武雄・北方から小浜へ ご当地ちゃんぽん巡礼の旅(2日目)

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前回に続き、ご当地ちゃんぽん巡礼の旅をリポートする。2日目のスタートは佐賀県武雄市だ。武雄は温泉で知られるが、2006年に山内町と共に合併した旧北方町は炭鉱のまちで、鉱山周辺には、炭鉱で働く人々のための飲食店が多く営業していた。そこで愛されたのがちゃんぽんだ。

ボリューム満点の「井手ちゃんぽん」

炭鉱は1960年代に閉山したが、その後も地元でちゃんぽんは愛され続けた。炭鉱で働く人々はヤマから消えたが、ちゃんぽんを提供した飲食店は活路を求め、幹線道路である国道34号線沿いに店を移した。今では多くの飲食店が国道沿いに軒を連ね、一帯は「武雄・北方ちゃんぽん街道」とまで呼ばれるようになった。

ランチタイムには長い行列ができる

そんな「武雄・北方ちゃんぽん街道」で最も高い人気を誇るのが「井手ちゃんぽん」だ。本店はもちろん、近隣に多くの支店、系列店を持ち、いずれも行列店として知られる。その人気の秘訣は、味と盛りの良さだ。日々過酷な労働で体力を費やした炭鉱で働く人たちにとっては、食は命をつなぐエネルギー源でもある。ボリューム満点、安くて腹一杯になるちゃんぽんが愛された。

山盛りの野菜

とはいえ、炭鉱は山の中。海から遠いため、ちゃんぽん特有の魚介は入らない。かまぼこなど練り物が入る程度だ。その分、麺と野菜で「かさ増し」することになる。なので、武雄・北方のちゃんぽんは野菜山盛りだ。ラードで炒めた野菜中心の具が、まさに麺の上に山盛りになる。

キクラゲと生卵がのった特製ちゃんぽん

特製ちゃんぽんは、そこにキクラゲと生卵がのる。やはりどちらも山の食材だ。前回紹介したように、九州のちゃんぽんスープはあまりしつこくはない。しかし、具を炒める際にラードを使うため、使うラードの量によってはけっこうこってりしてくる。「井手ちゃんぽん」はまさに後者のタイプだ。

「井手ちゃんぽん」のカツ丼

「井手ちゃんぽん」に限らず武雄・北方を訪れたら、もちろんまずちゃんぽんを食べるべきだが、地元常連たちには実はカツ丼も愛されている。中にはカツ丼で名の知れた店もあるほど。「井手ちゃんぽん」もカツ丼の美味しい店として知られ、福岡空港内にはカツ丼専門店「井手カツ丼」も構える。

福岡空港内にはカツ丼専門店も

いわば「ちゃんぽん屋のカツ丼」で、とんかつ専門店のような特別な肉を使っているわけではない。一見ごく普通の「食堂のカツ丼」だが、味付けや卵の火の通し具合など、すべてが完璧と言っていいほどの仕上がりになっている。とろっとした卵の舌触り、ちょっと甘めのたれの味……この味を超えるカツ丼はそう多くはないだろう。

牛骨スープの大町たろめん

武雄市に隣接する大町町も、同様に炭鉱で栄え、やはり1960年代に閉山したという歴史を持つ。もちろん、大町にも「炭鉱めし」があった。大町たろめんだ。しかし、武雄・北方のちゃんぽんとは違い、炭鉱町の衰退と共に一時姿を消してしまっていた。しかし、その味をまちづくりに生かそうと、地元の有志が立ち上がり復活させた。せっかくなので、大町の国道34号線沿いにある「家族庵」でその味を確かめることにした。

麺は中華麺ではなくうどん

ショウガが効いた独特のスープが特徴で、うどん麺に豚肉やキャベツなどの野菜がたっぷり入っている。スープのだしは牛骨だ。牛骨スープといえば韓国冷麺が有名だが、洋食のブイヨンはともかく、麺料理では山口県下松や鳥取の牛骨ラーメンくらいしか聞かない。非常に珍しい味だ。

「食楽大盛」の小浜ちゃんぽん

ボリューム満点の武雄・北方ちゃんぽん、さらには大町たろめんで腹一杯になり、北方町同様に合併して今は武雄市の一部になった山内町で陶器を探して腹をこなす。旧山内町は有田焼で知られる有田町に隣接し、製陶が盛んな土地だ。魅力的な窯が軒を連ねる。そして向かったのが、長崎県雲仙市にある小浜温泉。NHKのドラマ「私の父はチャンポンマン」の舞台にもなった、ご当地ちゃんぽんでは全国的に知られたまちだ。

チャンポンマンの凧と林田さんのツーショット

「私の父はチャンポンマン」は、地元市役所職員が、ちゃんぽんを旗印にまちおこしに奮闘する姿を描いたドラマ。主人公・チャンポンマンのモデルとなった「ちゃんぽん番長」こと一般社団法人雲仙観光局の林田真明さんとともに「食楽大盛」を訪ねる。主人の佐藤忠大さんは、チャンポンマンとともにまちおこしに奮闘する食堂店主のモデルになった人物だ。

殻付きエビが特徴

小浜ちゃんぽんは、近海で採れたシバエビを殻付きのまま具に使うのが特徴。小浜温泉は、長崎市から橘湾をはさんだ対岸にあり、長崎で誕生したちゃんぽんが早い時期から伝播したことで知られる。「食楽大盛」のちゃんぽんは、スープも麺の食感も野菜の火の通り具合もすべてが申し分ないバランスだ。林田さんは、九州はもちろん、遠く関東や北海道にまでご当地ちゃんぽんの魅力を伝え、広げていった。小浜ちゃんぽんは、その元祖的存在だけに、各地のご当地ちゃんぽんのお手本とも言える味だ。食べる際には、生卵を割り入れていただく。

「食楽大盛」の皿うどん

「食楽大盛」の皿うどん。やはり絶妙に火の通った野菜の食感が素晴らしい。片栗粉が入ることで焼いたちゃんぽん麺に絶妙に絡みつく。これに地元のウスターソースである金蝶ソースをかけて食べるのがお約束だ。

大鉢の小浜ちゃんぽん

この日は貸し切りでの宴会。そのシメということで、大鉢の小浜ちゃんぽんに大皿の皿うどんも登場した。皿うどんは太麺と揚げた細麺の一緒盛りだ。見ているだけでお腹いっぱいになる。2日目も長くなった。最終日の模様は次回に引き継ごう。

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