シンプルでボリューム満点「ヨコスカネイビーバーガー」

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その地域の風土に根ざし、江戸時代以前から長くにわたって愛されてきた郷土料理に対し、ご当地グルメと呼ばれるものの多くは、近現代のその地域の暮らしぶりを映してきたものが多い。各地のご当地ギョウザなどは、中国東北部、旧満州から引き上げてきた人たちが持ち帰ったものが多い。ゴム工業のまち・久留米で誕生したとんこつラーメンは、昼夜違わず働く工場労働者のスタミナ源として誕生した。そうしたご当地グルメの中には、戦後駐留した米軍をルーツに持つものも多い。

佐世保バーガーも米海軍がルーツ

青森県十和田市のバラ焼きは、赤身肉を好む三沢基地の米軍から払い下げられた牛バラ肉を、基地で多く働いていた韓国朝鮮出身者たちが故郷の味で食べたのがルーツと言われている。沖縄のステーキもやはり米軍の影響が大きい。そして、佐世保と並ぶご当地ハンバーガー、ヨコスカネイビーバーガーもやはり駐留米軍の影響から誕生している。

予め味付けしてあるハンバーガー

米海軍のハンバーガーは、24時間交代勤務の見張り要員へ濃いコーヒーとともに提供し始めたのがルーツという。塩胡椒のみなど、牛肉本来の味を損なわないよう、調理法は極めてシンプルだ。ステーキも同様だが、日本人はソースなど味付けにこだわる傾向が強い。しかし、米海軍のハンバーガーは、シンプルながらも、艦隊ごとに料理人たちが隠し味を工夫し、それぞれ特徴のあるハンバーガーを作り上げた。

横須賀のソウルフード

横須賀では、そんな米海軍流のハンバーガーが、基地の一般公開を通して、地元の人たちに広がっていった。地元には、米兵相手に本場の味を提供する店が誕生し、そこに地元市民も通うようになる。次第に米兵だけでなく、横須賀市民にも、米海軍流のハンバーガーが「横須賀のソウルフード」となっていく。

ソースではなくマスタードとケチャップで

「ヨコスカネイビーバーガー」のブランドが誕生したのは、2008年11月19日のことだ。日本海軍の伝統を引き継いだ「よこすか海軍カレー」が10周年を迎えるにあたり、海上自衛隊とともに長く地元の繁栄を支えた米海軍基地が、横須賀市との友好の象徴として、地元の活性化を共同で推進するため、海軍の伝統的なハンバーガーのレシピを提供、これを「ヨコスカネイビーバーガー」と名付けた。これを、基地周辺の店舗が、本場・米海軍のハンバーガーとして提供している。

カゴメではなくハインツ

その特徴は、シンプルさ。肉はA5などの霜降りではない。赤味の多い100%牛肉を、肉本来の味を損なわないようシンプルに調理した、ステーキをそのままパンではさんだような、ボリューム満点のハンバーガーだ。凝ったソース、味付けとも距離を置く。新鮮なタマネギやトマトを素材の味そのままにトッピングし、ケチャップやマスタードを好みでかけて食べる。まさに、本場アメリカの伝統的なスタイルだ。

人気店の「TSUNAMI」

実際に横須賀でヨコスカネイビーバーガーを食べてみよう。人気店が集まるのは、横須賀ドブ板通り。京浜急行汐入駅から横須賀基地に向かって伸びる全長300メートルほどの商店街だ。まず訪ねたのは、ドブ板通りに3軒の店を持つ人気店の「TSUNAMI」だ。同店で一番人気というジョージワシントンバーガーを食べてみた。

「TSUNAMI」のジョージワシントンバーガー

メニュー名のルーツは、2008年から15年まで横須賀基地に配備されていた、アメリカ合衆国初代大統領、ジョージ・ワシントンの名を冠した空母にある。ちょうど、「ヨコスカネイビーバーガー」ブランドの誕生時に、横須賀を母校としていたのだ。バンズは三浦の海洋酵母で発酵させ溶岩窯で焼いたオリジナル。227グラムとボリューム満点のパテは、厳選された牛肉を使用。そこに厚切りベーコンとチェダーチーズがいずれも2枚、目玉焼きものる。野菜は、レタス、トマト、タマネギだ。

姉妹店の「TSUNAMI BOX」

単品でも注文できるが、やはり本場のハンバーガーを食べる際にはコーラが必須だろう。ハンバーガーを注文すると、コーラ1杯分の価格でポテトとコーラのセットをつけることができるので、ちょっとボリュームが過ぎるが、ポテトのセットで注文する方がリーズナブルだ。

口を大きく開けてかぶりつく

運ばれてきたジョージワシントンバーガーは上のバンズが少しずられて、中身が見えるようになっている。ここに好みで、マスタードとケチャップをかけ、その上に改めてバンズをのせてかぶりつく。高さがあるので、思いっきり口を大きく開けないとかぶりつけない。いざかぶりつけても、新鮮な野菜やケチャップが、どんどんバンズの間からはみ出してくる。手が汚れるのを気にしていては、ヨコスカネイビーバーガーの神髄は味わえない。口の周りにケチャップがつこうが、手がべたべたになろうが、気にせず食べ進める。このボリューム感も美味しさのひとつだ。

思いっきりアメリカンな「ハニービー」の店内

もう1軒人気店をチェックしておこう。ドブ板通りを抜けて横須賀基地の国道16号線を挟んで向かいにあるのが、「アメリカンダイナー・ハニービー」だ。基地の目の前ということもあり、店構えは「TSUNAMI」以上にアメリカ風だ。

レギュラーネイビーバーガーコンボ

注文したのは、ベーシックなハンバーガーをセットにした「レギュラーネイビーバーガーコンボ」。ハンバーガーとポテトとドリンクがセットになっている。配膳の際、店員さんが食べ方を説明してくれる。まずは、押しつぶしてそのままかぶりつき、その後で、必要ならばケチャップやマスタードを使ってほしいとのこと。たしかに、押しつぶさないとかぶりつけないほどのボリュームだ。

塩胡椒がしっかり効いた香ばしいパテ

パテはしっかりと固められており、やや多めの塩胡椒で焼かれていた。トッピングはシンプルにレタスとトマトのみ。レタスは大きく1枚を丸めてかなりのボリューム感だ。塩胡椒がしっかり効いているので、そのままで肉のうまみが存分に味わえる。素朴なパンが肉汁をしっかり受け止めている。しばらくはそのまま食べ進める。

同じ味に飽きてきた頃に「味変」

圧倒的なボリュームだ。しばらく食べているうちに、本場アメリカのステーキハウスを思い出した。脂身の少ない肉を、塩胡椒だけで、しかも大量に食べるので、どうしても途中で味に飽きてしまうのだ。本場のステーキハウスでは、食べ飽きるとA1ソースを頼んで持ってきてもらい「味変」して残りを食べきった記憶がある。「ハニービー」のヨコスカネイビーバーガーも同様だ。おいしいものの、単調な味の繰り返しに飽きてきたところで、伝家の宝刀、ケチャップとマスタードを抜く。これで、最後までおいしく食べきれる。

横須賀で「本場の味」を

ファストフードチェーンのハンバーガーに慣れっこになってしまった舌には、ヨコスカネイビーバーガーはかなり刺激的だった。手がべちょべちょになるのも厭わず、コーラか休日ならビールで流し込むのがおすすめだ。小食な人なら食べきれないほどのボリューム感だが、横須賀に行けば、飛行機に乗らずとも「本場の味」が味わえる。ぜひ一度足を運んでみてほしい。

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