャベツをしんなりさせる。これが、なかなかの美味なのだ。また、キャベツを一緒に食べることで、揚げ物特有のしつこさを随時リフレッシュしてくれる。

塩尻にある「山賊」

ご当地グルメはやはり地元で食べるのが一番。有名店、人気店を訪ねてみよう。塩尻では、市内の居酒屋「山賊」が元祖と言われている。店名から、山賊焼と呼ばれるようになったという。鶏の一枚肉を創業当初から引き継がれるニンニクの効いた秘伝のたれに漬け込み、揚げたもの。「山賊」では骨付きがアイデンティティーになっている。

骨付きをビールとともに

JR塩尻駅を下りたら、「山賊」までは徒歩で5分ほど。にもかかわらず、店までの道のりには、看板に大きく「山賊焼」と掲げた店が次から次へと現れる。よほど塩尻の暮らしに浸透したご当地グルメなのだろう。

骨を持ってかぶりつく

「山賊」は夜のみの営業で、ランチタイムの営業はない。山賊焼きは特大、大、中、ミニの中から選んで注文する。しょうゆ、酒、みりん、すり下ろしたニンニク、タマネギなどを混ぜたたれに骨付きのもも肉を漬け、片栗粉をまとわせて揚げる。足の骨を残したのは、手で持って食べられるようにとの工夫だそうだ。かつては油が高価だったため、フライパンで油を最小限にして調理していたことが「揚げ」ではなく「焼」の理由になっているという。

油が染みたキャベツがまたうまい

ビールとともに山賊焼きにかぶりつく。見栄えを考えて「大」を頼んだが、正直後悔した。かなりヘビーだ。断面を見ればわかるように、肉はしっかり厚い。さすがはプロの火加減だ。しかも、片栗粉がたっぷりまぶされていて、それがしっかり油を蓄えている。ビールの供には最高だが、ビールが進むことも合わせて、終盤にはお腹がぱんぱんになる。自分がコレと思ったものより、1サイズ落として頼むといいだろう。

松本の「河昌」

松本では浅間温泉の入り口にある食堂「河昌」が元祖と言われている。山賊焼きの名前の由来は「取り(鶏)上げる(揚げる)」ということで、旅人からものを強奪する山賊に因んで山賊焼きと呼ばれるようになったという。こだわりの国産鶏肉を2日間秘伝のタレに漬け込み、高温の油で一気に揚げて調理する。

「河昌」の山賊焼定食(もも)

「河昌」の山賊焼は、手羽かもも、どちらか好きな方を選んで注文する。もも肉は小ぶりなものが2枚、手羽は大きなものが1枚、千切りキャベツにのって出てくる。ももはジューシーで手羽はあっさりめ。どちらも下味は軽めで、好みで調味料を足してもいいだろう。ビールの供というよりは、ごはんのおかずといった味付けだ。

左が手羽、右がもも

辰野にも「元祖山賊焼」を看板に掲げる店がある「とちっ子」だ。辰野町商店街の裏通りに位置する居酒屋だ。店の看板メニューは43年来、味も値段も変えていないという600円。「山賊」「河昌」に比べ、軽さが身上だ。

辰野の「とちっ子」

味付けも軽めで、ニンニクやショウガも強くは香らない。お店では「もし味が薄いと思う方は肉にも塩をふりかけて」とあったが、個人的には塩は不要だった。何より肉が柔らかい。胸肉なのかと思うほど、軟らかくて軽いのだ。これなら揚げ物が苦手という人にも食べやすいだろう。

「とちっ子」の山賊焼は軟らかくて軽い

実は山梨県内でも山賊焼は名物になっている。小淵沢駅の山賊そばだ。小淵沢に本社を置く「丸政」は1918年創業、小淵沢を中心に中央線各駅で駅弁を販売、56年には小淵沢駅で、駅そばの店舗もスタートさせた。小海線への乗換駅で、乗り継ぎ客の小腹を満たしてきた。現在では、小淵沢周辺だけでなく、甲府や韮崎でも店舗を構える。

小淵沢駅の山賊そば

麺を湯煎して食べる駅そばの上に大ぶりの山賊焼が鎮座する。揚げたてのカリカリではなく、つゆに浸ってしんなりとした山賊焼が、山賊そばの魅力だ。常磐線我孫子駅「弥生軒」の唐揚げそばにも通じるが、揚げ置きの分厚い鶏の唐揚げを、しばらくつゆに浸して温めながら食べるのが何ともおいしい。2017年にピカピカの駅舎に建て替えられたが、伝統の駅そばも新しい駅舎に引き継がれた。

お店もピカピカ

「要するに1枚肉の鶏のから揚げでしょ?」というなかれ。そのボリューム感やキャベツとのマリアージュは、よくある鶏のから揚げでは味わえない魅力がある。ぜひ長野を訪れて、ビール片手に味わってほしい。

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