このページではこれまで、長崎のトルコライスや金沢のハントンライスなど、各地のご当地洋食を紹介してきた。今回は、石川県の隣県、福井県の越前市・武生を中心に地元で愛されているご当地洋食、ボルガライスを紹介する。
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トルコライスはイスラム国トルコでは忌避される豚肉を使った料理で、ハントンライスの「トン」は「マグロ」を意味するフランス語…どうにも、その料理名からは容易に味が想像できない。武生のボルガライスも同様だ。「愛すべきソウルフードを改めて地元の名物として調査・分析し、そして全国に打ち出す」ことを目指して設立された日本ボルガラー協会のホームページによれば、その名前の由来は、ロシア料理説、イタリア地方説、ボルガ川連想説など諸説あり、発祥の経緯も含めて分からないことが多いという。
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簡単に言うと「ライス・卵・とんかつ・お店のこだわりソース(カレーは除く)が重なり合った絶品グルメ」(日本ボルガラー協会)だという。紹介されている各店のボルガライスを見ると、確かに多種多様だ。かつのせオムライスのように見えるものから、カツ丼風まで、実に様々だ。とにかく武生を訪れて実際に食べてみることにしよう。
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まず訪れたのは、多くの神々を一社にまとめたという総社大神宮の参道にある「ヨコガワ分店」。「分店」を名乗るが、実は「本店」はもう存在しないとのこと。のれん分け、修業先への感謝を感じさせる店名からは、ご主人の人柄を感じさせる。
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それは、お店の人気ぶりにも表れる。とにかくすごい行列なのだ。参道脇の小さなお店、席数も限られ、調理とフロア1人ずつのオペレーションでは、おのずと提供数は限られる。それでも、長い時間待ってでも食べたいという人々の多さに「ヨコガワ分店」のボルガライスへの期待が高まる。
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待つこと約1時間。やっと「ボルガライス有り〼」のフラッグを横目に店内へと案内された。カウンターと小上がりだけのミニマムサイズのお店だ。カウンターにはステーキ用の鉄板も見える。しかし、使われてはいないようで、その上にコロナ感染対策のアクリル板が載せられていた。
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メニューを見ると、確かに一番上に「ステーキ」よ記されているが、やきめし、親子丼、スパゲッティなど「洋食屋」よりは「定食屋」に近いイメージだ。ただし、子供連れを除くすべての客がボルガライスを注文していた。店先のフラッグからも分かるように、店の看板メニューだ。
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狭い店だけに、カウンターからは調理の過程が丸見えだ。大量のチキンライスをひたすら炒める。頃合いを見計らって、フライヤーにはとんかつが投入される。大行列はもちろん自覚されてはいるのだろうが、その手さばきにあせりはない。悠然と、いや丁寧に調理に励む。たった1人で一度に多くのボルガライスを作るのにも関わらず、落ち着き払った後ろ姿だ。卵の割り方、かき混ぜ方、薄焼き卵の焼き方…すべてに無駄がなくていねいだ。盛り付けも一発で決まる。職人技の世界だ。
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運ばれてきたボルガライスの姿のなんと美しいこと。とんかつの頂から滑り落ちたソースが、薄焼き卵の山肌を駆け下りて、皿の湖に流れ落ちる。かつの一切れも崩れてはいない。ソースの飛びもない。ソースと皿との「喫水線」は芸術的でさえある。スプーンを入れるのをためらうほどだ。
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薄焼き卵にスプーンを入れ、中のチキンライスを確かめる。とても上品な味だ。トマトベースであることは想像できるが、ケチャップと言うよりはソースに近い味付けだ。スパイシー。チキンはかなり細かく刻まれ、それと気づかないほど。主役のかつを引き立てる演出だろうか。
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とんかつも厚からず薄からず。絶妙の厚みだ。多分これ以上厚くすると下品になり、薄焼き卵やチキンライスとのバランスが悪くなる。薄くなると安っぽくなると感じた。このかつと「オムライス」をひとつにまとめ上げるのがソースだ。デミグラス系の、それでいてトマトだろうか酸味も感じられる味わい。すべての要素が絶妙のバランスで組み合わされている。大行列もうなづける味だった。
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ボルガライスは、レギュレーションがややゆるめなのが特徴でもある。であれば「変化球」も試してみたい。次に向かったのは「ジャムハウス」。1階が駐車場で2階が店舗になっている。夜はパブスタイルの営業のようだ。店内には多くのポスターが飾られ、音楽も楽しめるようになっている。
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さすがに武雄だけあって、メニューの筆頭はボルガライス。しかもその隣には、ボルガハンバーグも並ぶ。せっかくなので、ボルガハンバーグを注文してみる。運ばれてくると結構なボリュームだ。ライスも多い。ハンバーグも巨大だ。
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薄焼き卵に包まれたライスは「ケチャップライス」と名付けられており、明確にケチャップ味だ。卵もやや厚めで食べ甲斐がある。ソースも明確にトマト味だ。ボルガライスではカレー以外のソースは許容されるので、トマトソースはありなのだ。ハンバーグにはよりトマトソースの方が合う気がした。
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ちなみにとんかつがのったボルガライスは、中のケチャップライスをピラフに変えることも可能だ。比較的「縛り」が緩いだけに、多様な楽しみ方ができるのもボルガライスの魅力といえる。