プラスαは量だけじゃない 「栃木のニラそば、大根そば」

投稿日: (更新日:

江戸時代、農民は米をつくっていたにもかかわらずなかなか白米にはありつけなかった。米は年貢として献上せねばならず、代わりに雑穀をまぜて食べていたという。しかもおかずも質素。穀類で腹を膨らませては農作業に精を出していた。そんなかつての庶民の食生活がうかがえる料理が栃木県にある。ニラそばと大根そばだ。

「宮入そば」のニラそば

かつて農民は穀類でさえも腹一杯食べることが難しかった。そこで、雑穀であるそばで麺を打ち、そこに手に入れやすい野菜類を混ぜて「かさ増し」して食べていた。栃木県中部の鹿沼では特産のニラを、県南部の佐野では大根を千切りにしてそばに混ぜた。いずれも細長く、麺に合わせやすい形状だ。

鹿沼産のニラ

栃木県は、高知県に次ぐニラの大産地だ。そんな栃木県の中でも鹿沼市は生産量トップを誇る。ニラは鹿沼を代表する野菜の一つだ。そして鹿沼市は、県内有数のそばの生産地、消費地でもある。鹿沼の在来種「玄そば」は、小粒で香りの元になる甘皮の割合が多いことで知られる。じっくりと完熟させ、より深い味わいをつくり出す。

ニラを加えてボリュームアップ

鹿沼では家庭でそばを打って食べる習慣があり、その際にかさ増しのためにニラを混ぜるようになった。調理法は至ってシンプル。生のそばとざく切りにしたニラを一緒に茹でるだけだ。最後に水で締めて、ざるに盛れば、あとはそばつゆにつけて食べるだけだ。

「宮入そば」

実際に鹿沼でニラそばを食べてみた。訪れたのは鹿沼の中心市街地から南へ下り山へと分け入る手前に店を構える、創業40年を迎える老舗「宮入そば」だ。地元契約農家から仕入れたニラと自家栽培・自家製粉のそば粉を使った手打ちそばを合わせたニラそばが一番人気だ。

そばとニラが山盛り

そばは注文が入ってから茹で始める。待つことしばし、ざるに盛られたニラそばが登場した。まず、その量に驚かされる。山のようなそばの上に大量のニラがのっている。そばのニラの「二段積み」だ。

わさびまで大盛り

薬味に目をやると、わさびまで大量だ。そばつゆに適量のわさびを溶いて、ニラとそばを一緒に浸してから口に運ぶ。その瞬間「これはかさ増しではない」と確信した。単に食べ応えを増すという安易なものではない。ニラのシャキシャキ感が実にそばを美味しくしてくれる。もちろんニラ特有の強い香りもそばの香りに負けない。そばだけで食べるより、2倍も3倍も味が膨らむ。

ニラとそばをつゆに浸して

とはいえ、その量は半端ではない。ふと店の壁に目をやると食べ残しは持ち帰らないでほしいとの張り紙が。よほど食べ残す人が多いのだろう。ニラのかみ応えが満腹中枢を刺激するのか、この量を食べきるのは大食漢でないと難しい。

「鹿沼そば大越路」のニラそば

念のためもう1軒、中心市街地でニラそばを食べてみた。訪れたのは「町の駅新・鹿沼宿」内にある「鹿沼そば大越路」。こちらのニラそばは、「宮入そば」に比べればやや控えめの量だったが、それでもざるそばとしては結構なボリュームだった。

ニラが短めにカットされていた

「宮入そば」とは違い、ニラが短めにカットされていた。ニラは繊維がしっかりしていてなかなか歯では噛み切ることが難しいので、これくらいの大きさにカットされていた方が、個人的には食べやすかった。一見、ニラが柔らかそうだが、やはり歯ごたえがすごい。この歯ごたえと香りで結構な量のそばとニラがするすると胃の中に収まってしまうから不思議だ。

「野村屋本店」の大根そば

一方大根そばは、県南の佐野市周辺が発祥と言われている。大根といえば、大根おろしをそばつゆに添えたり、あるいは辛味大根をおろした絞り汁をそばつゆ代わりにして食べるパターンが一般的だが、栃木の場合はあくまで「かさ増し」がルーツなので、おろさず、麺のように細切りにしてそばに混ぜる。

「野村屋本店」

実際に食べてみよう。佐野駅そばの老舗「野村屋本店」を訪ねた。歴史を感じさせる店構えは、まさに「近所のそば屋」の風情。ここの大根そばは「宮入そば」のニラそばに匹敵するボリュームだった。まさに「かさ増し」の歴史を背負ったイメージだ。大根は軽く茹でているというが、シャキシャキした食感が驚くほど美味しい。そばのコシと大根のシャキが見事なまでのマリアージュだ。

シャキシャキした食感がおいしい

そばつゆに浸すと細切りにした大根がつゆを吸ってしまうのではないかと心配したが、それは杞憂だった。適度につゆをまといながら、食感も味わいも楽しめる。

「手打蕎麦元禄」の大根そば

もう1軒、国道50号線沿いにある「手打蕎麦元禄」を訪ねた。こちらは少しかしこまった「そば割烹」といった装い。こちらの大根そばは、大根が生のままだ。そして非常に細い。「刺身のツマと同じです」と店員さん。これまたシャキシャキ感がたまらない。火が入っていたり、生だったり、そばに混ぜられていたりと、大根の添え方は、店によって様々だという。「食べ歩いて、違いを楽しむのもいいですよ」とすすめられた。

ふんわり絡まった大根

機械で切るというが、見事なまでの細さ、そして長さだ。複雑に絡まり合っていて、箸でつまむと大根だけ持ち上げることも可能なほどだ。いかにシャキシャキ感を保っているか、食べなくても目だけで感じることすらできる。

細く長い

そばつゆに浸そうとそばと大根を持ち上げところ、複雑に絡み合った大根がほどけない。無理に引き離そうと箸を持ち上げても、ものすごい長さでなかなか切れ目に至らない。写真のように高く持ち上げてもつながったままだ。食感がいいに決まっている。

ぜひ一度お試しを

ニラそばも大根そばも「貧しさの食」というイメージを持って食べに出かけたが、いやいやどうして、そばの味と食感を2倍にも3倍にも膨らます実にいい脇役だった。コレは間違いなく「美食」だ。まだ食べたことがない人は、ぜひ1度食べてみることをおすすめする。

Copyright© 日本食文化観光推進機構, 2024 All Rights Reserved.