羊の焼肉は当たり前?ジンギスカンとは違う焼肉文化
長野県飯田市は、天竜川の険しい渓谷が続く風光明媚な天龍峡を有し、また秘境駅の多さで人々を魅了する飯田線に名前を冠する、南信州の山あいの城下町です。また近年は焼肉日本一のまちとして知られるようになった、肉好きな市民の多いまちでもあります。
もともと知る人ぞ知る焼肉店の多いまちですが、4年ほど前に、某テレビ番組で焼肉店の多いまちランキング全国1位とされ、有名グルメ系情報誌からの取材でも焼肉のまちとして紹介されたことが、全国に知られるきっかけになったようです。
東京・大阪では、焼肉店といえば牛肉のイメージですが、飯田の大衆焼肉店では、牛と豚、共に精肉・ホルモンが揃うところが多く、特筆すべきは羊が必ずメニューにあること。
北海道ではジンギスカン専門店が多く、焼肉店にも羊がメニューにあります。北海道以外ではあまり羊を食べるイメージはありませんが、実は昔は、羊毛を刈るための羊の飼育が全国各地で行われていたため、羊を食べる地域は珍しくなかったようです。
羊をよく食べる長野県
あまり知られていませんが、長野県は今も羊を食べる文化があります。長野市の隣の信州新町では、古くからジンギスカンを食べており、サフォーク種という高価な肉用の羊も育てています。南信州の伊那地方では、「伊那ローメン」という麺があり、最近でこそ豚肉を使う店も少なくないですが、もとは羊肉を使った焼きそばのような麺料理です。
北海道に負けず劣らず、ここ飯田でも羊は庶民の食として根付いており、昔から焼肉屋には「マトン」がメニューに載っています。正式には「マトン」といえば生後2歳以上の羊の肉のことで、旨味はあるがやや癖があり、「ラム」は生後1歳未満の羊で、柔らかく癖がないとされ、別の肉として扱われています。(定義は永久歯の本数で決められることもあるようです。ちなみに1歳~2歳は「ホゲット」と呼ばれあまり流通はしていません)
ところが飯田では羊といえば「マトン」と呼ばれていたので、ラムであっても「マトン」とメニューに載っていることがあります。最近ではきちんと「ラム」とメニューに載せる店もあるようですが、古くからの焼肉店では基本的に羊=マトンと呼ぶそうです。
「生ホル」と「ゆでホル」!?
焼肉屋に羊が常備されていることに加え、ホルモンについても飯田は少し変わっています。生ホルモンと長時間茹でこぼしをして柔らかくしたゆでホルモンがあり「生ホル」「ゆでホル」などと呼ばれています。店によっては、ホルモンというメニューでどちらか片方だけの店もありますが、いずれにしろホルモンは飯田市民の人気メニューになっています。
ちなみに信州は馬刺しをよく食べるイメージがありますが、馬の焼肉はほとんど聞きません。火を通す料理としては「おたぐり」という、味噌仕立ての馬のもつ煮込み料理を居酒屋などで耳にします。語源は、長い腸をたぐり出すことから、という説が有力だと言われています。
焼肉店でも「おたぐり」というメニューを見ることがありますが、焼肉のそれは馬の腸ではなく、豚の大腸などのホルモンを指します。こちらもゆでと生で、「ゆでおた」「生おた」などと略されることもあるそうで、ホルモンになじみの深いことが伺えます。
飯田の焼肉は、基本的に羊・牛・豚の三種で、既述の通り馬はありません。ホルモンは牛と豚で種類も豊富で、食感がとても柔らかい「ゆでホル」は、飯田以外ではまずお目にかかることのない必食のメニューです。リニア新幹線が2027年開業予定の飯田市で、焼肉好きの市民から愛される飯田焼肉を楽しまれてはいかがでしょうか。