中華をインドにしてしまえ!? 「東京のインド中華」

投稿日: (更新日:

数多くのIT技術者を輩出するインド。「2000年問題」を期に、国内で不足するIT技術者がインドから多く来日し、都心に近く比較的生活コストが安い江東区や江戸川区に居を構えた。外国人が多く暮らすまちには、故郷の味を提供する店も自然とできてくる。以前紹介した群馬県大泉町のブラジル料理がその典型だ。もちろんインド人が増えればインド料理店が増えるのだが、純粋なインド料理に加えて、ちょっとユニークなインドの食文化も江東区・江戸川区周辺に増えてきた。インドでローカライズされた中華料理、インド中華だ。

インド料理と中華料理が融合

日本はもちろんのこと中国人は世界各国に移り住み、帰化する人も多い。日本の中華街・南京町やアメリカのチャイナタウンなど、移り住んだ地で独自のコミュニティーを形成、現地の経済・政治にまで影響力を持つことも多い。食文化の面でも同様だ。移り住んだ中国人たちは自らの食文化を持ち込み、それがやがて現地化・ローカライズしていく。日本のラーメンや焼き餃子は、日本化された中華料理と呼んでいいだろう。同じようなことがインドでも起こっている。

西葛西の「ムンバイキッチン」

地理的な面もあり、いわゆる華僑・華人はアジアに多く暮らしている。インドネシアやタイ、マレーシアなどに多く、シンガポールでは全人口の半数以上が中国系と言われている。インドも例外ではない。イギリス統治時代に国際化が進み多くの中国人が流入した。しかし、第二次世界大戦後に中国との関係が悪化すると、一転、人や文化の交流が希薄になってしまった。この時期に、インドの中華料理の現地化が進んだと言われている。そう、インド料理でもなく、中華料理でもない、独自のインド中華が生まれることになった。

「インドヤレストラン」のシェズワン焼きそば

典型的な味付けとしてシェズワン(四川風)とマンチュリアン(満州風)があるが、いずれも四川や中国東北部で生まれた味ではない。赤トウガラシ、油、ニンニク、ショウガ、香味野菜を塩、しょうゆ、砂糖で味を調えたのがシェズワンソース。一方マンチュリアンは、ガラムマサラやクミンなどインドのスパイスを効かせた青トウガラシを使って味付けする。

「インドヤレストラン」の野菜マンチュリアン

では実際にお店でインド中華を食べてみよう。訪れたのは、西葛西にある「ムンバイキッチン」。なんと隣のビルの1階もインド料理屋で、間違えて入りそうになってしまった。やはり西葛西、インド人が多いのだろう。実際に店に入っても、客の半数以上はインド人らしき人たちだった。

「ムンバイキッチン」のパニールチリ

メニューを見ると、本格インド料理とインド中華が分けて記載されている。「CHINESE SNACKS~中華風おつまみ~」として12品、「CHINESE INDIAN FOODS~中華風インド料理~」としてやはり12品ある。まずは、おつまみでビールをいただこう。パニールチリは、インドやアフガニスタン、イランなどの地域で一般的なカッテージチーズであるパニールをタマネギやピーマンとともにチリソースで仕上げた一品だ。まるで木綿豆腐のようなしっかりした食感は、炒めても崩れることはない。淡白な味を独特のチリソースが刺激的に変身させる。

「ムンバイキッチン」のエビマンチュリヤン

エビマンチュリヤンは、小エビのフリッターをしょうゆを効かせたマンチュリアンソースで炒めたもの。味や色合いは確かに中華料理に近い。しかし、香辛料を効かせた独特の味わいはやはりインド料理の影響大だ。

「ムンバイキッチン」の中華風焼きそば

おつまみでは、個人的に最も気に入ったのが中華風焼きそばだ。「中華風インド料理」の項にも焼きそば類があるのでいったいどう違うのかと思ったら、冷たい焼きそばだった。いわゆる「堅焼きそば」の麺をキャベツなどの生野菜とともにシェズワンソースで和えてある。麺のパリパリとした食感と野菜のシャキシャキがなんとも絶妙だ。そして、かなり刺激的な辛さを持つシェズワンソースが喉にビールを要求する。チューハイやハイボールなど「ごくごく系」のアルコールには最適の一皿だ。

「ムンバイキッチン」のチキントリパルシェズワンライス

シメにはチキントリパルシェズワンライスを注文した。これが何とインド中華風のそばめしなのだ。メニューには「チキン、ライス、ヌードル、エッグのスパイシーグレーピー」とあったが、写真には写っていた薄焼き卵は省かれていた。「チキントリパル」とはなんだろうと色々検索してみたが、情報は出てこない。さらに検索すると、どうも「トリパル」は「トリプル」の誤植のようだ。ライス、ヌードル、エッグの「トリプル」にチキンが加わったものが「チキントリプルシェズワンライス」のようだ。

辛みの強いグレーピーソース

神戸同様、麺は細かく切られていて、長粒米もあいまって、見た目には米と麺の区別がつきにくい。まずはグレーピーソースなしで食べてみる。シェズワンソースで味付けされていてかなりホットだ。そして「かけて食べてくれ」というグレーピーソースが輪をかけてホットだ。辛い味が苦手な人なら降参しそうな辛さだ。

ソースをかけるとさらにホットに

インドと中国に神戸まで加わり、混沌としてきたが、これがなんともうまいのだ。シメに頼んだのだが、思わずビールを追加してしまった。

添えられるご飯はパスマティライス

江東区では西大島にもインド中華で知られる「マハラニ」がある。シェズワン、マンチュリアンに味付けされた料理が並ぶ。西葛西から江戸川を渡った先、東西線行徳駅近くにはやはりインド中華を扱う「インドヤレストラン」がある。一見中華風のチキンマンチュリアンにパスマティライスが添えられると俄然インド中華の雰囲気が盛り上がる。

美味しさに国境はない

残念ながら、今のところインド中華の専門店は見かけない。しかし、今回紹介した3店舗のようにインド人が経営するインド料理店が、故郷の味を求める常連客のために用意しているケースは他にもあるのではないか。是非一度食べてみてほしい。食べてみれば、その魅力が分かるはずだ。

Copyright© 日本食文化観光推進機構, 2024 All Rights Reserved.