長崎から佐賀、戸畑へ ご当地ちゃんぽん巡礼の旅(3日目)

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3回にわたるご当地ちゃんぽん巡礼の旅のリポート。今回が最終回となる。九州でご当地ちゃんぽんを食べ歩くのであれば、ちゃんぽん発祥の地・長崎を外すことはできない。小浜温泉を後に向かったのは、ちゃんぽん発祥の店、大浦天主堂そばにある「四海楼」だ。

「四海楼」のちゃんぽんミュージアム

長崎のちゃんぽんは、1899(明治32)年にここ「四海樓」で誕生したという説が一般によく知られている。原型になったのは、豚肉やシイタケ、タケノコ、ネギなどを具にしたあっさりスープを使った福建省の麺料理「湯肉絲麺」。これを「四海樓」の初代、陳平順さんが、濃いめのスープ、豊富な具、独自のコシのある麺で日本風にアレンジした。まずはその歴史を、ビルの中にあるちゃんぽんミュージアムで学ぶ。

歴史と威容を誇る「四海楼」

レストランは午前11時30分の開店だが、11時にはすでに行列ができはじめ、開店時間には長蛇の列となっていた。「四海楼」のレストランはビルの5階。窓際の席ならちゃんぽんを食べながら、長崎港から稲佐山までを一望できる。早めに並んだ甲斐もあり、窓際の席に案内された。

「四海楼」のちゃんぽん

まずは、ちゃんぽんから味わおう。白濁スープは丸鶏と鶏ガラ、とんこつを合わせて3~4時間かけて煮出して作る。具の魚介は、イカ、小ガキ、小エビなど、練り物も含めて長崎近海でとれる海産物が原料。また、独特の太いちゃんぽん麺は、麺に弾力を加えるかんすい=アルカリ塩水溶液の代わりに、中国由来の唐灰汁(とうあく)を使っている。配膳直前に、キッチンから運ばれてきたちゃんぽんに刻んだ錦糸卵をフロアでのせるのが「四海楼」流だ。

麺の食感がソフト

ここまで食べてきたちゃんぽんに比べ、元祖は麺の食感がソフトだ。またスープの白濁ぶりも、ここまで食べてきた中では最も透明度が低い。まさに白濁スープそのものだ。具も野菜より海鮮類が勝るイメージだ。

「四海楼」の皿うどん

続いて皿うどん。平順さんがちゃんぽんのバリエーションとして「炒肉絲麺」を参考に作り上げたという。麺は東京などで一般的な油で揚げた細麺ではなく、太いちゃんぽん麺。ここまで食べてきたまちでは麺に焼き目を付けていたが「四海楼」には焼き目はない。しかも具にはとろみがついていない。ラードで炒めた具にスープを加えて味付けしてある。

艶やかな麺

皿うどん発祥当時、ソースの輸入が盛んになり、国内でも生産されるようになっており、平順さんは、ソース味を意識して、この皿うどんを考案したとの説もある。なので、酢ではなく地元産のウスターソースをかけて食べる。この点も一般的な皿うどんとの違いだ。

「四海楼」の炒麺

揚げた細麺の皿うどんは、「四海楼」では炒麺(チャーメン)と呼ばれる。具にはしっかりとろみが付けられている。ソースをかけても美味しいが、こちらは食べ慣れた酢の方が美味しく感じた。

「四海楼」のはとし

ちゃんぽん・皿うどんではないが、長崎名物のはとしも添えた。「四海楼」のはとしは「合多士」と書く。広く知られているのはエビのすり身を食パンで挟んで揚げたものだが、「四海楼」では餃子のあんを使っていた。本場中国とは違い、エビ以外のあんを使うはとしが長崎にはあるという。

エビのすり身が入ったはとし

長崎初心者の旅の友のために、長崎駅でファストフード風のはとしを買って車の中で食べた。これは「蝦多士」と書く。「蝦」はエビを意味する。すり身のプリプリ感と揚げたパンのサクサク感がいいコントラストだ。

「池田屋」のだしちゃんぽん・太麺

帰りの飛行機まで時間があり、急遽、佐賀市「池田屋」を訪れることにした。同店は、佐賀大学前で、1925年以来64年にわたって学生の空腹を満たし続けてきた「中村食堂」の味を受け継いだという。現在の店舗は2016年にできたものだが、店内のあちこちに往時を感じさせる調度品をしつらえる。

「池田屋」のだしちゃんぽん・蒸麺

「池田屋」のちゃんぽんはだしちゃんぽんと呼ぶ。昆布に数種類の削り節を加えた純和風だしに炒めた野菜から出る甘味や旨みを含んだ水分が加わった、まろやかで深い味わいが特徴。興味深いのは太いちゃんぽん麺と戸畑流の蒸麺を選べること。食べてみるとどちらがより美味しいというわけではない。それぞれ良さがあり、どちらを選ぶかは好みの問題だ。

「池田屋」の皿うどん・太麺

皿うどんは、この和風だしで炒めた野菜をたっぷりのあんでからめ、麺にのせてある。こちらは太麺・パリパリ麺・蒸麺の3種類が選択できる。いずれもごま油で揚げ焼きしてある。ソースもあるが、店では味変に「池田屋特製甘酢」をかけることをすすめている。甘味かと思うほど甘さの強い酢だが、皿うどんにかけてみると甘さはさほど気にならず、確かにいいアクセントになっていた。

「池田屋」の皿うどん・蒸麺

旅の最後は、北九州市戸畑区の戸畑ちゃんぽん。「宝運亭えっちゃん」を訪れた。戸畑ちゃんぽんは地元製鉄工場で働く人たち向けに、短い休み時間に多くの人が食べられるよう、ゆで時間が短い蒸し麺を使うのと、揚げ物を具に使い大量の汗をかいて働く人々がスタミナ補給できるようにしている点が特徴。同店は蒸し麺ながら、揚げ物がのらないパターンだった。

「宝運亭えっちゃん」の戸畑ちゃんぽん

水俣、久留米、武雄・北方、小浜温泉、長崎、佐賀、戸畑、それぞれに特徴のあるおいしいご当地ちゃんぽんを堪能した。他にも長崎県平戸市、熊本県天草市など九州各地には多くのご当地ちゃんぽんがある。さらには、愛媛県八幡浜市、山口県長門市、鳥取市、兵庫県尼崎市、滋賀県彦根市、栃木県高根沢町、秋田市、北海道網走市などご当地ちゃんぽんは全国に広がる。その魅力をぜひ、現地を訪れて味わってほしい。

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