会津若松のご当地グルメといえばソースかつ丼が全国的に有名だが、あまり目立たないものの地元でよく食べられているのが、カレー焼きそばだ。非常にシンプルなメニューで、ごく普通のソース焼きそばにごく普通のカレールーをかけて食べるものだ。
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そのルーツは昭和50年代と言われている。焼きそばとカレーを取り扱っていたお店で、焼きそばにカレールーをかけて提供したのが始まりといわれている。その安さとボリュームから若者を中心に人気を集め、昭和50年代に地元の学校に通った世代には「青春のソウルフード」として愛され続けている。
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やがて青春の味は、他の飲食店にも広がっていく。その後、提供店の店主たちが集まり、会津カレー焼きそばの会を結成、テレビに出演したり、各地のイベントに出展するなどして知名度を上げていったが、現在では目立った活動がなく、会津若松以外ではあまり知られていない。しかし、会津若松市中心部の食堂の多くで現在も提供が続き、地元密着のご当地グルメといった感覚だ。
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カレー焼きそばの地元における立ち位置が実感できたのは、市内博労町通り沿いにある「吉田食堂」だ。昭和レトロな内外装の食堂は、いかにも長年にわたって地元で愛され続ける食堂といった佇まいだ。昼時前に店を訪れると、リアにおかもちキャリアを積んだバイクが、エンジンをかけたまま店の前に止まっていた。
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店に入ると、とたんに電話が鳴る。出前の注文だ。もちろんカレー焼きそばの注文も入る。メニューを見るとバラエティー豊かだ。ラーメンはもちろん、カレーライス、かつ丼、焼きそば、チャーハン…大衆食堂の定番がずらり並ぶ。カレーとかつがあるのだから、当然かつカレーもメニューに載る。そうやって考えれば、ソース焼きそばにカレーがかかっていても何の不思議もない。メニューにはカレー焼きそば、カレーチャーハン、さらにはカツカレーチャーハンまである。
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カレー焼きそばを注文する。出前用と合わせて、中華鍋で大量の焼きそばを炒める。キッチンをのぞくとウスターソースと中濃ソースをあわせて使っているようだ。できあがったソース焼きそばを皿に盛り、その上からカレールーをかける。そういう意味では、特別な工夫はない。ごく普通の大衆食堂の焼きそばにごく普通の大衆食堂のカレールーをかけただけ。素朴な味だ。
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ラーメンスープが添えられていた。具はワカメと刻みネギ。洋食店でも和食店でもなく、ラーメンもある、いわば町中華のような食堂だ。中華スープに違和感はない。何も考えず、味の確認もせずにテーブルの胡椒を振り入れてしまった。
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ルーがかかった上からでも、キャベツの存在感が光る。意識したわけではないのだろうが、焼きそばとカレーに混在一体感がある。味には関係ないが、店名と電話番号の入った皿がそそられる。きっと出前が多いのだろう。
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麺は黒石焼きそばのような、太く平べったい太平麺だ。ルーがかかっていない部分を探して味を確かめると、ごく一般的なソース焼きそばの味付けだ。改めてカレールーを絡めて食べてみる。もっちりとした「にっぽんのカレーライス」のカレールーだ。ソース味と合わさっても違和感はない。大阪「自由軒」のソースをかけて食べるカレーライスのようだ。付け合わせは紅ショウガだった。
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もう1軒、栄町の「くるくる軒」でカレー焼きそばの味を確かめた。こちらは店構え、メニュー構成からして食堂というよりラーメン店だ。やはりキャベツの存在感が強い。カレールーは「お母さんのカレー」のような、大きなごろごろした肉や野菜がたっぷり入っていた。よりカレーライスのテイストに近いカレールーだった。
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麺はやはり太平麺で、スープはワカメ、刻みネギ入りのラーメンスープだった。付け合わせは紅ショウガだ。
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最後にもう1軒、変わり種のカレー焼きそばを食べてみた。会津ソースかつ丼も人気のラーメン店「めでたいや」のソースかつカレー焼きそばは、ソースかつ丼とカレー焼きそばという2つの会津名物をかけあわせて作ったメニューだ。ソースかつ丼とカレー焼きそばがどう融合するのかと思っていたが、そもそもカレー焼きそば自体、ソースとカレーが融合したもの。違和感はなかった。とはいえ、圧倒的なボリュームで知られる会津のソースかつ丼だけに、さすがに食べきるのに苦労した。付け合わせは福神漬けだった。
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焼きそばとカレーをメニューに載せる店なら、すぐにでも提供できるカレー焼きそば。考えてみれば、会津以外で食べられていないのが不思議なくらいだ。もしかすると、会津の人たち自身も「ごくありきたりな日常食」とカレー焼きそばを考えているのではないかと感じた。実際に「吉田食堂」ではカレー焼きそばの出前の注文が多かった。あまりに当たり前すぎて「ご当地ならではの名物料理」の感覚がわかなかったことが、会津ソースかつ丼のように、ご当地グルメとして知名度が上がらなかった原因なのではとさえ思った。