湊町の家庭料理 「南房総さざえカレー」

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「肉」の第一印象が東西で大きく違うのは皆さんご存じだろう。関東でいうところの「肉まん」は関西では「豚まん」と呼ばれる。肉の第一印象が、関東では豚肉なのに対し、関西では牛肉なのがその背景にある。家庭料理の代表格、カレーも同様だ。関東ではポークカレーが一般的だが、関西ではデフォルトはビーフカレーだ。家庭のカレーには、その土地で最も親しまれている肉が使われることが多い。そこで登場するのが、さざえカレーだ。

人気の巻き貝、さざえ

さざえは、日本でよく食べられる貝類の中で、特に巻き貝の中ではもっとも代表的な食材だろう。新潟県佐渡や島根県隠岐、長崎県壱岐など離島では肉の代わりにさざえをカレーの具に使うことが多い。海の岩場に行けば、簡単に手に入るからだ。千葉県房総半島の先端部でも、さざえの入ったカレーをよく食べる。

肉の代わりにさざえ

レシピは簡単だ。さざえの身を殻から取り出し、身とワタを切り離す。身を4等分ほどの大きさに切る。野菜はざく切り。フライパンに油を敷き、タマネギを炒め、そこに切ったさざえ、ニンジンやジャガイモを入れて炒める。火が通ったら鍋に移し、水を加えて煮込む。煮立ったらルーを加えて、好みで隠し味を加えればできあがりだ。ごく一般的なポークカレーやビーフカレーと調理法の大差はない。強いて言えば、さざえ特有のコリコリ感があるので、身をあまり厚くしすぎない方が食べやすい。

「昭和レトロ」な「千の光」のさざえカレー

実際に南房総を訪れて、地元のさざえカレーを食べてみよう。最初に訪れたのは東京湾の入り口を照らす館山市にある洲崎灯台のすぐ近くにある喫茶店「千の光」だ。オーシャンビューが自慢の喫茶店で、話し好きの店主が愉快なおしゃべりとともに、自慢のさざえカレーを食べさせてくれる。

リゾートホテル風の「千の光」

付近には店はなく、元々はリゾートホテルだったのだろうか、コンクリート造りの立派なビルだが、どうやらカフェ以外はすでに営業を終えているようだ。それでもカフェは人気店のようで「客はひっきりなしにやってくる、年中無休だ」とのこと。午前9時過ぎの訪店にもかかわらず、すでに先客がいた。

誕生日サービス?

先客とともにさざえカレーのセットを注文。先客も同店の評判を聞きつけての訪店とのことだった。しかもこの日は店主の誕生日だという。さざえをいつもよりたっぷりと盛り付けてくれたそうだ。うれしい大盛りだ。

皿もスプーンもレトロ

カレー自体は実にシンプル。ライスを覆うようにたっぷりとカレーがかけられている。福神漬けなどの付け合わせはなく、サラダなどのサイドメニューもない。コーヒーとセットのカレー一本勝負の内容だったが、カレー自体が非常においしい。楕円形の皿、添えられたスプーンには茶色いプラスチックの柄がついている。見た目通りの「昭和のカレー」だ。ルーにもいい具合にとろみがついている。

コリコリとした食感が魅力的

細かく刻まれたさざえがたっぷりと入る。コリコリとした食感に、ポークやビーフにはない絶妙の食感を楽しめる。窓際の席に座れば、大きな窓越しに対岸の三浦半島まで望める。味といい眺望といい、なかなか魅力的なお店だ。

「房総フラワーライン」で花摘み

訪れたのは2月上旬の3連休の最終日、南房総は花盛り、房総半島の南端だけに一足早い春を満喫できる。お店のすぐ先、館山市下町交差点から南房総市和田町までの約46キロにわたり海岸線を走る道路は「房総フラワーライン」と呼ばれ、1月から春にかけては菜の花やポピー、ストック、キンセンカなど、夏にはマリーゴールドと、季節の花々が道沿いを彩る。この沿道にさざえカレーの店が点在する。花を愛でつつ、美食を味わう絶好のドライブルートだ。

「さざえ屋」のさざえカレー

続いて訪れたのは、南房総市千倉町にある「道の駅ちくら潮風王国」。房総フラワーラインをはさんだ山側にはずらり花摘みの畑が並ぶ。花畑に隣接するのは、さざえ料理専門店「さざえ屋」だ。ここでもお刺身などと並んでさざえカレーを食べることができる。

千倉の「さざえ屋」

同店のさざえと並ぶ看板メニューが伊勢海老。さざえカレーにも伊勢海老のだしがたっぷりと使われている。「千の光」の「昭和のカレー」とは対照的な、潮風香るさざえカレーだ。だしを生かしたルーはとろみが控えめ。本格インドカレーのようなさらっとした舌触りだ。だしを味わうにはこれくらいさらっとしていた方が食べやすいと感じた。「誕生日サービス」ほどではないにしても、やはりさざえはたっぷりだった。

勝浦「いしい」のさざえカレー

千倉では他に「サンドカフェ」、房総フラワーラインの終点に当たる和田町のJR外房線和田浦駅舎を改装した「道の駅 和田浦WA・O!」でもさざえカレーは食べられる。さらに鴨川を越えて沿岸部を北上した勝浦でもさざえカレーは食べられる。朝市通りにある勝浦タンタンメンの人気店「いしい」だ。

カレータンタンメンも魅力

同店はカレールーがかかった勝浦タンタンメンでも知られる。カレーのうまさはお墨付きだ。ちょっと深めの長方形のカレー皿がやはり昭和の風情を感じさせる。ラー油ひとすじの辛さが自慢のタンタンメンを誇る勝浦だけに、辛さも一流だ。

食感は非常に魅力的

そもそもは「肉より手に入りやすかったから」誕生したさざえカレーだが、その味は決して「肉の代用品」のレベルではない。特にその食感は非常に魅力的だ。高速道路を使えば都心からは2時間弱の南房総。ぜひ、さざえカレーを食べにドライブに出かけてほしい。

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