前回、都心で開催された八戸せんべい汁調理実習から八戸せんべい汁の作り方を紹介したが、実は会場ではもう1品、ご当地グルメの調理法が紹介された。長野県伊那地方で食べられている伊那ローメンだ。市民団体・伊那ローメンズクラブ関東アソシエの皆さんが、伊那ならではの味を家庭で再現する方法を紹介した。
伊那ローメンには、かつて紹介したように、大きく分けて、スープ風ローメンとやきそば風ローメンの2つタイプがある。今回学んだのは、やきそば風ローメンの調理法だ。「やきそば風」というが、まずは一般的なやきそばとやきそば風ローメンは何が違うのか。
大きな違いは麺だ。ローメンでは深蒸し麺、つまり徹底して蒸した中華麺を使う。富士宮やきそばや那珂湊やきそばなど、蒸し麺を使うやきそばは他にもあるが、伊那ローメンでは深蒸しという、蒸して蒸して蒸しまくった麺を使う。加熱によって、麺の中のかん水が化学変化を起こし茶色くなってしまうまで蒸した麺だ。味がついてるわけではない。
その背景にあるのが、伊那ローメンが誕生した昭和30年頃の台所事情だ。当時の伊那の中華料理店には冷蔵庫がなかった。使い切れなかった麺を蒸してカチカチにすることで、常温保存できるようにした。もちろんそのまま焼くとごわごわのやきそばになってしまう。そこでスープで煮たり、茹でたりして、ある程度「戻して」調理したのが伊那ローメンだ。なので、その調理法も一般的なやきそばとは異なるというわけだ。
まずは、材料を確認しておこう。量は2人前だ。まずは、深蒸し麺2玉。今回は地元の服部製麺所からローメン用の麺を取り寄せた。深蒸し麺は自宅でも作れる。中華麺を買ってきて400ミリリットルの水を沸騰させ、蒸し器で15~20分蒸す。蒸しあがったら麺がくっつかないように油をまぶすといいという。
肉は羊肉、ラムを100グラム使う。地元ではマトンを使うが、マトンもまた手に入りずらい。ラムのほうが癖が少なくヘルシ-だ。キャベツは、1/8玉。冷蔵庫に残っている野菜を、適当に入れても構わない。キャベツを3センチほどに切る。地元では、三角形に切ることが多いが、切り方にルールはない。キャベツの外側の緑のところは固く、捨ててしまうことも多いが、実は緑色の部分ほど羊肉との相性がいい。捨てずに使うことをおすすめする。
調味料は、羊肉の強いクセを抑えるのがポイント。ニンニクとソース。ニンニクは好みの量で。ソースはウスターと中濃を合わせて使う。かつては伊那には大きなソース工場があり、伊那にはソースがたっぷりとあった。そして、ごま油。このソースとごま油の組み合わせこそが、伊那ローメンならではの絶妙な味わいの秘訣だ。
砂糖は今回、三温糖を使った。そして、塩分が効いていない鶏ガラのスープの素。だしなので、スープになるようなスープの素では味が濃くなってしまう。かつて地元では豚の頭からだしを取っていたというが、今ではごく少数という。うまみ調味料。味の素とハイミーであれば、ハイミーの方。グルタミン酸に加え、イノシン酸とグアニル酸が入ったものが、より煮物向きだ。
では調理に入ろう。まずは麺に吸わせる調味料を事前に合わせておく。水100CCにウスターソースと中濃ソースをともに大さじ2杯、鶏ガラスープの素を小さじ1・5杯。砂糖は小さじ2、うまみ調味料ひとつまみ、おろしにんにく小さじ1杯、ごま油は小さじ1/4。入れる順番は問わない。ただし、よく混ぜておく。
次に麺を茹でる。水は麺が浸る程度で。必ず水から茹でること。水の量は多くても構わないが、水が増えると沸騰するまで余計な時間がかかる。麺は温まってきてからほぐすこと。温まる前にほぐそうとすると麺は折れてしまう。火をつけて5分ぐらいたったら菜箸で麺をほぐすといいだろう。
ごわごわの深蒸し麺は、少し水を加えることでもちもち感を取り戻す。水を吸わせば吸わせるほど、本来の食感に近づくが、伊那ローメンは深蒸し麺ならでは食感も楽しむもの。もちもち感を取り戻すまでの中間くらい、「ごわっ」「もちっ」少しだけ「かりっ」の食感くらいで食べるのがベストだという。
麺が茹で上がるまでに、フライパンを温め、ごま油をひき、にんにくを入れる。香りが立ってきたら弱火にして、肉を入れる。肉は弱火で炒めるのがポイントだ。肉は切ってもいいが、羊の肉は、炒めるうちに勝手にばらけていく。
肉が炒まったら、麺が茹で上がるのを待つ。沸騰の少し手前、鍋の周りに泡がボコっ、ボコっと立ち上がり始めた頃合いだ。そこから約1分で麺をざるに上げる。フライパンの火を強めて、上げた麺を投入する。そこに先ほど合わせておいた調味料も投入する。調味料を麺全体にまとわせるようにする。この状態だと、汁気が多く「これがやきそば?」という見た目だが、この後、麺が調味料を吸っていき、最終的にやきそばらしくなる。
水気が少なくなってきたら、最後にキャベツを入れる。キャベツの上に麺をのせる、麺でキャベツに蓋をするイメージで仕上がりを待つ。フライパンをあおり、残った水分を飛ばせばできあがりだ。
しかし、伊那ローメン、これで完成ではない。伊那ローメンの最大のポイントはテーブルクッキング。地元では「平均の味」のものを「自分の味」につくり替えて食べるのがお作法だ。「ローメンがうまいかまずいかは自分次第」といわれるほど、自分で味を作る。食堂に行ってあれこれ調味料をたくさん使うと普通は嫌がられるものだが、伊那ローメンの場合は全く逆だ。
加える定番の調味料はウスターソース、ごま油、酢、おろしにんにく、七味唐辛子。こうした調味料を自分好みにかけまわしてから食べるのが伊那スタイルだ。今回は、キムチやフライドガーリック、マヨネーズ、カレー粉、野沢菜、コショウなども用意された。地元でも邪道といわれる食べ方だそうだが、定番の調味料だけでなく、自分流に自由に味を変えていくのが伊那ローメンの正しい食べ方なのだという。