群馬県では、標高差に富んだ地形や豊富な水源、長い日照時間などの自然条件を生かし、1年を通して農業が盛んだ。名産の下仁田ねぎをはじめ、しいたけ、白菜、春菊などの多彩な野菜を生産する。畜産では、上州牛・上州和牛など質の高い牛肉を生産する。さらにこんにゃくは、日本の全生産量の9割以上を群馬県産が占める。
すき焼は、群馬県に限らず全国で食べられている料理だが、こうした背景から、群馬県庁では、自県をすき焼きの食材を全て県内産でまかなえる「すき焼き自給率100%」県と定義。2014年9月に「すき焼き応援県」を宣言するとともに、すき焼きを通じて県産農畜産物の魅力を全国に発信する「ぐんま・すき焼きアクション」を展開している。
そうした群馬県のすき焼きの最大の特徴が豚肉だ。一般的にはすき焼きの肉と言えば牛肉だが、群馬県内では広く豚肉のすき焼きが食べられている。家庭内ではもちろん、飲食店や旅館などで豚肉のすき焼きが提供されており、牛肉か豚肉、好みに応じて肉を選べる店もある。
そんな群馬県の豚肉すき焼きを全国に知らしめたのが、人気テレビ番組「孤独のグルメ」が紹介した、下仁田町「コロムビア」のすき焼きだ。「コロムビア」は、上信電鉄の終点・下仁田駅そばにあるすき焼きが看板メニューの店だ。
暖簾をくぐると、目の前は畳敷きの広間。宴会でなくとも、一人でも、この座敷に通される。奥には、カラオケを設置したステージもある。気分は「旅館の宴会場」だ。そんな座敷の一角に、セルフサービスのお冷やお茶とともに、黒板のメニューが置かれている。上州牛のすき焼きと並び、下仁田ポークのすき焼きが掲げられている。迷わず、豚肉のすき焼きを注文する。
テーブルには、事前に鉄鍋がセットされている。牛肉でも豚肉でも、調理器具に変わりはない。肉以外のしつらえは一緒だ。まずは下仁田名産のねぎを焼く。しっかりと焼き色が付くまでねぎだけを焼く。
次に肉を入れる。「じゅっ」という音ともに香ばしい香りが広がる。そこに割り下を投入する。一気に上がる水蒸気に「すき焼き感」が高揚する。
最後に群馬県と言えばのしらたきをはじめ、豆腐、そして春菊、白菜などの野菜を投入。煮上がったら食べごろだ。
溶き卵につけて食べるのも、牛肉のすき焼きと変わりない。肉が豚である以外、味、調理法に、牛肉との違いはない。カレーも肉じゃがも豚肉の関東人にとっては味への違和感もない。
肉の追加も可能なので、2皿目は牛肉にして食べ比べるのもいいだろう。「すき焼き応援県」を存分に堪能したい。