甘いんだかしょっぱいんだか、微妙な味…。NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で全国的に知られるようになった久慈まめぶ汁。その誕生には、米作に適さず、凶作と飢餓に苦しめられてきた地域の歴史が秘められている。
黒砂糖入り団子が入ったしょうゆ味の汁もの
![団子が入ったしょうゆ味の汁もの](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/4dddfc5a04495fc09df59bb4a60c721a-1024x768.jpg)
久慈まめぶ汁は、煮干しと昆布のだし汁に、ゴボウ、ニンジン、油揚げ、シメジ、かんぴょう、焼き豆腐を加え、しょうゆで味を整えた汁に、まめぶと呼ばれるクルミと黒砂糖を包んだ親指大の小麦団子を入れて煮込む料理だ。
江戸時代の倹約令で誕生
![クルミの実と黒砂糖を団子で包む](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/aba9e9199c9634c7975601eff1d0bfd7-1024x768.jpg)
ドラマの舞台となったのは海辺だが、久慈まめぶ汁は、久慈市でも内陸部に位置する山形町(旧山形村)で誕生したもの。夏が冷涼で米作に適さなかった三陸地域の中でも、山間の山形は気候が厳しく、度重なる凶作で多くの餓死者を出していた。そこで、南部のお殿様から、年貢を納める際、凶作に備え「百姓は麺類やそばきりを食べてはならない」とのご法度があった。とはいえ、ハレの日の食事くらいは、おいしいものを食べたいと願うのは、人の常。しかし、ぜいたくは御法度。となれば、隠れて、隠して食べようというのが人の性(さが)だ。
![最後に丸く団子にするとクルミと黒砂糖は見えなくなる](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/3f6ce8c78701f2306a4c1d40f50eb699-1024x768.jpg)
そこで小麦を麺にはせず、練り粉に味付けし、脂肪分の多いクルミの実を包んで団子にして食べたのがルーツと言われている。具が酢飯の下に埋まっている岡山の祭り寿司も同様に、お殿様の倹約令から目をそらせるために誕生したとの説がある。
しょうゆ味の中の黒砂糖
![黒砂糖の甘みがアクセントに](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/1c452f48fd1080d1770d90c5d1debbb5-1024x768.jpg)
最も特徴的なのは黒砂糖。しょうゆ味の汁との組み合わせは、一見意外性が高いが、食べてみるとそれほどの違和感はない。濃厚な味ならばともかく、すっきりとした汁の味わいに、少量の甘みはいいアクセントだ。
![まん丸団子のできあがり](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/201deb7968102a45a9343557f5de3cb7-1024x768.jpg)
ユニークな「まめぶ」という名前の由来は、団子がまり麸に似ていたこと。忠実忠実(まめまめ)しく、健康で達者に暮らせるようにとの、願いも込められているともいわれる。
久慈のまちおこしの旗印に
![B-1グランプリ豊川大会で5位入賞](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/2f8977d6f9fa04d3dcce3785f1b9497c-1024x768.jpg)
2010年に誕生した市民団体・久慈まめぶ部屋は、まめぶでまちおこしに取り組む。B-1グランプリへの出展を目指し、ご当地グルメの発掘を模索する。久慈市一帯で好んで食べられている豆腐田楽などが候補に挙がったが、最終的には久慈市に合併した旧山形村の料理であるまめぶ汁を「久慈まめぶ汁」として、久慈市全体を代表するご当地グルメに選び、11年のB-1グランプリ姫路大会に初出展。「あまちゃん」が放映された13年には、B-1グランプリ豊川大会では5位入賞を果たした。
![たっぷり具だくさん](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/05/711fa8b89c2fe7f5020cf1dc6766d55c-1024x768.jpg)
現在では、久慈市中心市街地はもちろん、東京・東銀座にある岩手県のアンテナショップでもまめぶを買うことができる。「あまちゃん」では「微妙な味」と紹介されたが、味わい深い汁の中で一瞬感じる甘みとクルミのこくは、他ではなかなか味わえない美味だ。まだ食べたことがない人は、ぜひ一度味わってみてほしい。