高級フルーツとして知られるメロン。しかし、スイカ同様、植物学的には瓜の仲間になる。温室ものは通年で出回るが、本来は初夏から秋にかけてが旬になる。最も美味しいといわれているのが、5月から7月にかけてだ。つまり、今がメロンの美味しい季節というわけだ。
メロンの産地と言えば、夕張メロンをはじめとする北海道を思い浮かべる人が多いだろう。静岡県のクラウンメロンも有名だ。しかし、都道府県別収穫高では、北海道は第3位。実は、熊本県を大きく引き離して全国で最もメロンを収穫するのは茨城県だ。茨城県内では鉾田市と茨城町、そして八千代町がメロン産地として知られる。1年を通じて温暖で、昼夜の寒暖差があり、水はけのよい火山灰土がメロンづくりに適している。
茨城県のメロン生産は、1964(昭和37)年に旭村(現鉾田市旭地区)と八千代町でプリンスメロンの栽培を始めたのがきっかけだ。昭和50年代にアンデスメロンが導入されると、茨城県のメロン栽培は急拡大、1998(平成10)年から現在まで、四半世紀以上にわたって全国一の収穫量を誇る。
そんな「メロン県」茨城の中でも、特にメロンで知られているのが鉾田市だ。「鉾田のメロンは日本一」の看板を掲げ、旬の時期は、鹿島灘に沿うように走る国道51号線沿いには多くの直売所、そして観光農園が軒を連ねる。茨城のメロン発祥地のひとつである旧旭村の直売所「サングリーン旭」付近では例年、メロンの季節になると「メロン渋滞」が発生するほどだ。
観光農園では、メロン狩りも人気が高い。メロン畑に入って、自らメロンを収穫、その場で味わえる。メロン畑に入ってみよう。「メロンは瓜の仲間」と紹介したが、畑の見た目は、キュウリやスイカと同様だ。地面を這うように長く伸びた蔓の先の実が、敷かれたクッションの上で熟すのを待っている。この後紹介する「深作農園」や「みなみ果樹園芸」など国道51号線沿いに多くの観光農園がある。メロン狩りは、いずれも予約が必要なので、お出かけの際には、各施設のホームページから予約をお忘れなく。
大きく実ったメロンを見ると、ついすぐに食べたくなるが、実はメロン、収穫時期の見極めが難しい。大きく育っているからといっても成熟しているとは限らず、一方で、小ぶりでも熟れきった状態のものもある。見極めのポイントは果実ではなく、葉だ。実にいちばん近い葉が枯れていれば、それが成熟のサイン。これ以上光合成の必要がなくなるとメロンが自ら判断して葉を枯らせ始めるという。そして、じゅうぶんに熟すと表面も黄色みを帯びてくる。
ならば表面の色でも判断できるかとも思うのだが、枯れ気味だったり実が傷んでいる場合も黄色くなるという。やはり、見極めのポイントは葉の枯れ具合ということになる。そのため、葉のない状態では、プロでも、食べごろの正確な判断はできないのだそうだ。
注意が必要なのは、適切な時期に収穫したとしても、すぐに食べてはいけないという点だ。美味しく食べるには、収穫後一定期間「寝かせる」ことも重要だ。獲れたての方が美味しそうにも感じる。実際に糖度や味は、収穫直後と大きくは変わらないそうだ。しかし、時間をおくことで、身が柔らかくなり、食感がよくなる。判断基準は、実の下の部分を皮の上から指で押してみること。食べごろになると、微妙な弾力が生まれる。
そんな茨城メロン、最大の特徴は、価格の安さだ。メロンというと、それこそ桐箱入りで売られていたりもするが、茨城では、近隣の農家から直接買い付けることで中間マージンを薄くし、その分、安く販売できる。市川の梨の際にも紹介したが、通常の流通ルートではなく、畑に面する道路沿いで直販すれば、消費者も安く買え、生産者も通常より高値で出荷できる。直売こそが「より安く、より美味しく」の秘訣だ。
そんな鉾田のメロン販売店の中でもとりわけ人気が高いのが、ネット通販も人気の「深作農園」だ。「深作農園」では、自家栽培のメロンを使った様々なスイーツが人気だ。注目は、1日100個限定の王様のメロンパン。カフェ「LE FUKASAKU」の店頭のみの販売で、取材時には朝9時30分の開店30分以上前から行列ができていた。食べるには早起き必須だ。
水を一滴も使わず、自家農園の100%メロン果汁のみで練り上げた生地で焼いたメロンパンで、濃厚なメロンクリームを挟んでいる。メロンパンと呼ぶのは気が引ける、極上のケーキのようなメロンパンだ。通販でも買えるメロンパンとは、ひと味違う、まさに足を運んでこそ味わえる極上のメロンパンだ。
「LE FUKASAKU」隣の「Farmkuchen Fukasaku」はバウムクーヘンの専門店だ。茨城らしく、サツマイモを使ったバウムクーヘンなどもあるが、やはりメロンの季節はメロンバウムがおすすめだ。自家栽培のメロンをピューレにして生地に練り込み、焼き上げている。ちなみにメロンを丸々1個使ったメロンバウムプレミアムは要予約の受注生産で、注文から手元に届くまで約1カ月かかるとのこと。
他にもメロンのアイスクリーム、シャーベット、ソフトクリーム、パフェなど、農園の敷地内で様々なメロンスイーツが味わえる。さらに旧旭村より南の旧大洋村地区にある「さんて旬菜館」にはカットしたメロンに串を刺し、そのまま凍らせたデザートも売られている。自然な甘さで涼感を味わえるため、真夏のおやつにぴったりだ。
東京都心でも、本場・鉾田のメロンが味わえる。銀座にある茨城県のアンテナショップ「IBARAKI sense」では、毎年メロンのシーズンになると、多種多様なメロンが店頭に並ぶ。もちろん、パフェなどメロンを使ったスイーツも充実する。とはいえ、鉾田は県南部、都心からでもクルマで2時間ほどでたどり着ける。家族連れなら、都心からわざわざ足を運ぶ価値はじゅうぶんにある。お土産も買って帰れば、周囲にも喜ばれるだろう。ぜひ、メロンを食べに鉾田を訪れてほしい。