長崎ならとんかつやナポリタン、ピラフを一緒盛りにしたトルコライス、北海道ならとんかつとバターライスを組み合わせた根室のエスカロップなど、全国にはそのネーミングからは味が容易に想像できないご当地洋食がいくつもある。そのひとつが、金沢のハントンライスだ。
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ケチャップ味のバターライスを薄焼き卵で包み、その上に魚フライ、そこにケチャップとタルタルソースをかけた料理がハントンライスだ。ケチャップがデミグラスソースになったり、魚フライがエビフライやとんかつになるバリエーションもある。間違いやすいのは隣県・福井のボルガライスで、オムレツにとんかつをのせてソースをかけたものがボルガライスだが、店によってはソースがトマトソースになることもある。
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名前の由来はよく分からないが、ハンガリーの「ハン」とフランス語でマグロを意味する「トン」がその語源になっているという。今はない、金沢市内の洋食店にそのルーツがあるといわれる。
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金沢のハントンライスを語る上で外せないのは、片町にある「グリルオーツカ」だ。1957年創業の、金沢を代表する洋食店で、メディアでハントンライスが紹介される際には、たいがい「グリルオーツカ」が登場する。早速食べてみよう。
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「グリルオーツカ」はもちろん、金沢のハントンライスの多くは、金沢カレー同様、ステンレスの食器で供される。一見して特徴的なのは、タルタルソースの粘度が低いこと。魚フライの上に流れるようにかけられている。ケチャップ同様のゆるさなのだ。食べ始めるとフライが薄焼き卵にくっついていることに気づく。皿の上でフライを盛るのではなく、卵を焼いている段階でフライを入れるのがお作法のようだ。
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卵の下のバターライスはシンプルにケチャップのみ。チキンライスではない。具なら魚フライがあるじゃないか、ということなのだろう。スプーンを入れると、ケチャップライスの部分にまでタルタルソースがしたたり落ちてくる。やはり味のカギを握るのは、このゆるいタルタルソースだ。
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魚フライは、メニューにカジキマグロと明記されている。他店では薄めの魚フライが多い中にあって、食べ応え満点だ。こうした点も、人気の秘訣なのだろう。
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店によっては、魚フライがエビフライに代わるハントンライスもあるが、「グリルオーツカ」ではエビハントンライスという別メニューになっている。
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金沢エムザの地下飲食店街にある「勝乃屋」でもハントンライスが食べられる。こちらは、カジキマグロとエビのフライがダブルでのっていた。やはり少しゆるめのタルタルソースがたっぷりとかかっている。フライは後のせだろうか、薄焼き卵にはくっついていなかった。バターライスはケチャップ味で、具の入っていないプレーンだ。
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金沢カレーでも知られる松任にある「キッチンユキ」にもハントンライスがあった。同店のメニューには3種類のハントンライスが掲載されていた。デフォルトのハントンライスは「グリルオーツカ」と同様のケチャップ味のバターライスを薄焼き卵で包み、魚フライをのせ、ケチャップ、タルタルソースをかけたもの。ユキ風ベーキハントンライスは、バターライスが、同店で人気のベーキライスに替わる。ベーキとは「ベイク=焼く」つまりはチャーハンだ。そして、もうひとつがチーズカレーハントン。前出のハントンライスにチーズを組み合わせ、同店の人気メニューである金沢ブラックカレーをかけたものだ。今回は、ユキ風ベーキハントンライスをいただいた。
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外見は他店のハントンライスと変わりはない。魚フライもふっくらしていて、薄焼き卵の下のご飯も山盛りになっている。先割れスプーンで卵に切れ目を入れると、目に飛び込んできたのは、ちょっと黒みがかったベーキライスだ。ケチャップライスよりもアジアンテイストが勝ったハントンライスと言える。
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「キッチンユキ」はカレーショップというよりは「まちの洋食屋」の装いだが、カレーショップの中にもハントンライスを取り入れたメニューがあった。金沢カレーを提供する「ゴールドカレー」にはハントンカレーなるメニューがある。カレーショップなので、ベースは金沢カレー。白いご飯にスパイシーなカレールー、千切りキャベツは定番だ。これを薄焼き卵で覆い、魚、エビ、カキの各フライがのっていた。フライにかかっているのはソースではなく、タルタルソースなのは「ハントンライス寄り」だ。
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ハントンライスをわかりやすく表現すれば「オムライス+魚介のフライ×ケチャップ&タルタルソース」となる。金沢に限らずどこでも食べられそうだが、実のところ、金沢以外ではあまり見かけない。東京では、大井町にある「神田グリルアトレ大井町店」で食べることができた。魚フライが薄焼き卵に張り付いた「グリルオーツカ」風のハントンライスではあったが、作り慣れていないのか、魚フライの揚げ温度が高すぎたようで、衣が歯に触った。
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ある意味、家庭でも作れないことはないメニューだが、やはり競争の激しい金沢だからこそ味が洗練されるのだろう。できれば、金沢まで足を運んで食べることをおすすめしたい。