3種の味楽しめるうなぎ 「ひつまぶし」

投稿日: (更新日:

日本人の大好物、うなぎ。全国津々浦々でハレの日の食事として愛されている。大まかに東京を中心とした東日本では背開きにして蒸しながら焼くのに対し、大阪を中心とした西日本では腹開きにし、蒸さずにそのまま焼くスタイルだ。さらには東日本では頭を落として切り身にしてから竹串を刺して焼くことが多いのに対し、西日本では頭を落とさず1本丸のまま金串に刺して焼くことが多い。同じうなぎでも、相応の地域差がある。

1本丸のままで焼く西日本風

焼き方は東西の差があるものの、たれをつけて焼く蒲焼きを丼や重箱のご飯にのせて食べるのが一般的だ。しかし、九州と中京地区はそれにバリエーションが加わる。九州では蒸さずに地焼きしたうなぎをご飯にのせてから蒸す「せいろ蒸し」があり、中京地区では、おひつのご飯にうなぎをのせ、茶碗に盛りながら多彩な食べ方をする「ひつまぶし」がある。今回は、中京地区のひつまぶしをご紹介したい。

ボリュームで知られる津のうな丼

静岡県浜松市、そして三重県津市はともにうなぎをよく食べることで知られている。もちろん、2つのまちに挟まれる名古屋を中心とした中京地区でもうなぎが好んで食べられている。とはいえ、浜松も津も店によってひつまぶしはあるが、主流はうな丼・うな重だ。

養殖によってうなぎのばらつきが減少した

うなぎの養殖が始まる以前、天然のうなぎを主に食べていたころは、うなぎの太さや長さにばらつきがあり、また形崩れすることもあったことから、細かく刻んでご飯の上にのせたという説もある。さらに津では、太すぎるうなぎは食感が硬いため、これを刻んでまかないとして食べており、これがひつまぶしにつながったという説もある。いずれにせよ、その経緯ははっきりしない。とはいえ、中京地区では、うな丼やうな重に勝るとも劣らないうなぎの食べ方であることは紛れもない事実だ。

「あつた蓬莱軒」のひつまぶし

さっそく、ひつまぶしを食べてみよう。訪れたのは、名古屋を代表する神社・熱田神宮の門前に明治6年に創業した老舗料亭「あつた蓬莱軒」の松坂屋店。ひつまぶしの老舗として知られる。かつては出前が多く、丼を割ってしまうことが多かったそうで、出前の際に割れない大きな木の器に人数分のうなぎとご飯を盛り、出前先で取り分けて食べるスタイルを考案したという。

うなぎは小さく刻んである

しかし、この方式ではご飯の上にのったうなぎばかりに箸が延び、ご飯を残すケースが頻発したそうだ。そこで、うなぎを細かく刻み、ご飯とバランス良く食べる現在のスタイルが確立されたという。これが評判呼び、店内でもおひつで提供するようになり、名物メニューになったのだそうだ。

おひつのうなぎご飯

ひつまぶしの名前の由来は、このおひつのご飯に小さく刻んだうなぎを「まぶす」ことから生まれたとされている。ただこれも諸説あり、大阪では、硬い地焼きのうなぎをご飯の中に入れて、ご飯の蒸気で蒸しながら食べることからうな丼は「まむし」と呼ばれており「おひつに入ったまむし」がなまってひつまぶしになったという説もある。

肝の吸い物付き

名古屋の中心街だからだろうか、平日にもかかわらず、開店前から多くの人たちが店が開くのを待ち構えていた。まず、名前を書いて、開店後順番に名前を呼ばれ、店内に案内される。

四等分する

早速食べてみよう。「あつた蓬莱軒」では、おひつに盛られたうなぎご飯が薬味、だし、お新香と共に配膳される。まずはおひつのうなぎご飯をしゃもじを使って四等分する。これをお茶碗によそって食べる。まず最初は、そのままうなぎご飯として食べる。山椒やうなだれが必要なら用意してくれるので、好みでかけて食べる。

薬味はねぎ、わさび、刻み海苔

二膳目は薬味を添えて食べる。木の器には青ねぎ、わさび、刻み海苔が用意されている。これを好みに応じてうなぎご飯の上にのせて食べる。驚かされたのはわさびだ。白焼きにわさびはよくあるパターンだが、蒲焼きにもわさびがよく合うのだ。うなだれの甘さと、ぴりっとしたわさびの舌触り、香りがちょうどいい塩梅なのだ。

薬味を添えて

三膳目はお茶漬け。だしや煎茶を注いで、お茶漬けにして食べるのだ。配膳された容器にはだしが入っている。非常に薄味で、ほぼだしのみの味わいだ。透明度も高い。二膳目の薬味を残しておいて、お茶漬けに華を添えるのもいいだろう。そのままでももろん美味しいが、甘いうなだれをちょっとたらすと、薄めのだしにほんのりと甘みが加わる。するするとかき込めるのもうれしい。

お茶漬けで

最後、残った4分の1は、これまで食べた3種のうなぎの食べ方のうち、最も美味しかった食べ方でいただくのだそうだ。もちろん、残してあったわざびを全投入して薬味を添えた「パターン2」で食べた。

だしは透明で薄味

いかにも高級店の雰囲気で、店内もぜいたくにスペースを使っている。メニューには1.5人前バージョンも用意されていて、味はもちろん、量も「お上品」だろうと思っていたが、見事に予想は覆された。おひつにはたっぷりのご飯が詰め込まれていて、1人前を平らげると、けっこうお腹が膨れた。1.5人前では食べ切れなかったかもしれない。

名古屋市熱田区にある「あつた蓬莱軒」本店

念のため熱田神宮そばにある本店も覗いてみたが、こちらも店頭には多くの人たちが席が空くのを待っており「待ち時間30分」の札も掲げられていた。お手頃価格のものが多い「名古屋めし」にあって、ひつまぶしは価格も含めて、間違いなく「ハレの日」の食事だ。にも関わらずこの大行列。よほど名古屋の人々に愛されている味なのだろう。

Copyright© 日本食文化観光推進機構, 2024 All Rights Reserved.