牛骨のうまみを凝縮 「あんかけちゃんぽん」

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ちゃんぽんというと、長崎発祥の、太いちゃんぽん麺をたっぷりの野菜や魚介と一緒に動物系の白濁スープで煮込んだ麺料理を思い浮かべるのが一般的だ。九州の中では、多少の地域差はあるものの、その概念は大きくは変わらない。長崎から全国に展開する、ちゃんぽん専業チェーンの「リンガーハット」の存在で、全国的にも同様の認識が広がっている。

「リンガーハット」のちゃんぽん

しかし、九州以外にもちゃんぽんを愛する地域がいくつかある。滋賀県彦根市や兵庫県尼崎市、秋田市などだ。しかし、いずれも長崎のちゃんぽんとは大きく違い「あんかけ野菜ラーメン」と呼ぶべきようなものがちゃんぽんと呼ばれている。それは山陰地方にも共通している。

鳥取のあんかけちゃんぽん

山陰地方のちゃんぽんとして知られているのは鳥取から島根にかけて幅広く食べられている山陰ちゃんぽんで、鳥取県内ではあんかけちゃんぽんとも呼ばれている。特徴的なのは、前回紹介した鳥取ならではの牛骨スープだ。鳥取のあんかけちゃんぽんは、ラーメン同様に牛骨スープが基本だ。

「香味徳」のちゃんぽん

前回紹介した牛骨ラーメンの人気店は、ちゃんぽんも提供することが多い。例えば、東京銀座にも支店を展開する琴浦町の「香味徳」。東京では牛骨ラーメンに特化しているが、本店では牛骨だしのちゃんぽんも人気メニューだ。ラーメン同様に、しっかり「ひとくち目の牛骨スープの味」が舌に伝わってくる。

白菜を中心としたたっぷりの野菜

ラーメンとの違いは具だ。白菜を中心としたたっぷりの野菜を肉とともに炒めたものに牛骨スープを加え片栗粉でとろみを付けたあんが牛骨スープのラーメンの上にかかっている。舌をやけどしそうなほどに熱々のあんだ。スープ麺の上にあんがかかっているので、より「ひとくち目の牛骨スープの味」が強調されている。これぞ、鳥取のあんかけちゃんぽんといった味わいだ。

たっぷりの野菜に自慢の牛骨スープを投入

一方「洗練系」の「たかうな気高店」でもちゃんぽんは人気だ。ちょうど同店ではご当地ちゃんぽんの祭典「ワールドちゃんぽんクラシック2023in鳥取」が開催されていた。「たかうな」のちゃんぽんはあんかけ麺スタイルだ。スープは張らない。たっぷりの野菜を強火で手早く炒めて、自慢の洗練された牛骨スープをたっぷりと投入、これをすべて水溶き片栗粉であんにして、麺の上に直接かける。皿うどんの麺が、揚げ麺から中華麺に変わったようなスタイルだ。

麺にあんをしっかり絡ませる

これを皿盛りではなく、丼で食べる。よくかき混ぜて、麺にあんをしっかり絡ませる。牛骨スープ特有のくせはほとんど感じない。「たかうな」のスープは時間をかけてじっくり煮込むことで上に浮きやすい牛脂をスープ全体に馴染ませてくせを和らげている。それをさらにあんにすることで、スープの表面に牛脂が浮かなくなり、牛骨スープ特有のくせが表面に集中しなくなるのだ。

「味処四季」のちゃんぽん

「ワールドちゃんぽんクラシック2023in鳥取」には日野町の「味処四季」も出店していた。店名にあるように季節の野菜を生かした料理が特徴のお店だ。一番人気というちゃんぽんは、自慢の野菜がたっぷり入った、やはり牛骨ベースのちょっと緩めのあんが麺にかかっていた。あんには溶き卵も入る。春は山菜、秋はきのこなど、ご主人が自ら山で採取してきた旬の味も取り入れるという。

米子の「大連」

こうした鳥取のあんかけちゃんぽんの中でも特に異彩を放っているのが米子にある「大連」の味噌ちゃんぽんだ。誕生のきっかけはまかない。先代の店主がスタッフに「味噌と豆板醤の効いたちゃんぽんを作ったから食べてみて」と作ったのが始まりという。これを食べたスタッフが絶賛、正式メニューへの昇格が決まったという。

「大連」の味噌ちゃんぽん

とにかく量がすごい。丼の直径は25センチもある。そこになみなみと味噌あんが盛られている。「たかうな」同様、スープレススタイルだ。丼に箸を突き刺し、よく混ぜて麺にあんを馴染ませる。麺の量もかなりのものだ。

よくかき混ぜて麺にあんを絡ませる

これまで食べてきたあんかけちゃんぽんが野菜たっぷりだったの対し、「大連」の味噌ちゃんぽんは野菜控えめだ。細かく刻まれたキャベツやモヤシ、ニラなどがたっぷりのあんから垣間見える。野菜を食べるというよりは、あんを味わうイメージだ。

麺にたっぷりの味噌あんをまとわせる

とにかくうまみがすごい。味噌ちゃんぽんでは秋田の「チャイナタウン」が有名だが「大連」では味噌の味を上回るうまみが際立つ。ベースは牛骨だしとのことだが、うまみが非常に強い割に「ひとくち目の牛骨スープの味」が見事に抑えられている。とろみを付けることで牛脂の浮上を抑え込んでいるようだ。豆板醤の辛味も味噌味のあんを絶妙に引き立てる。

残ったあんにご飯を投入したくなる欲望に駆られる

溶き卵もいい塩梅だ。絶妙のとろみとともに麺にまとわりつく。食べても食べても、麺があんのうまみを連れてくる。あんの量が多いので、食べ進んでなお、麺にあんが絡み続ける。麺を食べ終えてなお、丼には大量のあんが残った。ここにライスを投入して雑炊にしたらさぞかしうまかろうという欲望に駆られた。

牛骨ラーメンとあんかけちゃんぽんは「ザ・鳥取の味」

牛骨特有のくせを抑え込み、強いうまみのみを味わえる料理法としてとろみを付けるのは理にかなっているようだ。あんかけちゃんぽんは、牛骨スープを深く愛する鳥取県民だからこそ生まれた味ではないかと強く感じた。鳥取を訪れたら、牛骨ラーメンとともに、ぜひあんかけちゃんぽんも味わってみてほしい。

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