同じ味は二つとしてない 「太田焼そば」

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静岡県の富士宮やきそばを筆頭に、全国的に注目を集めるようになった「ご当地やきそば」。そんなご当地やきそばのトップランナーの一つが群馬県太田市の太田焼そばだ。ブームの火付け役になったのは、2002年6月に富士宮市市制60周年記念イベントとして開催された「三者麺談」。やきそばでまちおこしに取り組む秋田県横手市、太田市が富士宮に集結、「三国同麺協定」を結んで交流を図ろうと、それぞれの市長が協定書に署名したのがきっかけだ。

太田からスバル360は生まれた

実は太田焼そばのルーツは、「三国同麺」のひとつ、横手やきそばにある。太田市は北関東有数の工業都市。スバルの企業城下町としても知られる。「てんとうむし」の愛称で現在でも愛好家が多いスバル360やラビットスクーターといったヒット商品は、豊かになり始めた人々の暮らしに自家用車を根付かせると共に、太田のまちを豊かにもした。北関東に近い東北をはじめ、全国各地から多くの出稼ぎ労働者が集まるようになる。

太田焼そばの歴史を物語る屋台

そうした出稼ぎ労働者の中に横手出身者がおり、地元で人気のやきそばを太田に持ち込んだとされている。汁がないため、麺がのびることなく手軽に食べられることから、工場で働く人たちの間に広まっていった。以前にも紹介したが、高崎と小山を結ぶJR両毛線沿線には、ソース味を好んで食べる食文化がある。ソースをたっぷりと使う横手のやきそばは、瞬く間に太田の味、ソウルフードとして浸透していく。

同じ味は二つとしてない

太田焼そばの特徴として、店ごとの多彩な味の違いが挙げられる。「同じ味は二つとしてない」といわれるほど。麺の太さもいろいろ、ソースの味も甘め、甘辛め、さらには定番の目玉焼きを筆頭に、唐揚げやチャーシューなどトッピングも豊富だ。中には最低限の具で炒めるシンプルなやきそばもある。食べ歩きに最適なのだ。

「岩崎屋」の焼そば

早速食べ歩いてみよう。まずは、1957年創業の老舗「岩崎屋」から。太田焼そばを代表するお店の一つだ。最大の特徴はまっくろな麺。具材はキャベツのみで、オリジナルのウスターソースで蒸し焼きにする。とにかく黒い。その見た目からは濃厚な、しょっぱい味を想像するが、それは杞憂だった。色からは想像できない、繊細な味付けだった。

「追いソース」で味が膨らむ

テーブルにはソースが用意されていて、好みでソースを足して食べる。それくらい繊細な味なのだ。そして「追いソース」がなかなかいい「味変」になる。ちょっと酸味も加わり、味が格段に膨らむのだ。その黒さが故に最初は気が引けたが、一度「追いソース」の味を覚えてしまうと、かけずに食べると物足りないとさえ感じるようになる。

「岩崎屋」の特に名はない

太田焼そば提供店の多くは、持ち帰りもでき、サイズも豊富だ。「岩崎屋」は10種類もの量のバリエーションがあった。小→中(一人前)→大→特大→ジャンボ(二人前)→ダブル→名はない→トリプル→特に名はない(五人前)→特に名はないの上、となる。試しに特に名はないを注文してみた。5人がかりで食べてもお腹いっぱいになった。

「岩崎屋」の焼きまんじゅう

「岩崎屋」はうれしいことに上州名物、焼きまんじゅうもメニューにのる。せっかく群馬に来たからには太田焼そばだけでなく、焼きまんじゅうも食べておきたい。まんじゅうとはいうものの、その食感はパンだ。焼き目が付いた膨らんでふわふわの生地に、甘じょっぱい濃厚な味噌ダレがたっぷり塗りつけてある。焼きそばとは対照的な味わいだ。

「もみの木」のから揚げ焼そば

あっさりした味わいが特徴なのは「もみの木」だ。店内には、厚さ16ミリの鉄板があり、これを使ってやきそばを焼く。厚みで、焼きはじめから焼き終わりまで一定の温度を保てるとのこと。調理の過程では油を使わない。具の豚肉の脂だけで麺を炒める。そのため、非常にあっさりとした舌触りだ。ソースも控えめで、さらに途中で出しを加えるため、やさしい味わいだ。やきそばを盛る皿もステーキ皿だった。こちらも料理が冷めないようにとの心遣いなのだとか。

あっさり味

「もみの木」の人気メニューはから揚げ焼そば。やきそばに揚げ物という組み合わせは胸焼けしそうなイメージだが、やきそばが非常にあっさりとしているので、揚げ物と合わせるとちょうどいい。この日は揚げ油を新しくしたとのことで、カリッとさっぱりとしたから揚げも楽しめた。

「清水屋本店」の焼きそばは細麺

「清水屋本店」は細麺が特徴だ。そうめんのような細い麺で、それが独特の舌触りを形作る。しかし、細麺ながら「もみの木」のあっさりとは対照的で、ソース味も脂もしっかりと感じることができた。

北関東ならではのでんぷんのシューマイ

要注目はシューマイ。あんはデンプンに味を含ませた、桐生の「コロリンシュウマイ」にも似た北関東ならではのシューマイだ。くにゅっとした独特の食感で、ソースをかけていただく。

「かわとみ」のなすの蒲焼き重

ここまで紹介した3店はいずれも住宅街の中にあり、いかにも地元の人々の暮らしに深く根付いているかがうかがえる。一方で、田んぼの真ん中にぽつんとありながら行列が絶えないのが「かわとみ」だ。定食メニューもあり、「かわとみ」オリジナルの、一見まるでウナギのなすの蒲焼き重は、けっこう知名度が高い。

「かわとみ」はトッピングが豊富

焼きそばもバリエーション豊富で、イカや豚バラ肉をトッピングしたものや栃木市などでよく食べられているポテト入りやきそばも食べられる。実はふかしたジャガイモはソースとの相性が抜群にいいのだ。

B-1グランプリでも人気

太田焼そばはバリエーションが豊かな半面、富士宮のコシの強い蒸し麺&肉かす、横手の挽肉&目玉焼き&福神漬けといった「明らかな特徴」が乏しく、個性の面で損をしている面がある。しかし、その美味しさは決して引けを取らない。ぜひ、太田を訪れてやきそばを食べ歩いてみてほしい。

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