そうめんは、小麦粉を塩・水とともに練り、よりをかけながら引き延ばして乾燥、熟成させて作る麺だ。揖保乃糸で知られる兵庫・播州や三輪素麺で知られる奈良など全国各地に名産地があり、広く食べられている。東北でも各地で名物として食べられているが、その中でも宮城県白石市の白石温麺(うーめん)は、一般的なそうめんとは食感や味が異なる個性的なそうめんとして知られている。
そうめんは一般的に、引き延ばす際に麺と麺がくっつくことや乾燥を防ぐため、油を塗ることが多い。しかし、白石温麺では油を使わない。さらに、他の地方のそうめんが20センチ前後の長さになのに対し、白石温麺は9センチ程度と半分ほどの短さだ。そして太さも他のそうめんが直径0.7ミリほどなどに対し、白石温麺は1.2ミリほどとやや太めだ。太いことで、伸びにくく、小麦の風味も豊かになり、短いことですすった時につゆがはねにくくなるという特徴がある。
誕生したのは江戸、元禄の時代。今から400年ほど前、白石城下の鈴木味右衛門という人が胃を病んで絶食中の父に何か食べさせるものはないかと探す中で、旅の僧から油を一切使わない麺の製法を教わる。これを温めて父に食べさせたところ、病がすっかり癒えたという。味右衛門の親思いの温かい心と温めて胃に優しく調理したことから「温麺」と呼ばれるようになったという。
温麺を求めて、宮城県南の白石を訪ねた。白石の玄関口、東北新幹線の白石蔵王駅は東京から約2時間。白石城の城下町だった市街地には掘割と水路に加え、商家の蔵が点在、当時の趣を残している。そんなまちのあちこちに製麺屋が点在する。もちろん、看板商品は白石温麺だ。
奥州白石温麺協同組合の直営店「やまぶき亭」を訪ねた。明治後期の商屋を改装した、趣のある建物でうーめん料理を堪能できる。土間が売店やキッチンになっており、靴を脱いで座敷に上がって食事をする。店は広く、大広間もあり、ランチから宴会まで幅広く使えるお店だ。
漢字で「温麺」と書くが、必ずしも温かくして食べるだけの麺ではない。地元では春と秋の彼岸やお盆の時期に食べる精進料理や法事で集まった人たちへのおもてなしの料理としても浸透している。その際は、一般的なそうめんのように冷水で締めてつゆに浸して食べることも多い。
まずは冷たい麺をいただこう。「やまぶき亭」人気ナンバー2の温麺三昧だ。茹で上げの温麺を冷やしてざるに盛る。これを、めんつゆ、ごまだれ、くるみだれの3種のたれに浸していただく。
まずは、だしにしょうゆ、砂糖を加えて煮立て、みりんや化学調味料を加えて味をととのえためんつゆから。わさびと刻みネギを入れていただく。温麺の味がストレートに味わえる食べ方だ。温麺ならでは短さで、つるっとのどごし良く胃に収まっていく。
くるみだれは、ほっとする故郷の味だ。東北は山が険しく、かつて内陸ではなかなか脂質が手に入らなかった。くるみは、山の中で手に入る貴重な脂肪分だ。濃厚な味わいは、ごくシンプルな温麺をごちそうに変えてくれる。
ごまだれも、ごまが持つ油分と加えられた甘さで、くるみとはまたひと味違った濃厚さが味わえる。めんつゆだけで温麺そのものを味わうのもいいが、かつて食材が手に入りにくい中で様々に工夫して「ごちそう」を整えた歴史が、ごまだれやくるみだれから伝わってくる。
そして白石温麺と言えば、温かくして食べる、まさに「温麺」がベストだ。「やまぶき亭」人気ナンバー1は、キノコのおくずかけうーめん。おくずかけとは、野菜や豆腐、油揚げ、豆麩をシイタケの戻し汁で煮込み、そこに白石温麺を加えてくず粉でとろみをつけたもの。現代ではくず粉の代わりに片栗粉でとろみをつけることが多い。
とろみのついた汁がなんとも美味しい。その食感は、中華のあんのような強い粘りではない。舌にまつわりつくような絶妙のとろみだ。そしてこれまた優しい味付け。だしも動物性のだしの強さこそないが、じんわりと舌を和ませてくれる柔らかい味だ。しょうゆの調味も濃すぎない。すべてが柔らかい。その一方で、物足りなさもない。日本人に生まれて良かったな…と思わず感じてしまう味わいだ。
たっぷり入った短い温麺もいい。ずるずるすすらずとも、柔らかい味をとろみでまとった麺がするりと口の中に入ってくる。麺が短いので、箸を上げ下げする回数が多くなるのだが、不思議とそれで腹が満たされていく。なんとも満腹感が味わえるのだ。
シイタケ、エノキダケ…様々な種類のキノコがたっぷり入っているのもうれしい。柔らかい食感のものやエノキダケのように歯にひっかかるような食感など、食べ心地のバラエティーも豊かだ。キノコと温麺だけなのに、やはりご馳走感が高い。
この後、まちなかの製麺所をいくつか訪ねてみた。「はたけなか製麺」では、手延べの生麺も売られていた。生麺、乾麺ともに倍ほどの長さの麺もあった。白石温麺が必ずしも短い麺ではないということを知ることができた。
「きちみ製麺」では、引き延ばしてつくる麺特有の「折り返し」部分「ふし」も売られていた。さらに製造の過程で出るのであろう、不揃いの麺も格安で販売されていた。小豆島や秋田の稲庭など、製麺のまちには必ず見かける地元ならではの麺だ。
城下町、蔵王国定公園、さらにはまちを貫く白石川沿岸には桜の名所も多い。観光で訪れた際には、ぜひ白石ならでは温麺を味わってほしい。