たっぷりの白菜を好みの肉と 「とり野菜みそ」

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寒さが厳しくなってくると、カラダが暖まる鍋料理が恋しくなる。手軽に調理できる鍋物とはいえ、家庭では、だし取りから始めるとなると結構面倒だ。そんなときに重宝されるのは「鍋の素」。顆粒タイプや濃縮タイプ、最近ではそのまま使える鍋つゆも増えている。そんな家庭で使う「鍋の素」の元祖的存在と言われているのが、石川県の家庭料理の定番、とり野菜みそだ。

東京・銀座の石川県アンテナショップでも買える

メーカーのまつやによれば、大豆と米麹から作る米みそに数種類の調味料や香辛料などを混ぜ合わせた調味みそで、日本人に昔から親しまれている伝統のみそを現代人にも好まれるようにアレンジしたという。「鍋の素」としてだけでなく、みそ漬けなど、調味料としても使える。

野菜をたっぷり摂れる

その歴史は古く、ルーツは、江戸時代にまでさかのぼる。まつやの創業家は、元々北前船の廻船問屋。長く過酷な航海で体調を崩す船乗りが多く、その対策として、船上でも摂れる栄養価の高い食事として誕生したのがとり野菜みそ鍋だった。魚や野菜を入れて鍋で煮込めば、不足しがちな野菜もたっぷり摂れ、栄養のバランスも良いという訳だ。

鶏でも豚でも牛でもOK

「鶏」ではなく「とり」なのは、そんな誕生の経緯が背景になっている。なので、鍋に入れるタンパク質は必ずしも鶏肉でなくていい。魚でも豚でも牛でもOKという訳だ。野菜や栄養を「摂る」という意味で、「とり野菜みそ」と命名されたという。

味のバリエーションも豊富

そもそも家庭で食べるものという認識だったが、実際に石川県を訪れると、外食でもとり野菜みそ鍋を食べるシーンに遭遇した。市内には「まつや」の看板を掲げる外食店があり、高速道路のサービスエリアでも地元の名物料理として、とり野菜みそ鍋がラインナップされていた。

「まつや桂店」

実際にお店を訪れてみた。市内中心部から少し離れた金沢クルーズ港ターミナル近くに立地するのは「まつや桂店」。「まつや」を看板に掲げるが、メーカーの直営店ではないようだ。とはいえ、ここなら旅行者でも、気軽に石川県の家庭の味が食べられる。しかも、カウンターなら「ひとり鍋」も可能だ。

細く刻んだ白菜が山盛り

メニューには「鳥野菜」「豚野菜」「牛野菜」、デフォルトのとり野菜みそとピリ辛の2つの味付けで、計6種類並ぶ。まずは最上位に表記された「鳥野菜」を注文する。底が平らなステンレスの鍋に白菜が山盛りだ。コンロに火が入り「野菜がしんなりしてきたら食べ頃です」とのこと。

煮えるとスープが見えてくる

白菜に火が通ってくると、最初は見えなかったスープの色が見えてくる。中京の八丁みそ、赤だしとは対照的な白っぽいみそだ。白菜がスープの中に沈むようになれば食べ頃だ。箸で鍋をかき混ぜると、下から鶏肉が登場した。肉の量は思ったより控えめだった。とはいえ、食べ始めると、この量で正しいということに気付く。

白菜がおいしい

とにかく白菜がおいしいのだ。水分をたっぷり含んだ白菜は、熱が加えられることでその水分をはき出し、代わりにスープの味を吸い込む。とり野菜みその味が適度に染み込んだ白菜が抜群においしい。一方で、肉には白菜ほどには味が染みない。改めて、主役が白菜であることを自覚した。

知らずにあれこれ入れすぎてしまった

とり野菜みそは、東京でも、銀座にある石川県のアンテナショップはもちろん、スーパーなどでも購入できることが多い。実はこれまでにも自宅で何度も調理して食べていた。しかし、寄せ鍋のような感覚で、野菜を含め多種の具を、煮えては食べ、食べては足しで食べていた。白菜はもっと大ぶりに切っていた。しかし、「まつや桂店」では、かなり細かく白菜が刻まれていた。そうすることによって白菜の切断面が増え、より味が染みやすいのだ。白菜がよりおいしくなる。そして具はシンプルに、「白菜一極集中」だ。

豚野菜のピリ辛

山盛りの白菜も火が通ると意外にボリューム感はない。まだ食べられそうだ。続いて「豚野菜」をピリ辛で注文した。豚肉は脂が多い分、鶏肉よりはコクが増す。そこにピリ辛の刺激がいい塩梅だ。

残ったスープは雑炊に

シメに雑炊セットを注文する。ご飯に生卵、薬味の刻みネギと海苔も添えられている。鍋に残ったスープにご飯を入れてひと煮立ち。生卵を割り入れ、さっとかき混ぜれば完成だ。

雑炊セット

この雑炊が実にいい。白菜とはまた違った感覚でとり野菜みそが味わえる。小盛りのご飯とはいえ、2人前の鍋を平らげた後にも関わらず、雑炊を口に運ぶれんげが止まらない。結局、スープの一滴も残すことなく完食してしまった。

ご飯を入れてひと煮立ち

県内では、駅の土産物屋や高速道路のサービスエリアはもちろん、あちこちで袋入りのとり野菜みそを買うことができる。ピリ辛だけでなく、ごまや坦々ごまと味のバリエーションをそろえる店も多い。買って帰り、自宅で調理して食べてみた。

やめられない止まらない

今回調理したのはごまとり野菜みそ。「まつや桂店」のスタイルを参考に、野菜は白菜のみとし、しかも細かく刻んだ。肉は鶏と豚をダブルで使った。これまで自宅で食べていたとり野菜みそ鍋がなんだったんだろうと後悔するくらい格段においしくなった。やはり、これは白菜をおいしく味わう鍋料理なんだと改めて確信した。

自宅でごまとり野菜みそ鍋

金沢駅から「まつや桂店」に向かうために乗ったタクシーで聞いた「あぁ、牛丼じゃなくてとり『白菜』みそのまつやね」という運転手さんの言葉を思い出した。決して言い間違えではなく、地元民の正しい感覚なんだなと改めて思った。

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