農林水産省が発表した2020年の海面漁業生産統計調査によると、長崎県のアジ類の水揚高は、50,183トンと都道府県別でトップ、全国の水揚高の実に45%を占めている。そんな「アジ県」長崎の中でも、特にアジ漁で知られているのが、県北部、北松浦半島に位置する松浦市だ。2019年には、前年に就任した友田吉泰市長が、同市が「アジフライの聖地」であることを宣言、20年には、その「アジフライの聖地」が商標登録されるなど、今、アジフライで大いに盛り上がっている。
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そもそも地元では刺身などで食べられていたが、市長の発案でアジフライに注力。提供店のマップをつくったり、市内各地にアジフライのモニュメントをつくるなどして、短期間のうちに、松浦が「アジフライの聖地」として知られるようになった。そもそも北海道から九州まで、日本海、太平洋を問わず広く水揚げされ、アジフライも全国的によく食べられている人気メニューだが、松浦の「聖地のアジフライ」は何が違うのか、実際に現地を訪れて確かめてみることにした。
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松浦魚市場を目指して車を走らせる。地元ならでは味を確かめるなら市場内の食堂がいいだろうと考えたのだが、あいにくと連休のさなか、市場そのものが休場だった。気を取り直して向かったのは、海沿いの直売所に併設された「海の里食堂」だ。しかし、3年ぶりにコロナ関連の規制が解かれた連休中とあって、店内は人でごった返していた。客が殺到し、注文もそこそこに、できあがったアジフライ定食を奪い合うような状況だった。
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この状況で、果たして美味しいアジフライが食べられるのか…。それは杞憂だった。できあがった定食を競って奪い合うような状況だけに、アジフライは揚げたてそのもの。衣はさくさく。しかも非常に肉厚だ。
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普段、居酒屋や定食屋で食べるアジフライは、たいがい「開き」だ。頭を落として開き、中骨を取った、尻尾を頂点とした三角形が定番だ。しかし、松浦「海の里食堂」のアジフライは違った。タラやサケのフライのように細長い形をしている。3枚下ろしにしたアジに衣を付けて揚げているのだ。
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となれば、身は薄めなのかといえばさにあらず。箸を入れて割ってみると、非常に肉厚だ。関東の朝食の定番、アジの開きの干物に食べ慣れた身としては、驚きの厚さだった。それだけに、しっかりした歯ごたえを感じられる。しかも、丁寧に小骨が抜かれているのだ。魚嫌いの子供でも喜んで食べられるだろう、全くといっていいほど小骨に当たらない。もちろん、味も深い。
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まずは、ソースで食べてみる。さくさくの衣には、やはりソースがよくなじむ。
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一方で、しょうゆも捨てがたい。肉厚で、しっかり魚の味がしっかりするので、中の身に重点を置いて味わいたいなら、しょうゆのほうがいいかもしれない。調べてみると、松浦市内の各店ではオリジナルソースやタルタルソースなど、お店ならでは味付けで食べられる店も多いようだ。食べ歩くにはちょっとヘビーな大きさだが、各店回ってみたくなった。
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あまりのおいしさに、隣接している直売所で冷凍のアジフライを買い、自宅宛てに送った。ここまで肉厚で、味のしっかりしたアジフライは東京ではなかなか食べられないだろうと思ったからだ。ついてに、惣菜コナーのアジの素揚げにも手を伸ばした。
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やはり3枚おろしのアジだった。冷めてはいたが、衣がない分、アジの味を存分に堪能できた。「松浦アジフライ憲章」によれば、松浦のアジフライは、「ノンフローズン」あるいは「ワンフローズン」が基本なのだという。現地店で提供されるアジフライは、松浦魚市場や松浦市近海で水揚げされたあじを捌き、そのままパン粉をつけて揚げたものだ。そして、家庭用の持ち帰りは、その日に水揚げされた刺身レベルの鮮度のあじを捌き、その日のうちに粉付けまでして凍らせた「ワンフローズン」だという。そうした徹底したこだわりが、確かに味に現れている。
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休場だった松浦魚市場だが、そこではアジフライの自動販売機が稼働していた。売り切れない限り、「ワンフローズン」のアジフライが常に購入できる。
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「道の駅松浦海のふるさと館」にも立ち寄り、アジフライを確かめる。冷蔵ケースには「ワンフローズン」のアジフライが用意されている。惣菜コーナーにも揚げたてのアジフライが売られていた。やや小ぶりのアジを使ったもので、フィーレ(3枚おろし)と開きの2種類が並んでいた。
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小ぶりだったこともあり、開きバージョンを選んだ。しかし、開きにもかかわらず、その肉厚ぶりは健在だった。しっかり、アジそのものの味を味わえる。その場で食べたこともあり、ソースもしょうゆもなしでだったが、それでもじゅうぶんに美味しかった。
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ちなみに、東京・日本橋にある長崎県のアンテナショップ「日本橋長崎館」でも、「ワンフローズン」のアジフライが販売されていた。できれば現地で食べることをおすすめしたいが、まずは、肉厚で味の濃い、聖地のアジフライに一度触れてみてほしい。そうすれば必ず、「ノンフローズン」の食べ比べに行きたくなるはずだ。