北海道のご当地グルメを都市単位で紹介する「北海道あのまち、この味」。4回目は道東オホーツク地方の中心都市・北見だ。かつてはハッカの生産で栄えたが、合成ハッカにその市場を奪われて衰退した。現在はタマネギの生産やホタテ漁が盛んなことで知られる。
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北見市のご当地グルメとしてまず食べておきたいのは、オホーツク北見塩やきそばだ。1989(平成19)年に、北見市の豊かで質の良い農林水産資源を背景に、食を通じたまちおこしによって地域を元気にしたいとの思いから、地元飲食店や研究機関、食品企業、関係団体などが力を合わせて誕生した。2010(平成22)年からは、地元団体のオホーツク北見塩やきそば応塩隊がご当地グルメでまちおこしの祭典!B-1グランプリにも出展、その知名度を広げた。
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使われている食材は、ともに北見市を代表する産物であるタマネギとホタテ。食材が本来持つ美味しさを生かすべく、味付けはやきそばの定番であるソースやしょうゆではなく塩を使う。使う塩はオホーツクの海水100%の天然塩だ。
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オホーツク北見塩やきそばは市内の多くの店で食べることができるが、今回訪れたのは、1902(明治35)年創業の老舗ホテル「ホテル黒部」内にあるレストラン「シェルブルー」だ。老舗ホテルでやきそばはちょっと意外だが、実は同店がメニュー開発に深く関わったのだという。店頭にオホーツク北見塩やきそばの幟こそ立つものの、店内に一歩足を踏み入れれば、そこは間違いなくホテルのレストランだ。
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オホーツク北見塩やきそばは熱々の鉄板にのって提供される。まずは目の前でウエイターが、そこにホタテのうまみを凝縮した「魔法の水」を注ぎ入れる。一瞬にして水蒸気が上がり、じゅうじゅうと音を立てる。食欲を駆り立てる演出だ。タマネギはもちろんだが、大きなジャガイモ、そしてこれまた大ぶりなホタテが北海道感を演出する。
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塩味は海鮮などが本来持つうまみを存分に引き立てる。添えられたレモン汁を加えると、それがいっそう引き立つ。麺もオリジナルだ。北海道産小麦を主原料に水分を多めに含ませ、伸びない、コシと粘りに富んだ麺を開発した。
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夜の部は、焼肉だ。北見市は、2月上旬の夜、寒空の下、屋外に七輪を並べ大勢で焼肉を楽しむ「厳寒の焼き肉まつり」で知られる焼肉のまちだ。12万人の人口に対し、約60店舗と、市民ひとり当たりの焼肉店が北海道で一番多いことでも知られている。
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焼肉店の多さは、諸説あるが、かつて国鉄北見駅の裏に食肉処理場があり、新鮮な肉が身近にあったことが背景にあるという。特に鮮度の高い内臓肉が好んで食べられ、現在も北見市内各店で正肉だけでなく内臓肉が多く食べられている。仲間同志で鍋や炭火焼きをつつき合いながら交流を深めるのが北見の文化だ。
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今回訪れたのは、「焼肉の龍巳」。国道から入り込んだ路地の先にある木造の焼肉店だ。その店構えは、まさに「昭和の焼肉店」。急な階段を上り、2階に案内される。板張りの床の上にテーブルが並び、座布団を敷いて腰掛ける。壁には巨大な換気扇が埋め込まれ、ぶんぶんと音を立てながら回っている。訪れた日は猛暑で、昼には30度を超える暑さだったが、冷房はない。テーブルの上では、炭をくべた七輪が置かれた。
![(上から時計回りに)豚ホルモン、ジンギスカン、牛サガリ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2023/09/8ea2530a82bc553f8f190a9923d60b23.jpg)
注文したのは豚のホルモン、牛サガリ、そしてジンギスカンだ。豚のホルモンは北見焼肉の基本メニューだ。この日「焼肉の龍巳」のメニューに載っていた豚ホルモンの価格は290円。皿いっぱいのホルモンで290円とは驚きだ。
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北見焼肉は、炭火の網焼き、一度塩コショウで下味をつけて焼き、それをタレで受けて口に運ぶ。脂の多い部位なので、焼き進めると、溶けた脂がしたたり落ち、大きな炎が上がる。香ばしく焼き上がったら濃厚なタレに浸して、香ばしさとともに味わう。ビールが進む。
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牛サガリは、横隔膜の背側の部分。つまりこれも内臓肉だ。うまみの強い部位だ。ジンギスカンはラム。やはりお手頃価格ながら、鮮度がいいのだろう、うまみを強く感じる。
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もう1軒、焼肉店をはしごした。「板門店」も人気焼肉店だが、狙いはシメだ。北見焼肉のシメの定番は目丼。「板門店」の名物メニューだ。目丼とは目玉焼き丼のこと。とはいえ、ただ白飯に目玉焼きがのるといった単純な味ではない。実に奥深い味わいの卵丼なのだ。
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特徴的なのはバターの香りと独特の甘み。シンプルな料理だが、そう簡単にこの美味しさは家庭では再現できないだろう。目玉焼きと言いつつ、目玉は原形を保っていない。しかも全体的に熱は入りきっておらず、どろどろの液状だ。それがまた、ご飯に良く合うのだ。
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目丼には辛スープを合わせるのが北見市民の「お作法」だ。真っ赤なスープはいかにも辛そうだが、その色ほどには辛くない。野菜もしっかり煮込まれていて、肉のうまみと野菜の甘みが存分に溶け出している。このスープと共に目丼をかき込むと、もう止まらなくなる。
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網走の「ジアス」など、北海道のまちには、それぞれまちを代表するような老舗バーがある。北見はそもそもハッカのまちだ。最後にハッカを味わいたいと「板門店」のご主人に紹介していただいたのが「ウエストバー」。いただいたのは、ケンタッキーウイスキーのミント・ジュレップだ。グラスにハッカの葉と砂糖、水を入れ、砂糖を溶かしながらハッカの葉を軽く押すようにして香りを立たせる。クラッシュド・アイスを詰め、メーカーズマークを注ぎ、よくステアすればできあがりだ。使われているハッカの葉は、もちろん地元産だ。
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ハッカの爽やかな香りに酔いしれる。もう少しハッカの香りを楽しみたくなった。ハッカを使った代表的なカクテル、モヒートもいただく。今は合成ハッカに押されてすっかり衰退してしまった北見のハッカだが、駅近くには北見ハッカ記念館もあり、町のルーツとして北見市民がハッカを大事にしていることがうかがい知れた。
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「昭和の焼肉店」の一方で、おしゃれなバーでカクテル、ホテルのレストランで焼きそばなど、ステキな「ミスマッチ」があふれていた北見。市内の常呂町はカーリングで知られ、市内中心部には北見工大もある。面積も広く、町としては北海道最大の面積を誇る。見どころ、食べどころも満載だ。