夏に食べる冷たいほうとう 「山梨のおざら」

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海なし県、山梨は内陸特有の、冬寒く、夏は暑い気候が特徴だ。昼夜の寒暖差も大きく、その影響で果物の糖度が上がりやすいことから、ぶどうや桃など果物の生産が盛んなことで知られている。そんな山梨を代表する郷土料理がほうとうだ。稲作が適さない山間で、米に代わる主食として古くから親しまれてきた。通年で食べられてはいるものの、熱々の鍋から食べる煮込み麺は、さすがに暑さ厳しい夏の山梨では、食指が伸びないこともある。そんな時、山梨県民の胃袋をとらえて放さないのがおざらだ。

夏版のほうとう?

わかりやすく言うと、ほうとうの麺を生から煮込むのではなく、茹でてから冷水で締めて冷たくして食べる料理だ。厳密には、ほうとうとおざらは麺が違うが、おざらが食べられるのは、ほうとうを売り物にしている店が多く、夏の間の限定メニューであることも多いことから、夏版のほうとうという解釈は大きな間違いではないだろう。

冷たい麺を温かいしょうゆ味のつけ汁で食べる

おざらとほうとうの麺の違いは、その太さ。おざらの方が細めだ。しかも、茹でずに生のまま鍋で煮るほうとうに対し、一度茹でて、さらに冷やしてから、温かいしょうゆベースのつゆに浸して食べるため、ねっとりとしたほうとうとは対照的なつるつるとのど越し良く仕上がる。暑い夏でも食べやすいため、特に暑さの厳しい夏の山梨で、夏バテを防ぐ食として人気があり、米が貴重だった時代には暑い時期のごちそうとして食べられていた。

山間部らしい具が多い

つけ汁はシンプルで、そばやざるうどんとは違い温かいのが特徴。油揚げや野菜、きのこなど山間部らしい具が入ることが多い。冷たい麺と温かいつけ汁というパターンは、山を超えた先、埼玉北部や群馬にも通じる食べ方だ。

甲府の「ちよだ」

では早速、おざらを食べに山梨へ出かけてみよう。まず最初に訪れたのは、JR甲府駅南口を出てすぐ、武田信玄公の銅像にもほど近い「ちよだ」だ。先代の女将が故郷で食べられていたレシピから着想、山梨名物のほうとうを使って夏場に提供したのがそのルーツと言われている。いわば、おざらの元祖店だ。

「ちよだ」のおざら

訪れたのは、7月の暑い盛りの日曜日。11時半の開店を前に、11時過ぎから店頭には行列ができはじめた。さすがは元祖店だ。開店と同時に店内になだれ込む。夏の週末は、ほうとうはもちろん、温かい麺で食べるゆもりもお休みとのことだった。注文できるのは、小盛りもふくめたおざらと煮込みや馬刺しなどのサイドメニューのみだ。

つるつるに光る「ちよだ」の麺

注文したのは、もちろんおざら。元祖店とはいえ、路地裏の小さなお店だ。限られたマンパワーで営業していることもあり、メニューを絞り込むことで効率的な店舗運営をしているようだ。まずは、席に着いた全員の注文を集約し、いっぺんにおざらを大量調理する。なので、おざらが出てくるまでにはやや時間を要する。

「ちよだ」の馬もつ煮

それまでの場つなぎに、もつ煮を注文した。もつ煮は選べますとのことだったので、甲府という地名に延髄が「鳥もつ煮」の答えを導き出したところ「馬か豚です」とのことだった。そうだそうだ、鳥もつ煮はそば屋のメニューで、山梨から長野にかけては馬肉食文化の土地柄だった。改めて、馬のもつ煮を注文する。馬もつ煮はちょっと甘めの味付けだった。根菜はよく煮込まれていて柔らかく、味がしっかり染みているが、もつそのものは、コリコリとした食感をほどよく残していた。

つけ汁の具はシンプル

カウンターには、大量のつけ汁の鉢が山積みになり、初回入店者分のおざらが一気に配膳された。温かいつけ汁には、たっぷりの油揚げが浮いている。薬味の野菜に加え、エノキダケも散見できる。ここに冷たく締めた麺を浸して食べる。

ねっとりとした歯ごたえ

ざるの上に盛られた麺はかなりのボリューム。冷水で冷やされつるつるに光っていた。これを箸ですくい上げ、温かいつけ汁に浸していただく。食感はやや柔らかめだ。ほうとうの麺を源流に持つだけに、ねっとりとした歯ごたえが特徴だ。いかにも腹持ちが良さそう。冷たく締めた麺を何度も浸しているうちにつけ汁の温度が下がってくるのは、汁の量が少なめだけに、埼玉の肉うどん以上だ。

「小作双葉バイパス店」

念のため、もう1軒おざらの味を確認しよう。となれば、人気店の「小作」は外せない。今回は、双葉バイパス店を訪ねた。ちなみに双葉バイパス店に隣接するのは、鳥もつ煮でも知られるそば店「奥藤」の竜王第五分店だ。胃袋さえ許せば、甲府の名物料理を一挙に堪能できる。

「小作」のおざら

麺の上にさやえんどうがのっていたりと細かい差異はあるものの、茹でて冷水で締めたほうとうタイプの麺、しょうゆ味の温かいつけ汁は「ちよだ」と同様のスタイルだった。これがおざらのデフォルトのスタイルといえそうだ。

コシのある「小作」の麺

最大の違いは麺の食感。「小作」の麺は「ちよだ」に比べコシがある。そしてつるつる。ねっとりとした「ちよだ」とは好対照だった。つるつる感は、汁をまとう余計に増してくる。ざる盛りは同様だが、ざるの上に氷を敷いてから麺が盛られていた。さすがは、甲府を代表する地元チェーン、演出にも力が入る。

「小作」のつけ汁は具だくさん

つけ汁は、「ちよだ」に比べ具だくさんの印象だ。鶏肉やシイタケ、タマネギなど、油揚げ以外にも食べ応えのある具がたっぷり入っていた。シンプルなつけ汁でねっとりとした麺を味わう「ちよだ」と具だくさんでつるっと麺をすする「小作」、タイプこそやや違いがあるが甲乙つけがたい。選択はお好み次第だろう。

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