ドライからつゆだくまで 「宮津カレー焼きそば」

投稿日: (更新日:

日本三景のひとつ、天橋立で知られる「海の京都」宮津市。観光や一次産業が暮らしの中心だが、そんな宮津で愛されているご当地グルメはカレー焼きそばだ。いったいどういった経緯で、日本海に面した風光明媚なまちで、インドにルーツを持つカレーと中華料理を源流とする焼きそばが合体し、根付いていったのか?

「道の駅海の京都宮津」のカレー焼きそば

ご当地グルメ誕生の典型的なパターンのひとつに「発掘型グルメ」と呼ばれるものがある。店主が努力と工夫を重ね編み出した「店独自の味」は、その店の看板メニューであり、いわば「ご当店グルメ」だ。しかし、様々な理由で、そのお店がなくなってしまう場合がある。特に地元で深く愛され続けた味は、多くの人に惜しまれ、その味を受け継ぐ店、その魅力を再現しようとする店が現れる。そうすることによって「ご当店グルメ」が、広く地域を代表する「ご当地グルメ」となっていくパターンだ。

家庭で食べられる袋麺もある

宮津カレー焼きそばの場合は「平和軒」というお店がそのルーツだ。「平和軒」は戦後、台湾から宮津にやってきた王(ワン)さんが開業、カレーの効いたスープで中華麺を食べさせる個性的な焼きそばを編み出した。この味が広く愛され、宮津市民のソウルフードとまで呼ばれるようになった。

宮津カレー焼きそばののぼり

すでに「平和軒」はないが、パンフレットやホームページで確認すると、現在9軒の店でカレー味の焼きそばが提供されている。宮津商工会議所に事務所を置く宮津カレー焼きそばの会では、その9店を紹介するマップと宮津カレー焼きそばの魅力をひもとくパンフレットやホームページを作成している。

「カフェ・レスト絵梨奈」

そもそも「平和軒」のカレー焼きそばがスープタイプのユニークな焼きそばだったことから、宮津カレー焼きそばの会では、9軒のカレー焼きそばをドライ、微ドライ、微ウエット、ウエット、つゆだくの5段階に分類している。中には、ドライとウエット、ともに提供している店もある。

「カフェ・レスト絵梨奈」のカレー焼きそばウエット

実際にお店で宮津カレー焼きそばを食べてみよう。最初に訪れたのは、「カフェ・レスト絵梨奈」。ドライとウエットを両方提供するお店だ。今回はウエットを食べてみた。見事なまでのつゆだくだ。

つゆだく

栃木県那須市のスープ焼きそばをほうふつとさせるつゆだくだ。那須のスープが、札幌のスープカレーに置き換わったと例えると分かりやすいだろうか。カレー焼きそばとしては、他に福島県会津地方のものが知られるが、会津は焼きそばにカレールーをかけたスタイルが基本だ。「カフェ・レスト絵梨奈」は、明らかにルーではなく、スープカレーだ。

福神漬けの赤がいいアクセントに

麺もユニーク。焼きそばと言うよりパスタに近い、太くてストレートな麺だ。思わずフォークで食べたくなる。独特のコシがあり、カレースープとの相性もいい。カレーであることの主張が、あえて麺の頂上に盛り付けられた福神漬け。皿全体のカラーコーディネーションにも一役買っている。目にも鮮やかだ。

ストレートな麺はスープに絡みにくい

ただ難点は、ストレートなパスタタイプの麺はスープに絡みにくい。スプーンですくってすすりながら食べるのだが、どうにも気分が出ない。隣の席を見ると、地元客だろうか、ライスとのセットで食べていた。メニューにも「ウエットはライス添えもお試しください」とあった。しまった。食べ歩きを想定していたので、ライスを避けてしまっていたのだ。皿に残ったスープカレーにごはんを入れてカレーリゾット風にして食べたらさぞかし美味しかろうと後悔した。

看板の下には「看板メニュー」のフラッグが

ウエットを食べたら、次はドライだ。「カフェ・レスト絵梨奈」でパンフレットを手に入れていたので、それを参考に最もドライと評価された店を2軒目に選んだ。「酒房たむら」だ。路地裏に居酒屋らしき店が軒を連ねる、どうやら宮津の夜の中心街のようだ。お店は階段を上がった2階にあった。

ドライな「酒房たむら」のカレー焼きそば

「酒房たむら」はドライのみ。見た目はいかにも焼きそばだ。麺もよくある焼きそば用の麺になっている。いかにも酒のつまみといった趣で、箸でつまんで口に放り込むと、口じゅうにカレー粉の味が広がる。それをビールで洗い流したい欲望に駆られた。

ビールがほしくなる味

キャベツや豚肉といった具も、炒め具合も典型的な焼きそばだ。ワンコイン500円という価格設定も「虫押さえ」に食べるのにはちょうどいい。「酒房」ではあるが、おやつにも合いそうなカレー焼きそばだった。

インスタントの宮津カレー焼きそば

「酒房たむら」を出て通りを渡ると、そこは道の駅。持ち帰り用のカレー焼きそばとインスタントのカレー焼きそばも購入した。持ち帰って調理してみる。袋麺で、麺を水で戻す作業が必要になるため、ウエット専用だった。

レシピ通りに作ってみると…

レシピ通りの水分量で調理すると、うっすらと丼の底にスープが残る程度の「つゆだく」風の仕上がりになった。一応「かやく」の袋も同封されていたが、仕上がりは寂しく、その上に野菜と肉をカレー粉で炒めてのせてみた。お店の宮津カレー焼きそばの雰囲気に仕上がった。

丼に残った汁にごはんを入れて

麺をすすり終えたら「カフェ・レスト絵梨奈」のリベンジだ。肉野菜炒めも少し多めに食べ残し、丼の底にたまったカレースープにごはんを浸してみた。うん、ウエットタイプはこの食べ方が正解だ。宮津へ行った際には、ウエットタイプのカレー焼きそばを食べる際には、ぜひともライスを添えて注文していただきたい。

Copyright© 日本食文化観光推進機構, 2024 All Rights Reserved.