夏でもおいしい、冬ならカニも 「金沢おでん」

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これまでにも何度か取り上げてきたが、おでんはけっこう地域性を色濃く反映する食べものだ。かつおぶし、あるいは昆布といっただしの違い。しょうゆ、あるいはみそといった味付けの違い。白いはんぺんと黒はんぺんなどおでん種の違い。さらには、しょうがじょうゆ、あるいは、しょうがみそをかけて食べるなど食べ方の違いに至るまで、地域ごとに差が大きい。そんな中で金沢のおでんは、地元野菜や旬の魚介をふんだんに使うのが特徴だ。

季節を問わない金沢のおでん

さらに、金沢では夏にもおでんを食べる。コンビニおでんに代表されるように、そもそもおでんは寒い時期に食べるものだ。コンビニでは、夏でも気温が下がり始めるとおでんを始めると言うが、盛夏でもおでんを食べるのはやはり金沢ならではだ。通年でおでんに特化できれば、専門店でも商売ができる。夏でもメニューを変える必要がないからだ。だから、金沢にはおでん専門店が多い。

だしの透明度は高い

だしは関西風の透き通るような透明度。昆布と煮干のだしに地元大野産のしょうゆを加えるのが金沢流だ。能登では風味の強い魚醤のいしるも使われる。おでん種なら、車麩がその代表選手だろう。麩が、各店自慢のだしをたっぷり吸い込む。通年ではバイ貝。冬になればカニ面も金沢おでんならではの種だ。地元名産の香箱ガニの甲羅に、カニの身、卵、ミソを詰め込んで煮込む。おでん種と言えば魚のすり身が一般的だが、魚介をそのまま使う。

赤巻きはかまぼこ

そのすり身も、他のまちとは少し異なる。かまぼこは、板付きではなく、富山で有名な昆布で巻いたものだ。オレンジ色に巻かれたものは「赤巻き」と呼ばれる。ふかしも金沢ならではだ。一見はんぺんのようにも見えるが、食べてみると意外にしっかりしている。はんぺんと練り物の中間のような感覚だ。実際にお店で食べてみよう。

湯葉もおでん種に

9月の3連休と言うこともあって、有名店は想像を絶する混雑ぶりだった。ふらっと立ち寄っても「満席です。待っても入れないでしょう」と断られた。翌日、夕方早く、開店直後に訪れても「予約で一杯、予約分だけで精一杯」と誰ひとりいない店にすら入れてもらえなかった。香林坊の人気店を片っ端からのぞいていくと、まだ明るいうちにもかかわらず、店の前には長い行列ができていた。

行列が絶えない「菊一」

開店1時間ほど前から並び、幸いにも人気店の「菊一」に入ることができた。さっそくおでんを注文する。おでんに大根は不可欠として、いかにも金沢な車麩、赤巻き、ふかしがまず登場した。注がれただしの透明度に注目してほしい。調味料よりもだしの味が前面に押し出されている。

だしが染み込んだ車麩

特筆すべきは車麩だ。このあと何種類か金沢おでんを食べたが、車麩が明らかにベストと感じた。ふわっとした食感だが、焼きが入った部分は箸では容易に切れないくらいしっかりしている。食感のコントラストが魅力的だ。なによりふわっとした白い部分にたっぷりとだしが染み込んでいる。だしをすすりながら酒を飲むのは無粋だが、こうして車麩に吸わせただしを味わいながら飲む酒が格別だ。

バイ貝、右端が肝

やはり、金沢おでん特有なのがバイ貝だ。プリッとした歯ごたえの身と濃厚な肝が同時に味わえる。さらに、バイ貝自身からもだしが出ることから、単なるおでん種以上に、金沢おでんには不可欠の種と言える。

だしで炊いたたし巻き

大根と並びおでんの中心的存在なのは卵だ。金沢おでんにもゆで卵が入るのだが、ゆで卵の他に、金沢ではだし巻きもおでん種になる。そもそもだしを含ませて焼くものだが、それをさらにだしで煮込むことで、車麩同様、ゆで卵では味わえない深いだしの味を堪能できる。

「赤玉」のえびしんじょう

同じく香林坊の人気店「赤玉」ものぞいてみよう。ここで食べておきたいのは、えびしんじょうだ。東京でえびしんじょうというと、エビをすり身にして揚げたものだが、「赤玉」のそれは全く違っていた。さつま揚げではなく、食感はほぼはんぺんだ。ふわふわ。その中に小エビが入っている。名前から想像していたものとのギャップと、想像以上のおいしさに驚かされた。

すり身を蒸したふかし

ふかしは、魚のすり身を蒸した金沢伝統のおでん種だ。揚げずに蒸すため、だしを吸いやすい。すり身を油で揚げないという点では、見た目も含めはんぺんにも似ているが、どちらかといえばかまぼこに近い食感だった。

ぜんまいが入ったしのだ巻き

ぜんまいを薄揚げで巻いたしのだ巻きにも驚かされた。

金時草のおひたし

金時草のおひたしがあれば、ぜひ食べておきたい。加賀野菜の金時草は、葉の表面こそ緑色だが、裏側は鮮やかな紫色になっている点が特徴。香味野菜的な風味と、セリや春菊に近い独特な味わいを持っている。クセがなくて食べやすい。

冬の名物かに面

最後に冬のみだが、最も金沢らしいのカニ面だ。そもそもおでん種の原料となるすり身は、雑魚や獲れすぎた魚が原料になることが多い。高級魚介の部類に入るカニをおでんにするとは、いかにもカニどころ北陸らしい。上品で薄味の金沢おでんのだしだからこそ、カニの身の風合いを損なわずにおでんとして食べられるということもあるだろう。冬に金沢おでんを食べる際には、欠かせない一品だ。

えびしんじょうの中のえび

金沢には創業50年以上を経たおでん屋が加盟する「金沢おでん老舗50年会」もある。それだけ、おでん屋が多く、歴史も長いと言うことだ。混雑店ばかりだが、まずは「金沢おでん老舗50年会」の木札を探して、その店ののれんをくぐることをおすすめしたい。

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