地球温暖化でますます厳しさを増す夏の暑さ。暑いと食欲も低下しがちだ。そんなときにうれしいのが、さっぱりと涼しく食べられる冷たい料理。暑さが厳しい地域には、そんな冷たいご当地グルメも多い。
九州の宮崎には、氷を浮かべた汁をご飯にかけて食べる冷や汁がある。本州でも内陸部はけっこう暑い。日本列島の背骨に位置する山形も、東北ながら夏は猛暑で知られる。夏の山形の名物料理と言えば冷やしラーメンだ。
そして岐阜県と並んで暑さ日本一を競い合う埼玉県にも夏ならではのご当地グルメがある。川島町のすったてだ。
「都会に一番近い農村」の農耕食
川島町は、埼玉県中部に位置する人口約2万人の町。都心のベッドタウンでもある川越市や上尾市に接するものの、JR高崎線と東武東上線に挟まれた「鉄道空白地」で、町内が平坦なこともあり、一面に水田が広がる。キャッチフレーズ「都会に一番近い農村」そのままの町だ。
埼玉県から群馬県にかけてのこの一帯は、米の裏作で麦を作る二毛作が盛ん。そのため、関東では珍しくうどんをよく食べる地域だ。香川などとは違い、だしを張るのではなく、肉や野菜がたっぷり入ったつけ汁に浸して食べるのがこの地域の作法だ。
そんなつけ汁うどんを、夏の農作業のあいまに食べられるようにしたのがすったてだ。
かつての農家は手作業が基本だった。田植えから秋の刈り取りまでの時期、農家では朝早くから水田に出向き、時間を惜しんで草刈りや水の管理などに明け暮れた。特に夏場は、炎天下での作業になり、心身ともにクタクタになった。
そこで、栄養があり、手間をかけずに作れる料理としてすったてが誕生した。
うどんで食べる冷や汁
うどんはあらかじめ茹でて冷水で締めて、すり鉢ですった炒りごまに味噌をあわせたものと一緒に持って行く。料理名のルーツは、この「すりたて」のごまだ。
食事時になったら、それを冷たい井戸水で溶き、つけ汁にして食べる。合わせる具は、タマネギ、キュウリ、大葉、ミョウガと目の前の畑でとれる夏野菜だ。大豆が原料の味噌はタンパク質が豊富、しかも発汗で失われた塩分も補給できる。
冷たい井戸水で暑さもしのげ、母屋に帰ることなく空腹を満たせる。実によくできた農耕食だ。
味は宮崎の冷や汁に近い。ご飯ではなく、うどんで食べる冷や汁と思ってもらうと分かりやすいだろう。ごまに加え、大葉、ミョウガと香り豊かな野菜を合わせることで、シンプルながら実に豊かな味わいを楽しめる。
自作のつけ汁で食べる「和食レストランそうま」
すったて初心者には、町内にある「和食レストランそうま」でまず食べてみることをおすすめする。同店ですったてを注文すると、すり鉢に入ったごまと味噌や夏野菜が別々に食卓に並べられる。
自分でごまをすり、味噌と合わせ、野菜を投入してつけ汁を作ってうどんを食べるのだ。すったてとはどんな料理かを知るにはもってこいだ。子供連れなら、家族みんなで作ってみるのもいいだろう。
夏野菜タワーの「本手打うどん庄司」
いわゆる武蔵野うどんや加須のうどんなど、この地域のつけ汁うどんは麺の量が多いのが特徴だ。そのボリューム感を肌で感じたいなら同じく町内の「本手打うどん庄司」がおすすめだ。
「和食レストランそうま」と違い、つけ汁は調理済みのものが出てくるが、うどんに盛られた夏野菜がスゴイ。細かく切った、ミョウガ、キュウリ、大葉、大根、タマネギがまるでタワーのように麺の上にそびえ立つ。
麺はデフォルトでは400グラムだが、腹具合に応じて中盛り(550グラム)、大盛り(700グラム)、特盛り(900グラム)、特々盛り(1200グラム)と選ぶことができる。うどんの山の上にそびえる夏野菜タワーは圧巻だ。
自宅でもすったて
町内には、地元JAが経営する農産物直売所もある。すったては、どこにでも手に入る材料で作れるため、自宅で作って食べてもいいだろう。直売所に行けば、地物のうどんが手に入る。つけ汁とセットにしたものも売っている。
さらに、地元では、うどんだけでなくそうめんもすったてのつけ汁で食べる。これなら、近所のスーパーで全ての食材がそろうはずだ。
シンプルなのに栄養豊富、そして何よりおいしい川島のすったて。暑さで食欲が落ちたときにはぜひ食べてみてほしい。