大行列必至、それでも食べたい 「丸亀の骨付鳥」

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骨付鳥とは、鶏の骨付きもも肉をオーブン釜などで焼き上げた、うどん県香川・丸亀市発祥のご当地グルメ。2010年ころに、うどんに続くご当地グルメの開拓を目指し、「昼はうどん。夜は骨付鳥」を合い言葉に、香川全県で広く取り扱われるようになり、全国的に知られるようになった。

人気の元祖店「一鶴」

骨付鳥といえば「一鶴」。今は香川全県に広がったものの、骨付鳥は1952(昭和27)年に丸亀駅近くにオープンした「一鶴」で誕生したメニューだ。当初はお好み焼きとおでんの店だったが、開店翌年には骨付鳥が誕生する。女優が骨付きの鶏もも肉にかぶりつくシーンを映画で見た「一鶴」の創業者が、自分の店でもこれを提供できないものかと思いつく。様々なスパイスで試行錯誤を繰り返し、今の骨付鳥が誕生した。それ以来70年、「一鶴」の看板メニューとして、多くの人々の舌を喜ばせ続けている。

おやどりとひなどりをいっぺんに

実際に丸亀を訪れて骨付鳥を味わってみよう。まずは元祖に敬意を表して「一鶴」を訪れた。取材時はゴールデンウイークの谷間に当たる5月1日。繁忙期は予約は受け付けず、並んだ順で入店とのこと。開店時間17時の15分前に店に到着したが、すでに大行列で、自分の順番になる前に、店の席はすべて埋まってしまった。

おやどりには予め切れ目が入っている

一般に骨付鳥には、産卵を経験していないひなどりと産卵経験のあるおやどりの2種類がある。ひなどりはジューシーで肉質が柔らかいのが特徴。一方でおやどりは肉質こそ硬いが、味が深い。噛みしめるほどにうまみが出てくるのがおやどりだ。丸亀の骨付鳥は、この2種を同時に注文、食べ比べるのがお約束なのだ。

食感が柔らかいひなどり

開店から1時間半ほどでようやく入店にこぎ着けた。さて注文だが、おや・ひな同時注文が定番だが、一人で食べるなら量的にはどちらかひとつでじゅうぶんだ。そして、ご飯物も一緒に食べるのが、これまた骨付鳥の定番だ。周囲を見渡すと、ゴールデンウイークのせいもあるのだろうか、一人客が多く見受けられた。そしてその人たちの大半が、2皿の骨付鳥を目の前に並べていた。意を決して、おや・ひなを同時注文する。

味の決め手となる皿の底の脂

入店するまではひと苦労だが、席に着けさえすれば、後は順調にコトが進む。ビール生大をゆっくりと口に運びながら骨付鳥の到着を待つ。そして熱々のアルミ皿にのったおやどり、そしてひなどりの骨付鳥と、同じくアルミ皿にのったキャベツが運ばれてきた。

キャベツに脂と肉の切れ端ものせて

「お皿が熱いので、端を持ってください」と受け取ると、皿の底には大量の脂が。この脂が熱々なのだ。そして、この脂こそが骨付鳥を美味しく食べるカギを握る。まずは、キャベツをこの脂に浸していただく。あっさりシャキシャキの生キャベツに鳥の脂を滴るほどすくい、口に放り込む。途端に濃厚な味が口の中に広がる。この味でビールが進むのだ。

骨を手に持ってかぶりつく

まずは、おやどりから。事前にカットをお願いすることも可能だが、何も言わなければ鳥ももそのまま1本が運ばれてくる。ひなどりはそのままだが、噛み切るにはちょっと不向きなおやどりには事前に切れ目が入っている。骨の先端、肉の付いていない部分に紙ナプキンを当て、手に持つ。そして、切れ目を頼りに、肉をかじり切って食べることになる。

柔らかいひなどり

確かに歯ごたえが強いが、決してかみ切れないというほどではない。何度か咀嚼するうちにどんどんうまみが口の中に広がっていく。これこそが骨付鳥、おやどりの最大の魅力だ。そしてうまみが口の中いっぱいに広がったところで、それをビールで洗い流す。無限ループの始まりだ。かんでは流し、またかんでは流すが繰り返される。

鳥スープ付きのおむすび

ひなどりも食べてみよう。骨を手に持ってかぶりつく。皮がパリッと香ばしく、肉汁があふれ出てくる。おやどりとは対照的に、こちらはソフトな歯触りだ。このうまみと歯触りのコントラストこそが骨付き鶏の魅力だ。とても食べ切れそうにないと思いつつ注文した2皿だが、みるみる肉がなくなっていく。

おむすびにも脂を吸わせる

ここでおむすびの登場だ。鶏皮の入った鳥スープとともにおにぎりが3つも運ばれてくる。「ひとつでいいんだけど…」と心の中でため息を吐きつつ、おにぎりを皿の脂に浸す。米粒が脂のうまみを吸い込み、なんとも言えないうまさになる。鳥のうまみを炊き込んだとりめしも人気メニューだが、個人的には、この脂浸しおにぎりこそが骨付鳥に最適と信じて疑わない。ため息をすっかり忘れ、おにぎりは3つとも胃袋に消えてしまった。

とりめしも人気

香川全県にまで広がった骨付鳥。地元・丸亀なら「一鶴」以外にも提供店は多い。店が多いということは、競争が生まれ、味も高まる。「一鶴」の大行列は、よほどこだわりを持つ人でない限りちょっとしんどいのは確かだ。初心者なら、あの行列を見ただけで食欲を失ってしまうだろう。

「骨付丸亀鳥」

「一鶴」から歩いてすぐの通町には、骨付鳥を看板に掲げる店が軒を連ねる一画がある。翌日、そのうちの「骨付丸亀鳥」のれんをくぐってみた。「一鶴」の大行列からあぶり出されたのか、地元客を中心にてんやわんやの忙しさだった。「一鶴」の大行列から逃げ出してきたのか、食事中何組もの客が顔を出しては、満席を理由に入店を断られていた。

「骨付丸亀鳥」の鳥もつ煮

さすがに前日がベビーだったので、この日はおやどりのみを注文する。目の前のカウンターにはおばんざいが並べられ、それを見ながら美味しそうなものを小鉢に盛ってもらう。この日は鳥もつ煮となす味噌を選んだ。鳥がメインのお店だけに、鳥もつ煮がおいしい。きんかんもたっぷりと入っている。

「骨付丸亀鳥」の骨付鳥おやどり

登場した骨付鳥のおやどりには料理用のはさみが添えられていた。これはうれしかった。もちろん切れ目が入っていてかぶりつけないこともないのだが、食べやすさは圧倒的だ。「一鶴」同様、脂が皿の底にたっぷりと溜まっていて、これにキャベツを浸して、肉とともにいただく。やはりビールが進む味だ。

料理用のはさみは意外に便利

そして「骨付丸亀鳥」でも、少しためらいつつもおにぎりを注文する。ごまのおにぎりが2個と海苔巻きが一つ、たくあん付きというのは「一鶴」と同様だった。事前のためらいも何のその、やはりおにぎり3つを脂に浸しながら食べきってしまった。

19時、行列の最後尾が見えない

骨付鳥のおいしさを全国に知らしめたのは「一鶴」の努力の賜物であることは間違いない。行列が長すぎることを除けば、接客もいい。味ももちろんいい。しかし、あの大行列は「ちょっと骨付鳥ってのを食べて帰ろうか」という人にはちょっとハードルが高すぎるようにも思う。まずは元祖店で食べてほしいが、子ども連れなど「行列はちょっと遠慮したい」という向きには、最初から「骨付丸亀鳥」などのお店で食べてみるのもいいだろう。

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