実はラーメン王国として知る人ぞ知る新潟県。人口1人あたりのラーメン店数は、全国でもトップレベル。さらには細長く、海にも山にも恵まれた風土気候から、各地にその土地の暮らしぶりを映したご当地ラーメンが点在する。新潟の濃厚味噌ラーメン、同じく新潟のあっさり醤油ラーメン、「燕三条系」と呼ばれる燕の背脂ラーメン、三条のカレーラーメン、そし今回紹介する長岡の生姜醤油ラーメンを「新潟5大ラーメン」と呼ぶのが一般的だ。濃厚な味噌スープを出しで割りながら好みの味に仕上げたり、驚くほどの背脂を使ったりするラーメンが多い中で、長岡の生姜醤油ラーメンは、スープの色こそやや濃いめながら、シンプルで直球勝負のご当地ラーメンになっている。
長岡醤油ラーメンの元祖と言われているのは信越本線から上越線が枝分かれするJR宮内駅のロータリーに面した「青島食堂」。人気店らしく、訪れた日も店頭には行列ができていた。スープの出しとして豚のげんこつを使うため、その臭み消しに生姜を多く入れたというのが生姜醤油ラーメンのルーツといわれている。雪の多い新潟だけに、生姜の刺激が寒さを紛らわせてくれるというのもまた、人気の背景だ。
まずは、最大の特徴であるスープを味わってみよう。よほど嗅覚の鈍い人でない限り、スープにはたっぷりの生姜が使われていることが分かるはずだ。そして、もう一つのキーワードの醤油を誇示するかのように、かなり醤油黒い色に仕上がっている。しかし、口に入れてみると、色から想像するよりも醤油からくはない。濃い口の醤油を使った色合いなのだろう。さらには、豚骨の代名詞でもある「こってり」とも縁遠い味わいだ。スープの表面にこそしっかり脂が浮いてはいるものの、くどさはない。実にシンプルで、ストレートな醤油ラーメンのスープだ。
麺はわずかに縮れた中太麺。少し柔らかめにゆであげられている。チャーシューにメンマはごくごく定番のラーメンの具。そこにゆでたホウレンソウ、海苔、なるとがのり、さらに薬味のネギが散らされる。具の構成から見ても、東京のシンプルな醤油ラーメンにごく近いイメージだ。とんこつながらあっさりとした味わいも、東京風の醤油ラーメンに近いイメージで食べすすめられる。しかし、強い生姜の風味が、長岡のご当地ラーメンであることを主張する。
地元の長岡市に加え、新潟市内、そして東京・秋葉原にも店舗がある。東京の支店は行列店としても有名で、このシンプルでストレートな味を求めて、多くのファンが列を作る。
ご当地グルメを真に理解するには何軒か食べ歩きが必要だ。特定の店のメニューではなく、その土地の人々の暮らしに溶け込み、多くの人々に愛され、いくつもの店で幅広く食べられるものこそが、本当の意味での「ご当地グルメ」ではないだろうか。長岡でも「青島食堂」以外にも、多くの店で生姜醤油ラーメンが食べられる。
JR信越本線の北長岡駅前にある「みずさわ」も、人気店の一つだ。訪れた際には、やはり行列ができていた。ストイックなまでにラーメン一本槍、ギョウザさえない「青島食堂」とは違い、みそらーめんやとんこつらーめんもメニューにのるなど、バリエーションは広い。
とはいえ、みそらーめんでは食べ比べにならないので、ここでも生姜醤油味のらーめんを注文した。はっきりと分かる生姜の香り、醤油色の濃いスープ、少し縮れた中太麺など、「青島食堂」に、ビジュアルはほぼ似通っている。やや醤油味が勝ったチャーシューやゆでホウレンソウがのる点も「青島食堂」と共通していた。あえて違いを探すと、なるとがない点。スープは「青島食堂」に比べ脂少なめに感じだ。
カウンター越しに調理風景に目をやると、ご主人らしき方が、入念に麺のゆで具合をチェックしていた。ややソフトな麺の食感にこだわりを感じた。やはりくせのない、ストレートな醤油ラーメンで、この味が地元で愛されているのだなと思った。
もう一軒、隣町の小千谷にある「らーめんヒグマ小千谷本店」を訪ねた。ヒグマをあしらったトレードマークが掲げられ、長岡や十日町にも支店がある。10時30分の開店直後に訪れたが、すでに空き席待ちの行列ができていた。こちらも人気店のようだ。
デフォルトのらーめんは、生姜の効いた醤油ラーメンだが、「みずさわ」同様に味噌、そして塩ラーメンもメニューにのる。そして、らーめんが1杯600円と、前記2店に比べ、手頃感が勝っていた。
醤油黒いスープに少し縮れた中太麺、具はチャーシュー、メンマ、ゆでホウレンソウ、なるとと長岡生姜醤油ラーメンの王道とも言えるパターンだった。「みずさわ」と比べるとほんの少しだけ生姜のインパクトが抑えめだろうか。とはいえ、その差は一見のよそ者でははっきりと分かるレベルの違いではない。やはり、生姜の強い香りと味わいを除けば、直球ど真ん中の醤油ラーメンだ。
醤油はある意味、和の味の基本となる調味料だ。地元長岡に限らず、より多くの人たちの舌に親しみやすい味わいと言える。それは東京の「青島食堂」の行列にも見て取れる。まだ食べたことがない人には、ぜひ一度味わってみてほしい。