群馬県は豚肉を好んで食べる土地柄だ。すき焼きにも豚肉を使うことは、以前にも紹介した。そんな群馬県の、世界遺産、そして国宝の富岡製糸場で知られる富岡のご当地グルメはほるもん揚げだ。豚肉食地帯だけに、揚げているのは豚ホルモンか? などと想像しがちだが、実は富岡のほるもん揚げは、ちくわを縦切りにしてパン粉をつけて揚げたものだ。
その歴史はあまりはっきりしない。色々調べると富岡市内の「河合商店」というお店で誕生したらしい。当初は、肉のホルモンにパン粉をつけて揚げていたようだ。しかし、肉のホルモンは冷めると脂が固まり食べにくくなることから、食感や見た目の似た焼きちくわを代用するようになったという。
富岡市内でほるもん揚げを食べ歩いてみた。スーパーや肉屋さらには魚屋の惣菜売り場で売られている。串刺しが基本で、予めソースがかけられていて、手で持ってその場で食べることができるようになっている。静岡おでんの串揚げ版といったところだ。
試しに、串から抜いて包丁で切ってみる。断面は確かにホルモンにも見えなくはない。ちくわも焼きちくわ、しかも身が薄めで食感のしっかりしたものを使っているようだ。食感もまたホルモンに通じるところがある。
厚めの衣を剥がしてみると、縦切りにした焼きちくわが現れた。こうしても見るとちくわそのものだが、衣をまとったまま食べると、なるほど「ほるもん揚げ」になる。
実際に富岡でほるもん揚げを食べてみよう。最初に訪れたのは元祖店との呼び声も高い「おきなわ屋」だ。富岡製糸場のある中心市街地からは少し離れた上信電鉄南蛇井駅近くにある地元スーパーだ。食品に限らず、生活に必要な雑貨が所狭しと並ぶ店内は、いかにも地元密着の雰囲気。その一番奥に惣菜売り場がある。
揚げ物は昼前後の時間限定で、時間を過ぎると揚げ油の火を落としてしまうようだ。幸い昼前だったので、すぐに揚げてくれた。1本54円だが、注文は3本からだ。3本注文する。揚がるのを待つ間、店内を徘徊する。駄菓子が充実している。地元の子どもたちに愛されているお店のようだ。串に刺さったほるもん揚げは子どもたちのいいおやつにもなっているのだろう。
紙袋に入れて手渡されたほるもん揚げは熱々だった。すでにソースがかかっており「そのまま食べて」とのこと。ソースがしっかり衣に染みている。子どものおやつと言ったが、これはビールのつまみにも適していると思った。
続いて訪れたのは、製糸場近くの中心街にある「肉の専門店岡重」。銀座通りという路地に面しており、通りの名前からも製糸場最盛期はさぞかし賑わっていただろうことがしのばれる。その銀座通りが店の目の前から急に狭くなっていて、店前はクルマの通行が不可能なほどの狭い路地だ。いかにも古の商店街の装いだ。
この日は日曜にもかかわらず、路地には誰もおらず閑散としていた。店頭から呼ぶと、しばらくして奥からご主人らしき人が現れた。注文はやはり3本セットで、132円というお手頃価格だった。冷蔵ケースから取り出したほるもん揚げを、通りからよく見える角に置かれたフライヤーで揚げてくれる。すぐに揚げ上がった。店頭にソースなども見えたが、他の惣菜用なのだろう、ほるもん揚げにはすでにソースがかかっていた。
「肉の専門店岡重」のほるもん揚げは、「おきなわ屋」に比べかなり小ぶり。食感もしっかりしたものだった。肉屋の惣菜だけに豚ホルモンを惹起させるが、噛みしめればやはりちくわだと分かる。
地元の食品スーパーものぞいてみた。創業100年を超える地元密着のスーパー「丸幸」のバイパス店だ。広い駐車場がいかにも群馬らしい。惣菜コーナーにご当地グルメとしてほるもん揚げが並べられていた。やはり3本パックだった。どうやら「ほるもん揚げは3本単位」が地元流のようだ。
「おきなわ屋」や「肉の専門店岡重」に比べ、そのホルモン揚げはかなり大ぶりだった。価格も198円とボリューム相応の価格設定だった。断面を見ると結構大きめのちくわを使っているのか、湾曲が少し控えめだった。肉厚なこともあり、もっとも「ちくわ感」の強い味わいだった。
ソースはそれぞれの店で微妙な味の違いがあり、各自でオリジナルで調味しているようだった。ある意味非常にシンプルな料理だが、ちくわの切り方なども含め、店ごとの味わいの違いがはっきりしているのが興味深かった。どこでも手に入る食材、極めて一般的な調理法のほるもん揚げだが、富岡以外ではあまり見かけない。訪れた際には、ぜひ食べてみてほしい。