全国各地の気候、風土、文化、暮らしぶりを映すご当地グルメ。北海道は、気候などの面で大きな特徴を持つ。ご当地グルメもまた、特徴的だ。そこで、今回から5回にわたり、北海道各地のご当地グルメを都市単位でご紹介していきたい。第1回目となる今回は、道央胆振の海沿いに位置する工業都市、室蘭だ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/b9402780ad5422fe0ddc3a3fc265a550.jpg)
室蘭は、1907(明治42)年に操業を始めた日本製鋼所M&E室蘭製作所を擁する「鉄のまち」。福岡県の戸畑や岩手県の釜石など「鉄のまち」に欠かせないのがラーメンだ。高熱の溶鉱炉がその中心にある製鉄所では、塩分やカロリーを手軽に、安価に摂取できるラーメンが好まれる傾向にある。釜石ではあっさり透明スープのラーメンだが、室蘭ではカレーラーメンだ。室蘭地域にあるラーメン店のうち、半数以上の店でカレーラーメンを提供している。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/7b1816f5bce89c0919b6bfed73f15226.jpg)
室蘭のカレーラーメンは、今から30年ほど前に「味の大王室蘭本店」で誕生したと言われている。店舗は、JR室蘭駅から少し山をのぼった商店街にある。カレーを使った麺料理には、スープにカレー粉を入れるタイプ、汁麺の上にカレールーをのせるタイプなど様々あるが「味の大王室蘭本店」はスープにカレー味が付けられているタイプ。とはいえ、さらさらとしたスープにカレー味をつけたようなタイプではなく、かなり粘度の強い、ルーに近い食感のカレースープだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/b3c6a460b941cbc46362abfce1d54d97.jpg)
濃厚な豚骨をベースに、様々な香辛料や果物を練り込んだカレーペーストを混ぜ込むのだという。中太の自家製ちぢれ麺にとろみのあるスープがからみ、カレーそのものの味を濃厚に味わえる。チャーシューは大ぶりで、肩ロース特有の味の深みがある。具にはワカメも添えられる。カレーにワカメは一瞬ミスマッチだが、これがなかなかいい塩梅だ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/835ef77f4e724e4d3144ecea362cf7b0.jpg)
苫小牧にもやはり有名なカレーラーメンを提供する「味の大王」があるが、姉妹店ではないという。ちなみに、室蘭駅から「味の大王室蘭本店」へ向かう道筋にも「味の大王」の看板を掲げる店があった。ちょっと混同しやすいので、自分がどのまちのどの「味の大王」を目指しているのか、よく確認をしてから訪店するといいだろう。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/2853266d54b43e5c938d3332ab1b5312.jpg)
2006(平成18)年に、室蘭カレーラーメンを「札幌の味噌」「旭川のしょうゆ」「函館の塩」に続く北海道ラーメン「第4の味」にすべく、室蘭カレーラーメンの会が発足した。公式ホームページを開設し、道内はもとより全国にその魅力を発信する。もう1軒、加盟店の中からJR輪西駅そばにある「蘭たん亭」を訪ねた。輪西駅から通りを挟んだ反対側に位置するが、無人駅のたたずまいとは対照的に、多くの来店客で賑わっていた。地元の人気店のようだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/c2ac2598e92893913044bfb86282d5ce.jpg)
ミニカレーを選んだ。スープは、北海道ニセコ産豚骨のゼラチン質が多い最高級げんこつと鶏ガラからを10時間じっくりかけてだしをとった清湯スープに、12種類の香辛料と調味料、8種類のスパイスを加えたオリジナルのカレーだれを合わせたもの。味を馴染ませ、まろやかさを出すために一度ていねいにこし、急冷して冷蔵庫で1日寝かせる。そこに、昆布やカツオ、煮干し、サバなどの魚介スープを合わせてようやく完成する。実に深みのあるスープだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/5e1c4a3a0fe92bd91af7ca744d9b782d.jpg)
麺は、こだわりのスープに合うよう厳選された、良質な小麦粉をブレンド、地下水を使い、小麦粉の本来のうま味や風味、のど越しを引き出した特製の中細ちぢれ麺だ。弾力のある歯ごたえも抜群だ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/ae23f7a0e1f5c9fdf1fca56886d3a3b7.jpg)
チャーシューは「味の大王室蘭本店」の肩ロースに対し豚バラ。余分な脂身をカットし、秘伝の特製しょうゆだれで、時間をかけて煮込む。そのほろほろの食感は、秀逸だ。お腹に余裕があったら、ぜひチャーシューを追加したい。「蘭たん亭」は、土産用カレーラーメンの販売もしている。これもぜひ買って帰りたい。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/00d0877c510905c4e9014d2b31f0e1a3.jpg)
そしてカレーラーメンと並ぶ室蘭を代表する味が室蘭やきとりだ。埼玉県の東松山やきとりなどと同様「やきとり」にもかかわらず、串に刺さっているのは豚肉だ。そしてネギは長ねぎではなくタマネギ。「鉄のまち」で額に汗して働く人々は、昭和初期、串焼きにした豚のモツや野鳥などを屋台で食べていたという。ルーツは、1937(昭和12)年に輪西町で開店した「鳥よし」と言われている。当時鳥肉よりも安い豚肉と北海道で豊富に生産されるやはり安価なタマネギを使い、室蘭ならではの「やきとり」が誕生した。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/624b4abeb8fd11d051a573eb9c991c3e.jpg)
大正ロマンスタイルの店構えも人気の老舗「やきとり一平」で、実際に室蘭やきとりを食べてみた。豚肉は、北海道産の新鮮な生豚肉の肩ロースを、品質・温度管理を徹底、ていねいに一本ずつ串刺しし、備長炭を使ってふっくらジューシーに焼き上げる。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/dabf12d48635c8bbf88ae8d17115321b.jpg)
味付けは甘みの強いたれ。創業以来の継ぎ足しだ。そして室蘭やきとりに必須なのが洋からし。塩焼きに一味や七味で味を添える、いわゆる「やきとり」とは大きくイメージが異なる。「やきとり一平」では、数種類をブレンドしたオリジナル洋からしを使用する。老舗らしい味わいをいっそう引き立てるからしだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/68a32403dfccb921240833bfc6c8807f.jpg)
やきとりは基本的に酒の供。「やきとり一平」をはじめ、提供店は基本的に夜の営業だ。そんな中でランチでも室蘭やきとりを味わえるのが、母恋にある「やきとり浜勝」。ランチメニューとして焼鳥丼を提供する。ちなみに、みそカレーラーメンもランチメニューにあるので、室蘭やきとりとカレーラーメンを同時に味わえる。カレーラーメンとミニやきとり丼は魅力的だ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/44cc360cad8e82e6a21429f683cef6a0.jpg)
豚肉を甘い味付けのたれでからめた室蘭やきとり、実はご飯にも良く合うのだ。豚肉とタマネギを串から外しつつ、丼の縁に添えられた洋からしをからませて白いご飯と一緒に掻き込む。帯広の豚丼などと同様、この甘さが立ったしょうゆだれが、なんともご飯を誘うのだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/4c4d2b834650091c79f5c6e82b64cd48.jpg)
北海道というとジンギスカン、羊肉のイメージが強いが、実は県別の豚の飼養頭数では、鹿児島、宮崎に次いで3位に位置する。開拓の歴史とともに豚の生産が行なわれてきた歴史から、豚肉を好んで食べる人が多い。工業都市・室蘭では、それが「鉄のまち」で額に汗して働く人々の暮らしぶり、食生活にも合致した。まさしく「ご当地グルメ」と言えるのだ。