繊細な麺生かす優しいにゅうめん 「淡路島そうめん」

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東北から九州まで各地で生産され、食べられているそうめん。播州の「揖保乃糸」や徳島の「半田そうめん」など、地方で生産され、全国に流通する例も多い。瀬戸内でもそうめんづくりが盛んで、淡路島でも、地元のローカル製麺所がそうめんを作っている。今回はそんな淡路島のそうめんを紹介する。

淡路島のそうめん

淡路島のそうめんの歴史は江戸時代、天保年間(1830~43年)に始まる。淡路島南部・福良に住んでいた人が、伊勢参りからの帰り道、三輪地方でそうめん作りに遭遇。そのおいしさに引きつけられた。食べるだけでなく、そうめんづくりを持ち帰るべく、三輪に止まり、そうめんづくりの修行に打ち込んだ。その結果、製法を福良に持ち帰り、定着したという。

太さや製造元の違いで様々

瀬戸内の気候はそうめんづくりに適していたこともあり、明治に入ると漁師たちの冬場の副業として発展、約130軒の製麺所が軒を連ねていたという。その後、各地の博覧会や品評会に出品、1915(大正4)年のサンフランシスコ万博では金賞を受賞するなど、淡路島のそうめんは地元の名物になった。しかし、戦時中の減産や県内・播州への統合などから、淡路島でのそうめんづくりは最盛期ほどではなくなったが、それでも、地元の伝統を絶やすまいと、小さな製麺所が営業を続けている。

こちらにも、あちらにも製麺所

福良は漁港のまちだが、そこから細い路地を山に向かって入っていくと、あちこちに製麺所がある。クルマ1台が通るのもやっとの細い路地の奥に入っていくと、けっこう製麺所にでくわす。漁師たちの副業として発達したというその歴史がうかがい知れる。

金山製麺直営「手延べそうめん処金山ら福」

ただし、いずれも町工場と言うよりは「家内制手工業」のレベルの製麺所が多く、できあがった麺を買って帰ることはできても、現地で実際に食べてみるのは容易ではない。しかし、そんな小さな製麺所の一つ、金山製麺直営の飲食店「手延べそうめん処金山ら福」が2020年にオープンした。そちらで、特製のそうめんをいただくことにする。

梅にゅうめん

店内には流しそうめんも可能な施設もあったが、せっかく淡路島まで来て食べるのだから、ただ冷やしそうめんにして食べるのではもったいない。冷やしそうめんは自宅で食べることにして、温かいだしに浸して食べるにゅうめんをいただくことにした。まずは、梅にゅうめんをいただくことにしよう。

だしが絶妙

昆布と淡路産のイリコでとったというだしが絶妙だ。繊細なそうめんにぴったりの薄味だが、決して物足りないわけではない。そうめんの味わいや食感を上手に引き出すかのように、味付けはごく控えめに、それでいて、だしの味わいはしっかりと感じさせる仕上がりになっている。

繊細なそうめんにぴったりの薄味

これまた絶妙なのが梅干しの存在感。わかめと細切りにした錦糸卵、そして水菜というトッピングも、すべて繊細なだし、そうめんの味と食感を損なわない、絶妙の優しさになっている。そこに、梅干しをひとかじり。あまりしょっぱくない梅干しが、全体を爽やかにまとめ上げている。

あなご天にゅうめん

普段にゅうめんはなかなか食べないものだ。しかし、以前紹介した宮城県白石市もそうだったが、そうめんづくりが盛んな地域では、けっこうにゅうめんが食べられている。せっかくなので、日を改めて、もうひと品、にゅうめんを食べてみることにした。

びっくり大のあなご天

食べたのはあなご天にゅうめん。対岸の明石市もそうだが、この海域はあなごが有名。ぜひそのあなご天をトッピングして食べてみようと考えた。梅にゅうめんが700円なのに対し、あなご天にゅうめんは900円。価格差が200円だけ本当にいいのかと思いたくなるくらい、上質のあなご天だった。

しかも美味しい

けっこうびっくりの大サイズのあなご天が2枚。しかも、歯を押し返すようなプリプリ感を持った、鮮度抜群のあなごなのだ。ここまで美味しいあなごは、そう簡単に食べられるものではないだろう。あなご天のおいしさに舞い上がり、夢中でにゅうめんを平らげてしまった。揚げ物がのることで、あっさり繊細なにゅうめんが、非常にパンチのある味になった。

沸騰したお湯で20秒から2分

冷やしそうめんは乾麺を買って帰り、自宅で食べることにした。淡路島のそうめんには、最高級品で麺の太さが0.4~0.5ミリの「おのころ糸」、淡路島手延べそうめんの代表銘柄で麺の太さが0.7~0.8ミリ「御陵糸」、かつての代表銘柄で麺の太さが1.2~1.3ミリ「淡じ糸」などがある。今回は「御陵糸」を食べてみよう。

地元産のだしでいただく

まず、大きめの深鍋で、1リットル以上のお湯を沸騰させる。そこにそうめん2束=1人前をバラバラとほぐしながら入れる。再び沸騰したら、吹きこぼれない程度に、火を弱めて好みの固さにゆでる。ゆで時間は「おのころ糸」なら沸騰後約20秒、「御陵糸」なら沸騰後約1分半、「淡じ糸」なら沸騰後約2分がメドだ。手早くざるにあげ、冷水にさらし、ぬめりを取っていただく。だしは、そうめん売り場に置かれていた、地元特産のタマネギを生かしただしを使った。

つるっとした口当たり

1人前2束は結構量があった。これを地元産の濃縮だれを2倍に薄めたつゆに浸していただく。つるっとした口当たりでどんどんと食べ進む。氷を入れて冷やした麺はとても食べやすい。あっという間に食べ尽くしてしまった。

「切れ端」は製麺のまちの証

そうめんの機械化を受け入れず、小さな工場で、全国的にも珍しい古式伝統の手延べを守り続ける淡路島のそうめん。そうめん本来の味、コシ、のどごしが魅力的だ。暑さも本番、冷たいそうめんの美味しい季節到来だ。ぜひ、淡路島のそうめんを食べてみてほしい。できれば現地で。

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