さっと飲んで食って、さっと帰る 大阪の串かつ

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串かつといわれて、3~4センチに切った豚肉とタマネギや長ネギと交互に串に刺し、とんかつのように衣をつけて揚げたものを思い浮かべたら、その人はたぶん東日本で生まれ育った人だろう。小ぶりに切った牛肉や魚介、野菜などを1本ずつ串に刺して衣をつけて揚げた料理を思い浮かべたら、その人はたぶん西日本で生まれ育った人だろう。そして、それって串揚げでしょ?と東日本の人は反論するはずだ。

東日本の串かつ

東京の下町で戦前に生まれ、そのまま育ったわが父のサラリーマンになって最初の赴任地は神戸だった。そこでカルチャーショックを受け、はまってしまったのが屋台の串かつだったという。屋台の天井に串をのせたり、そっと足元に落としたりと、食べた本数をごまかす知恵を必死で絞ったのだそうだ。目の前に並べられた串かつに手を伸ばし、共用のソースにドボンとつける。食べ終えたら、皿に残った串を数えてお会計…それが関西の串カツのお作法なのだ。

揚げたてをソースにドボン

そんな関西の串かつの歴史は、意外に浅い。父の生まれた翌年、1929年に大阪・新世界で創業した「たこ菱」がそのルーツだ。当時は高価だった牛肉を手軽に食べさせようと、一口大の串揚げにして売り出した。牛串とじゃがいもの2種類のみ、1本1銭からスタートした。しかし、開戦とともにいったん店を閉じ、戦後「ダルマ」として再興したのが、現在の「だるま」新世界総本店だ。名物のどて焼きもこの時誕生している。2001年に病気による廃業を決意した三代目店主に常連の元プロボクサー、赤井英和氏が救いの手を差し伸べたのは有名なエピソード。その後は海外への出店や現役総理大臣の訪店など、以前にも増した賑わいを見せている。

串かつ発祥の地「だるま」新世界総本店

そんな、串かつ発祥の地「だるま」新世界総本店を訪ねた。大阪ミナミにある通天閣の周辺には串かつ屋が軒を連ねる。「だるま」も新世界本店の他にジャンジャン店、通天閣店、動物園前店と4店舗が点在する。そんな中でも新世界総本店は別格だ。看板に「発祥の地」を大きく掲げるものの、カウンター12席のみの非常に小さなお店だ。

どて煮からスタート

席に案内されるとまずは瓶ビールを注文。総本店セットなど、セットメニューも充実しているが、串をごまかすつもりはないが、父の面影を追い、数本の串を注文する。すかさず「どて煮は?」と声がかかる。そうだ、名物のどて煮を食べない手はない。何より、串の揚げ上がりを待つあいだのつまみになる。甘くねっとりしたすじ肉とこんにゃくをビールで流し込む。

(左から)イベリコ豚、紅ショウガ、なすび、しそニンニク

コロナ仕様だろうか、二度漬け禁止のソースは封印され、ボトルのソースをかけるスタイルになっていた。キャベツも1人前ずつ登場した。最初に注文したのは、イベリコ豚、紅ショウガ、なすび、しそニンニク。関東人としては、まずはかつといえば豚肉だ。そして、大阪に来たからには紅ショウガを食べないわけにはいかない。東京で紅ショウガといえば細かく刻んだものだが、大阪では大ぶりなショウガをそのままスライスしたものだ。串かつに限らず、天ぷらでも大きな平べったい紅ショウガが一般的だ。

「松葉」のナス

大阪でのビジネスの中心はキタ。出張では淀屋橋や梅田周辺を訪れることが多く、串かつもたいがい梅田周辺で食べることが多い。食べ応えのある縦に3分割したナスが好きで、欠かさず食べていたが、「だるま」では横割りだった。

鶏皮とトマト

やきとりはともかく、串かつで鶏皮は珍しいと思い注文したら、素揚げだった。カリカリに揚げてある。鶏料理店などで「鶏皮せんべい」というメニューを見かけるが、まさにそれだった。クリスピーな食感に、ビールが進む。隣の丸っこいのは、トマト。トマトの水分が油で熱せられ、噛むと口の中に「じゅっ」とあふれ出る。

半熟卵とアンキモ

次は変化球だ。まずは半熟卵。串かつといえばうずらの卵が定番だが、これは鶏卵だ。絶妙の火加減で、黄身のとろみを保ちながら揚げてある。そして背後に見えるのは、なんとアンキモ。あんこうの肝臓。串かつに合うのかと半信半疑で頼んでみたが、なかなかおいしかった。季節限定メニューだそうだ。そして最後は定番の牛串とタマネギで締めた。

多くの客で賑わう「松葉」総本店

キタでも串かつは人気だ。東京モンの筆者が初めて大阪の串カツに接したのは、出張帰り、地下鉄からJRに乗り換えようと梅田地下街を歩いていた際に出くわした黒山の人だかりだった。階段わきのごく限られたスペースで、驚くほど多くの人たちが串かつで飲んでいた。一人でも多く入り込むため、客は皆、体を横向きにしてカウンターに並ぶ。「ダークダックス呑み」。誰かからそう聞いた。

皿に残された串の数で精算する

階段わきの店は地下街のリニューアルに伴い姿を消したが、JRのガード下や新大阪の改札内など、キタのあちこちに「松葉」はある。今も東京へ帰る前には必ず立ち寄る。「だるま」新世界本店では、伝票に書き込み精算したが、「松葉」では、コロナ禍にあってもアルミの皿に残された串の数を数えて精算する。キャベツこそ1人前ずつ出されたが、二度漬け禁止の共用のソースも健在だった。

冬の味、カキの串かつ

季節の変わり目だったこともあり、好物のナスは終わってしまっていたが、代わりにカキが始まっていたので、最初のひと串に選んだ。カキフライと同じといったらそれまでだが、串でほおばると、ひと味違うようにも感じる。

二度漬け禁止の共用ソース

「松葉」は揚げたての串が、目の前のバットに次々並べられるシステム。そこから好みの串を選んで、ソースの海を泳がせてからほおばる。バットに好みの串がなくても注文すれば、揚げてくれる。「ホット」と呼ばれる温めなおしも「松葉」ならではだ。目の前のバットから選んで、あるいは注文を受けて離れた場所のバットからピックアップして、二度揚げしてくれる。それで、さくさく熱々が復活する。

若鶏は骨付き

串は値段によって、長さなどが微妙に異なる。これを精算時、店員が数えて値段を割り出してくれる。串の他に骨まである。若鶏は骨付きのまま揚げられており、食べ終えた後に残った骨が串代わりになる。揚げたてで骨をつかんでほおばる。骨も熱々なので、やけどに注意だ。

キャベツは食べ放題

基本は立ち飲み。さっと飲んで、さっと帰るのが作法だ。飲んで食って腹一杯でも「これで済むの?」な価格もうれしい。最近は東京でもチェーン店ができるなど、気軽に食べられるようになったが、この立ち飲みスタイルはやはり関西ならでは。出張の際には、ぜひ立ち寄りたい。

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