「県魚」と言う言葉をご存じだろうか。その県を代表する魚を地元行政が定めたもので、秋田県ならハタハタ、福井県なら越前ガニ、高知県ならカツオだ。では愛知県の県魚は何か? そう、タモリの「えびふりゃー」で全国的に知られるようになったエビ、クルマエビだ。1991年に南知多町で「第11回全国豊かな海づくり大会」が開催されるにあたり、前年に県の魚に選定された。
愛知県全体で稚エビ放流を積極的に推進、漁獲量も全国的に上位を占める。愛知の人はとにかくエビ好きだ。その代表例がえびせん。「ゆかり」といえば、名古屋土産の定番だ。伊勢湾岸自動車道の刈谷パーキングエリアには巨大なえびせん販売店まである。
美浜の「えびせんべいの里美浜本店」では工場見学もできる。えびせんべいづくりをのぞいてみよう。えびをすりつぶしてでんぷんなどを加え、それを成形して焼く。袋詰めまで流れ作業で進む行程を、まぢかで見ることができる。工場の隣には売店があるが、その広さはほぼ体育館。広大な売り場に、様々な味のえびせんべいが並ぶ。
タモリではないが、エビ料理の中でも、特に愛知県の人たちが好んで食べるのがエビフライだ。エビフライは、味噌かつや手羽先と並び称される「名古屋めし」のひとつでもある。名古屋駅の地下街を歩けば多くの店で「ジャンボエビフライ」のメニューが目に入るはずだ。
そんな名古屋のエビフライ提供店として特に名高いのが、円頓寺商店街の老舗食堂「はね海老」だ。店名に「海老」を掲げるだけあって、看板メニューはもちろんエビフライ。その店構えは、まさに「昭和の洋食屋」。エビフライが、洋食として誕生したその歴史を映すかのようだ。
「はね海老」のエビフライは、そのビジュアルが個性的だ。頭と殻を取り、丸いままエビフライにするのが一般的だが、「はね海老」では剥いたエビに包丁を入れ「開き」にしてからフライにする。肉厚が薄くなるので、一般のエビフライとは、けっこう食感が異なる。
1人前2枚だ。1枚目はまず、皿に添えられたタルタルソースでいただく。濃厚なタルタルソースがエビの高級感をいっそうもり立てる。衣はサクッとしており、エビは開いて薄くなっているので、全体としてはクリスピー感が際立つ。
もう1枚はソースで。名古屋ならではの、しゃばしゃばのスパイス感あふれるソースにクリスピーな衣がぴったりだ。この開いたスタイルのエビフライはなかなかお目にかかれないので、名古屋を訪れた際には、ぜひ「はね海老」を訪れるといいだろう。
愛知のエビフライは洋食屋や居酒屋だけではない。喫茶店でもエビフライは人気メニューだ。名古屋の喫茶店と言えば、言わずと知れたモーニング。コーヒーを頼むと、卵やトーストが付いてくる。残念がらサービスではないが、名古屋の喫茶店では、朝からエビフライのサンドイッチが食べられる。
名古屋駅の地下街などに店舗展開する1947年創業の老舗喫茶店「コンパル」、その人気メニューがエビフライサンドだ。耳を切り落としたトーストの上には千切りのキャベツ、そしてエビフライが3本並ぶ。さらにその上にはふんわり卵焼きがのる。味付けはカツソースとタルタルのダブルソースだ。テレビなどでも盛んに紹介される人気メニューとあって、朝からけっこう多くの人が注文していた。
ちなみに「コンパル」では、アイスコーヒーを頼むと氷の入ったグラスに、コーヒーカップに注がれたホットコーヒーが運ばれてくる。ホットのまま砂糖やミルクなどを加え、自分好みの味に仕立てから、グラスに注ぎアイスコーヒーにするのが「コンパル」伝統の流儀だ。
そして、カレーうどんも名古屋めしの一角を占めるメニューだが、ここでもエビフライは存在感を発揮する。近年開発された創作ご当地グルメだが、豊橋カレーうどんは従来のカレーうどんの概念を覆す創作メニューだ。
うどんの下にご飯が入った、カレーうどんとカレーライスをひとつのどんぶりに一緒盛りにしたものだが、この豊橋カレーうどんのトッピングにエビフライがよく合うのだ。カツカレーに代表されるように、カレーにフライは相性がとても良い。愛知県のご当地グルメなら、やはりエビフライがいいと、トッピングされるケースが多い。
知多半島名物の活魚料理にもエビフライは欠かせない。愛知県では様々なジャンルの料理にエビフライが登場する。提供店が多いと言うことは、競争も厳しいと言うこと。つまりは美味しいエビフライが多いのだ。愛知県を訪れた際には、ぜひエビフライ入りのメニューを探してみよう。