「ゴーゴーカレー」が東京・新宿にオープンしたのは2004年5月のこと。ステンレスの食器に盛られたカツカレーは、あっという間に人気メニューとなった。そのルーツは「ゴーゴーカレー」創業者の出身地、金沢にあり、1950年代には金沢ならではのカレーが確立。その後同地には、同様のスタイルでカレーを提供する店がいくつも誕生したという。
金沢カレー発祥の経緯やその歴史は、「金沢カレー協会」(https://kanazawacurry-kyokai.com/)と「チャンピオンカレー」(https://chancurry.com/)のサイトを見るとだいたいのことが分かる。その特徴は、以下の5点。①カレーの上にカツがのり、ソースがかかっている、②キャベツの千切りを付け合わせる、③ステンレス製の舟型の食器を使用、④先割れスプーンかフォークで食べる、⑤ルーが濃厚で「ドロッ」としている。
主な店舗は、前出の「ゴーゴーカレー」と「チャンピオンカレー」の他、「ターバンカレー」、「カレーの市民アルバ」、「インデアンカレー」、「ゴールドカレー」、「キッチン・ユキ」。「金沢カレー協会」には、「アパ社長カレー」も加盟している。
誕生の経緯ははっきりとはしていないが、地元テレビ局によれば、1950年代に金沢市内にあった「レストランニューカナザワ」という店のカレーが源流にあるという。同店ではその頃、「カレーのチャンピオン」、「キッチンユキ」、「カレーの市民アルバ」、「インデアンカレー」の各創業者が勤務していたそうだ。「レストランニューカナザワ」のカレーは、誕生当初こそ、今とはスタイルが違っていたものの、やがて上記5つの特徴を持ったスタイルに発展していった。そのスタイルで「ゴーゴーカレー」が東京で創業、人気を得たことで「金沢カレー」と呼ばれるようになった。
今回、実際に各店のカレーを食べ歩いてみた。上記の「金沢カレー5つの特徴」はいずれのお店も共通していた。しかし「④先割れスプーンかフォークで食べる」とカレースプーンではない点は共通しているものの、チェーンによって微妙な違いがあり、その違いに注目してみるとけっこう面白かった。
まずは、金沢カレーというキーワードの原動力になった「ゴーゴーカレー」からチェックしていこう。フォークで食べる。創業者と同郷同世代の松井秀喜選手がニューヨークで活躍する姿に影響を受けて脱サラ、新宿で創業した。松井選手の背番号「55」やメニュー名にも「メジャー」を採用するなど、その影響がうかがえる。キャベツはおかわり可能。
メジャーカレーは、定番のとんかつの他、チキンかつ、エビフライ、ソーセージ、ゆで卵がのるボリューム満点のメニューだ。しかも、訪れた店はカウンターに山盛りのキャベツが置かれ「ご自由にお取りください」となっていた。その脇には、マヨネーズのチューブも。大食漢には好適だ。さらには、総重量2.5キロのメジャーカレーワールドチャンピオンクラスも用意する。
一方で、地元金沢を前面に押し出すのは「カレーのチャンピオン」。創業者が「レストランニューカナザワ」時代にそのレシピを考案したとし、「元祖金沢カレーの店」を標榜する。独立当初は「ターバンカレー」との共同経営だったが、その後袂を分かつ。店名には「カレー業界のチャンピオンになりたい」という思いが込められているという。
東京にある九段三番町店で、一番人気というLカツカレーを食べてみた。食べるのはフォークで。同店では、1回に限りキャベツがおかわり可能とのこと。さらにはキャベツ大盛りやキャベツのみを別皿で提供することにも対応しているという。ソースは自らかけるスタイルだった。また、キャベツのマヨネーズは注文してかけてもらった。
そして、「ターバンカレー」。「カレーのチャンピオン」分裂後は、商標を継続しつつもレシピを変更したという。その後、紆余曲折を経て、現在は「ゴーゴーカレー」傘下にある。東京にある、ゲートシティ大崎店を訪ねた。
食べるのはフォーク。主力はもちろんロースかつだが、期間限定メニューや店舗限定メニューも充実している。ちょっと変化球だが、今回は期間限定メニューの揚餃子カレーを食べてみた。
「カレーの市民アルバ」は、「レストランニューカナザワ」を経て、1971年に小松市でオープンした。創業者はヨーロッパで西洋料理を修業、洋食の基本を習得、帰国後、小松駅近くにレストラン「アルバ」を開いた。さらにカレーに磨きをかけ、「カレーの市民アルバ」として独立したという。
KGFが展開する東京・錦糸町店を訪れた。他の金沢カレー各店とは違い、店内では「加賀カレー」を標榜していた。食べるのも先割れスプーンだった。キャベツの調味料はマヨネーズの他にドレッシング類も用意されていた。同店ではダブルカツカレーが人気のことで注文したが、とんかつのダブルだけでなく、チキンかつのダブル、とんかつとチキンカツの組み合わせも選択可能だった。
「ゴールドカレー」は金沢市内で2店舗を展開する。「こだわり」を前面に押し出し、ルーだけでなくかつの素材にもこだわる。能登豚や県内河北潟で育てられた河北潟ポークなどのブランド肉をかつに使う。今回、能登豚を食べたが、たしかにとんかつのおいしさには、他店を凌駕するものがあった。
複数店舗を展開するのは、この他に「インデアンカレー」と「キッチン・ユキ」だがいずれもカレーショップと言うよりは洋食店の印象が強い店だった。「インデアンカレー」ではライスをピラフに代えられたり、スパゲッティも用意する。試しに金沢カレースタイルのスパゲッティを食べてみた。スパゲッティは、フォークだが、カレーは先割れスプーンで食べる。スパゲッティは、サラダが別皿になっていた。
さらに松任にある「キッチン・ユキ」は完全に洋食店だった。どこにでもある「まち一番の洋食屋」の雰囲気だ。創業者は「レストランニューカナザワ」出身者だが、その洋食店の側面を引き継いだようだ。入り口のサンプルを見れば、それがよく分かる。
金沢カレーも「金沢ブラックカレー」というネーミングで、他チェーンとの違いを強調している。食べるのは先割れスプーンだった。
金沢駅の土産物店でも各チェーンのレトルトカレーが幅をきかせるなど、すっかり金沢を代表する味になった金沢カレー。東京本拠の「ゴーゴーカレー」が金沢に逆上陸、金沢本拠のチェーンも関東はじめ北海道や関西にも店舗網を広げるなど、各店が競い合っている。今後もその味にますます磨きがかかるに違いない。